月森家の事情・2

「はい」



「ありがと。植村くんの、おごり?」



「仕方ない……良いでしょう!」



「おぉ!ごちそうさまでーす」





 ちょうど、取材が終わった月森さんと再合流した俺たちは、学生店舗で美味しいと話題のソフトクリームを人数分、購入してきて噴水広場で食べることにした。季節は秋だが、まだまだ外は暖かい。


 この間の武術大会で懐も暖かった俺は、女子二人にご希望のソフトクリームを自腹で購入してあげた。




「ん、美味しい!話題になるだけ、あるわ〜」



「それ、マロン味だっけ?ちょっと、ちょうだい」




 木のスプーンで、互いのソフトクリームをすくって相手に食べさせている二人。これが、“てぇてぇ”というヤツか……!




「今日の特番って、いつ放送?」



「ん〜、二ヶ月ぐらい先だったと思う。とゆーか、見なくていいから!恥ずかしいし」



「いやいやいや!親友の特集なんだから、そりゃ録画してでもチェックさせてもらいますとも」



「も〜。あ、そういえば……お母さんと、話してたよね?変なこととか、言われなかった!?」




 思わず、それを聞かれた神坂さんは俺と目を合わせると、少し間を開けて質問に答えた。




「冒険者は先の見えない職業だってことを、プレゼンしてもらった……ぐらいかな」



「はぁ〜……ほんっと、ゴメン!お母さん、冒険者に良いイメージを持ってなくて。それもこれも、お父さんが原因なんだけど」



「あぁ……それも、聞いた。驚いたよ、ヒカルのお父さんがS級冒険者だってこともだけど、一夫多妻の権利とか本当にあったんだね」



「日本は、まだ寛容じゃない人の方が多いから……みんな、口外したがらないんだよ。でも、ちゃんと定期的にウチには帰ってきてくれるし、私からしたら不満は無いんだけどね。全然」




 さすが、月森さんは心が広いな。

 女の子とかだと、父親がハーレム作ってるなんて嫌悪感を露わにしそうなもんだけど。

 まぁ、今は未来の世界だし、そういう倫理観も変わってきているのかもしれないが。




「そうなんだ。でも、お母様はご立腹……と」



「一番、古参の妻だってのもあるかもしれない。一夫多妻制にも色んな形があるみたいだけど、お父さんは各地に家庭を持ってる感じだから、余計にね。全員、仲良く暮らせば良いんだろうけど……なかなか、難しいだろうから」



「……だってさ。植村くん」




 急に、俺へキラーパスを渡してくる神坂さんに、俺は食べていた抹茶ソフトをリバースしそうになる。




「げほっ、ごほっ……なんで、そこで俺!?」



「だって、ハーレムに興味津々だったようですから?参考にした方が、良いんじゃないかな〜って」




 にやにやと悪戯っぽい笑みを浮かべて、からかってくる神坂さん。本当に、あれは失言だった。

 さすがに、月森さんも気になったようで。




「えっ!?植村くんも、一夫多妻ハーレムを作りたいの?」



「ち、違うよ!そもそも、彼女すらいないんだから、ハーレムなんて作れるわけないから。いや、そもそも……S級冒険者にだって、なれるかどうか」




 俺の答えに、二人の女子は顔を見合わせて、苦笑いを浮かべた。それは、どういう意味のアイコンタクトなんですかっ!?


 すると、月森さんが俺に向かって。




「もし、ハーレムを作ることになったら、平等に愛を振り分けてあげるんだよ?そうしないと、うちのママみたいなモンスターが誕生しちゃうかもだから」



「え……あ、はい!肝に銘じておきます!!作る気は、ないですけどね。うん」




 そういえば、ウチの父親もS級冒険者だったっぽいけど……まさか、な。だから、我が家に帰って来たことがないのか!?

 けど、母さんは今でもラブラブっぽかったし。


 そんなことを考えてると、神坂さんが話を元に戻した。




「でも、ヒカル……冒険者一本で、やっていくつもりなんでしょ?あのお母様から、許可は貰えるの!?」



「えっと、それが……まだ、反対されてて。ずっと、説得は続けてるんだけどね」



「やっぱりか〜。そりゃ、あんな感じだったら反対されるよね。どうするつもり?」



「私の気持ちは、変わらない。次の大会で、最高の成績を残して……それを、お母さんへの最後のプレゼントにして、新体操とは決別する!だって、これは私の人生だもん」




 月森さんのかっこいい言葉に、俺と神坂さんは素直に感心すると、ソフトクリームを持ちながら自然と拍手を送っていた。





「ちょ、やめてってば。だからさ、今度の大会……絶対、見に来てね?二人がいると思ったら、私も勇気を貰えるから!色んな意味で」



「もちろん、行くに決まってるでしょ。新体操も、お母様への直談判も……両方、応援してあげる!だから、頑張って?ヒカル」



「うん!ありがとう、ナオ」




 月森さんが、今度は俺の方をジッと見つめて、アンサーを求めてきている。




「俺も、絶対に行きます!単純に、月森さんの演技を一度はちゃんと見てみたいと思ってたところだったし。めちゃくちゃ、応援するから!!」



「……嬉しい。良かった、ありがとう」

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