月森家の事情・1
「最近、健康な食生活を心がけてるんだよね〜。朝から、スムージー作るのにハマってて」
「へぇ〜。なんか、“女子”って感じだね」
「なに?私は、女子っぽくないって!?」
「いやいやいや!女子っぽい、女子っぽい。性格は、まぁ……ちょっと、男っぽいとこあるけど」
最初の方こそ、真面目に文化祭の計画を練っていたが、気付けば神坂さんとの雑談に花を咲かせていた。あまり、異性の子と普通に話す機会も少なかったので楽しかったのもあるし、神坂さんの人となりも知ることが出来て、これはこれで有意義な時間だった。
「競技の世界にいたせいなのかな……やっぱり、男っぽい?私って」
「うーん、少しね。でも、そこが神坂さんの良いところでもあるし、気にしなくてもいいと思うよ」
「そ、そう?植村くんが、そう言うなら……良いか、って!もう、こんな時間!?」
時計を確認して、驚く神坂さん。
気付くと、同じく話し合いをしていた他の班の人たちの姿も教室から消え、すっかり日まで暮れかけていた。
「はは……すっかり、話し込んじゃったか。そろそろ、帰る?」
「うん、そうしよっか。めちゃくちゃ、脱線しちゃった……ごめんね?なんか」
「全然!凄い、楽しかった。神坂さんのことも、知れたし」
「朝は、スムージー作るタイプだった……って?あははっ、知ったうちに入らないでしょ!それぐらい」
こ、これは……めちゃくちゃ、楽しいんですけど!教室で、女の子と何気ない雑談してるだけなのに。これが、俺の求めていた“青春”なのかッ!?
「もしもーし。なに、噛み締めちゃってるの?早く、行くよ〜」
「あっ、はい!」
二人で昇降口を出ると、カメラの機材などを抱えた撮影クルーと思わしき一団がいて、周りには野次馬の生徒たちが、たむろしていた。
朝は盗難事件、夕方はテレビ撮影か。『
見ると、インタビューを受けていたのは新体操のレオタードに一枚上着を羽織った月森さんのようだった。演技を披露した後なのだろうか?これが、どうやら例の特集番組らしい。
神坂さんも人混みの間から、親友の姿を見つけたようで。
「まだ、やってたんだ。ヒカルも、大変だねぇ」
こうして見ると、本当に有名人なんだと実感する。何気に、俺の周りって人気者が多いんだよな。
そんなことを考えてると、綺麗な大人の女性が神坂さんに話しかけてくる。
「神坂ナオ……さん、よね?」
「えっ、あ……はい。そうですけど」
「はじめまして、ヒカルの母です。娘から、あなたの話は良く聞いてるわ。ルームメイトで、お世話になってるって……いつも、ありがとうね」
「えっ?ヒカルのお母様!?こ……こちらこそ、いつもお世話になっております!はい」
月森さんのお母さんだったのか。やはり、美人の家系なんだなぁ。娘の撮影を、見学しに来たのだろうか。
「陸上界では有名な子だから、すぐに分かったわ。どう、最近は?」
「あ〜……実は、陸上からは足を洗ったんです。今は、冒険者一本で頑張っておりまして」
「あら、そうだったの……もったいない。せっかく、才能があるっていうのに」
「いえいえ。私なんて、全然ですから……」
突然、月森のお母さんは険しい表情に変わると、辛辣なことを語り始めた。
「冒険者なんて、今はチヤホヤされているけれど、先行きの見えない不安定な職業じゃない?そんなものに、若い頃の大事な時間を費やすなんて、私は無駄だと思うけどねぇ」
「そ、そうですか……ね」
「だって、そうでしょう。もし、ゲートが出現しなくなったら?冒険者なんて、必要じゃなくなる。ニートのようなものだわ」
悔しいが、言ってることは確かに正しい。
そもそも、何で出現してるのかすら不明なゲート。
いつ、急に現れなくなるかも分からない。
もしくは、ラスボス的な存在がいて、そいつが倒されるまで?だとしても、それからの冒険者たちに必要価値は無くなるかもしれない。
「正義のヒーローと同じね。怪人がいるからこそ、ヒーローは成り立つの。怪人がいない世界に、そもそもヒーローは必要ない」
「じゃあ……ヒカルが冒険者になろうとしているのも、反対なんですか?」
「もちろんよ」
「確かに、不安定な職業なのは認めますけど……ヒカルのお父さんも、冒険者だったはずなのでは?」
神坂さんの質問に一瞬だけ沈黙すると、月森さんのお母さんは重々しく口を開いた。
「そう、S級の冒険者よ」
「え、S級!?凄い……!」
「冒険者としての実力は、ね。ただ、父親としての甲斐性は皆無だった。今は、他の家族のところで悠々自適に暮らしてるのが、その証拠」
「それって……浮気とか、そういうことですか」
女子だからこそ、切り込める質問だ。俺だったら、怖くて聞き出せない。
「正確に言うと、浮気じゃない。知ってる?S級冒険者には、一夫多妻制の権利が与えられる、という話」
「えっ!それ、都市伝説じゃなかったんですか?ハーレム!?……はっ」
思わず、声が出てしまった俺に、月森ママと神坂さんの冷たい視線が突き刺さった。
とんでもないタイミングで、割り込んでもうた。
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