ホームルーム

 朝、『冒険者養成校ゲーティア』の校門をくぐろうとすると、校舎が何やら騒がしい。

 近寄ってみると、制服を着た専門業者のような人達が、慌ただしく校舎内を出入りしていた。


 何の事態かと思っていると、ちょうど“何でも知ってる悪友くん”こと、先に野次馬していた三浦レイジの姿を発見する。




「おはよーさん。何なんだ?あの人たち」



「ユウトか。あれは、おそらく……鑑識の連中だ」



「鑑識?警察の!?」



「学園の宝物庫に、何者かが侵入したらしい。その際に何点か、保管してあった秘宝を盗まれたようだ」




 相変わらずの、情報収集力。

 しかし、学園に宝物庫なんてあったんだ。知らなかった。

 すると、野次馬生徒たちのもとにミドルクラスを受け持つ田中イチロー教諭がやって来る。




「ほらほら、見世物じゃあないんだ!とっとと、教室に行った行った!!」




 仕方ないといった感じで、蜘蛛の子を散らすように生徒たちが散開していく中、図太く残った悪友が田中先生に尋ねた。




「先生。犯人に心当たりは、ついてるんですか?」



「えっ?まぁ、ここは孤島だからね……内部にいる学園関係者の誰かなんじゃないかと、考えてる。って、いいから!キミたちも、行きなさい!!」




 質問するレイジもレイジだが、田中先生も口が軽すぎるだろ。

 内部の犯行ってことは、生徒か教師の中に犯人がいるかもしれないのか。一応、出入り業者もいるし、外部の人間って線も捨てきれないけど。

 まぁ、俺は名探偵の孫でも何でもないので、考えたって分かるわけはないのだが。


 言われた通りに退散し、下駄箱から取り出した上履きへと履き替えながら、俺はレイジに声をかけた。




「盗まれた秘宝って、どんなのなんだろうな。厄介な物じゃなければ、いいけど」



「わざわざ、学園の宝物庫に忍び込むというリスクをおかしてるんだ。それなりに、厄介な物だろ。意外と、高レベルの秘宝アーティファクトを有してたりするからな。ここは」



「そうか……まぁ、そうだよな」




 盗まれた秘宝が分かれば、俺の【ナビゲート】で捜索できるかなとも思ったが、変に首を突っ込んで、学園から目をつけられても困る。

 ここは、本職の鑑識プロたちに任せるのが最善か。物探し特化のユニーク持ちぐらい、何人か雇っていることだろうし。



 ローAの教室に着いても、盗難事件の話題で持ちきりだったが、いざ始まったホームルームの議題に、あっという間に生徒たちの興味は掻っ攫われる。




「本日は、来月に行われる『冒険者養成校ゲーティア』の文化祭「勇凛祭ゆうりんさい」のクラス出し物を決めたいと思いま〜す。アイデアのある方は、どんどんと意見を出して下さいね!」





 おおっ!青春の代名詞のような一大イベント、キター!!


冒険者養成校ゲーティア』のことだから、またダンジョンと絡めたようなイベントになるかと恐れていたが、どうやら古き良き文化祭スタイルらしい。

 冒険者の卵といえど、ちゃんとした学生行事も残してくれているのは、ありがたい。


 普通の学校ならば、こういう時に意見などは出ないものなのだが、さすがは未来の冒険者たち。

 次々とアイデアが出されると、明智委員長が一つ一つタッチペンで3Dスクリーンに意見を書き込んでいく。




 山田ジュウゾウくん。

おとこは黙って、ふんどし太鼓だろ!」


 女子どうすんねん。そもそも、それなに?



 綾小路レイカさん。

「私が一流シェフを呼んで、出張の三つ星レストランを開くのはいかがかしら?きっと大盛況、間違いなしですわ〜!」


 大盛況するでしょうけど、俺らのいる意味とは。



 霧隠シノブくん。

「適当な展示物でいいだろ。すぐに終わるし」


 今時の子!そういうの大人になって、後悔するよ〜?



 三浦レイジくん。

「メイド喫茶。一択だ」


 カッコつけて言うな!ただ、女子のは見たい。



 朝日奈レイさん。

「カラオケ大会!100点を取ったら、賞品とか?」


 まぁまぁまぁ、すぐに出来そうだし悪くない。



 上泉マコトくん……いや、“さん”か。

「えっと、うーん……無難に、演劇とかかな」


 定番だけど、思い出に残るよな。なかなか、良い。



 龍宝サクラさん。

「たこ焼き屋さんとか、どうでしょう。色んな具材とかを持ち寄って、やってみるのは」


 これも、定番だね。ただ、学生店舗があるからなぁ……この島は。



 神坂ナオさん。

「お化け屋敷!ARとか使ってさ、思いっきり怖いの作ってみない?」


 なるほど。この時代の技術を使えば、文化祭のお化け屋敷といえど、迫力は出そうだな。



 月森ヒカルさん。

「一緒に、ダンスを踊るとか良くない?大変だけど、団結心も生まれるし」


 確かに、思い出には残る。ただ、ダンスに自信がない……月森さんに、教えてもらえるなら。まぁ。



 明智ハルカさん。

「植村くん」


 植村くんね、これも定番……じゃない!俺のことじゃ!!




「はいっ!何でしょう!?」



「植村くんは、ずっと黙って頷いてたけど……何か、意見はありますか?」




 やばい。他人の意見を心の中で批評してたら、自分の意見なんて全く考えてなかったぞ。

 まさか、ピンポイントで狙い撃ちされるとは。




「えっと……メイド喫茶。執事も添えて?」




 結果、絞り出したのは悪友の意見にトッピングを加えたものだった。俺に、他人の意見を評価する資格なし……ごめんなさい。






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