黄衣の王
新体操センバツ大会・当日。
都内にある会場「トーキョー・アリーナ」。
この日は日曜ということもあってか、同年代の観客の姿も多く見受けられる。よく見ると、『
ピピピピピピッ
『異常アリマセン。オ通リ下サイ』
入口のゲートで全身にセンサーを浴びせられ、危険な物を持ち込んでいないかチェックをされる。
異常がないことが証明されると、閉じていた扉が開いて、ようやく会場の中へと足を踏み入れることが出来た。
こうしたセキュリティーは、この時代では一般的になっており、ライブ会場や公的施設などのほとんどには優劣あれ、こうしたオートセンサーゲートが取り付けられていた。
一応、冒険者ライセンスを持っていれば、武器の所持が許可されている時代ではあったが、こうしたイベントなどが開かれる建物の中に入る際には、ライセンスがあるなしに関わらず、武器等の持ち込みは禁じられるのである。
「ほぇ〜……今の市民体育館って、こんなに綺麗なんだ」
前世でいうところの、最新鋭スタジアムぐらいの内装だ。これならば観戦に足を運びたくなるし、パフォーマンスをする選手たちもモチベーションが上がるだろう。
「こういう大会の応援に来るの、初めて?」
「うん。部活とか、経験してこなかったし」
「じゃあ、色々と教えてあげますか!まずは、タッチパネルで座りたい客席を指定します」
そう言いながら、ロビーに備え付けてあったコンピューターを手際よく操作していく神坂さん。
座席指定システムまで、あるのか。まるで、映画館だな。
「これで、よし……と。手頃なカップルシートを、抑えておいたよ」
「かかか……カップルシートですかっ!?」
「動揺しすぎでしょ。男女なんだから、カップルシートで良くない?深いこと、考えないの!ほら、行こっ」
手を繋がれて、指定した席まで連行される俺。
こういう時は男子がリードするものだろうに、情けない。
そんな二人が横切るのを見て騒ぎ始めたのは、月森に告白して見事に玉砕した相羽くんとその仲間たちであった。彼らも、応援に来ていたようだ。
「今の、“神坂ナオ”じゃないか?月森の友達の」
「月森の友達っていうか、陸上界では普通に有名人だろ。お前、本当に月森のことしか頭にねーのな」
「うるさい。だから、こうして応援に来たんだろ?てか……隣にいた奴って、神坂の彼氏かな?」
「俺が、知るかよ。手ぇ繋いでたし、そうなんじゃね?冴えない男だったけど、ああいうのがタイプなんかねぇ」
一方、その頃……「トーキョー・アリーナ」地下にある電気室。配電盤などが立ち並び、本来ならば立ち入ることさえ禁じられていた場所に二人の男女が身を潜めていた。
“霊園サダコ”と“猪狩ダイチ”。
霊園の【潜入】を使えば、こうした一室に忍び込むことなど簡単なことだった。
「センサーは、無事にすり抜けられたみたいだな」
「ええ。一見、ただの“本”だから……この、魔道書は」
「『黄衣の王』……だっけか。具体的な使い道は、分かってるんだろうな?」
「何となく、は。邪神を召喚して、恨みのある人物に罰を与えることが出来る……大体、そんな感じの内容だった」
特殊な古代文字で書かれていた魔道書を、図書館の文献を漁りながら、ようやく解読できた内容が、それだけだった。
むしろ、この短期間でそこまで翻訳できたことは凄いことなのだが、彼女はそんな自分の才能など気付くはずがなく。
「邪神ねぇ……胡散臭いけど、本当にやるのか?」
「……やるわ。さっき、相羽くんも
“レヴィアタン”の
「おー、怖い怖い。つーか、罰って何だよ?」
「さあね。呼び出してみれば、分かるでしょ……それより、レヴィさんは来てないの?今日は」
「自分の目的は達成したから、あとはご自由に……だとさ」
「そう。あなたは……どうして、ここに?」
霊園の問いに、猪狩はポリポリと頰を掻きながら答える。
「同じ共犯者のよしみだ。復讐の瞬間ぐらいは、見守ってやろうと思っただけさ」
「……共犯者、ね」
「そろそろ、大会が始まる時間だぞ」
「悪いけど、あなたは
ふぅと息を一つ吐いて、猪狩は黙って電気室から出て行くと、去り際に霊園へ言葉を残した。
「あまり、呑まれすぎるなよ……自分自身の“闇”に」
猪狩の言葉に一瞬だけ逡巡して、霊園は『黄衣の王』に手を伸ばし、恨みの念を込めた。
キイイイイイイン
黄色い光条で、床に五芒星の魔法陣が展開されると、魔道書の中から、黄色いローブを着た何者かが這い出てくる……それこそが、“黄衣の王”ハスターと呼ばれる邪神であった。
「貴様の私怨、受け取った。我が、その恨み……晴らしてやろうぞ」
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