潜入

 深夜。『冒険者養成校ゲーティア』地下にある宝物庫に、三人の生徒たちが忍び込んでいた。




「本当に、大丈夫なのか?もし、先生にでも見つかったら……」



「男のくせに、ビビりすぎ。一応、外で私の仲間が張っててくれるから、すぐに監視が来ることはないよ」



「仲間って……アンタら、何者なんだよ。何かの、組織なのか?」



「それは、聞かないお約束。世の中には、知らなくて良いことってのも、あるんだよ?ボウヤ」




“レヴィアタン”に釘を刺され、猪狩は次の言葉を飲み込んだ。

 宝物庫の前まで来るのにも、様々な最新技術によるセキュリティーが働いていたが、その全てを彼女が様々な秘宝アイテムを駆使して無効化したのを目の当たりにし、彼も警戒心が強まっていた。

 それだけの秘宝コレクション、個人で所有していたとしても相当な実力者ということになるし、団体の所有物だとしても大規模な一団であることは間違いない。




宝物庫ここの扉も、アンタの持ってる秘宝アイテムを使って、どうにか開けることは出来なかったのか?」



「それが無理だから、あの子に頼んだんでしょ。この扉は、今までの化学的なモノとは違って、がされている。それが誰かのユニークによるものなのかは分からないけど、外側からじゃ一切の干渉が拒絶されてしまう」





 すると、その扉の中からスゥッと、まるで幽霊のように“霊園サダコ”が出て来ると……。




「言われた通り、中の防犯機能は解除してきました。これ、お返しします」




 霊園は、レヴィから借り受けたスプレー型の秘宝『トラップ・イレイザー』を手渡しで返した。




「ご苦労さま。それじゃ、私たちも入りましょうか」



「えっ、待てよ……その扉には、まだ施錠が!!」





 心配する猪狩に、仮面に覆われていた顔の中、一部だけ露出されていた口元がニコッと微笑みを浮かべると、まるで友人の部屋にでも入って行くように、彼女はあっさりと宝物庫の中に足を踏み入れた。


 恐る恐る、レヴィに続いて猪狩も中に入ると、何事もなく宝物庫へ侵入することが出来たのだった。




「さっきのスプレーは散布することで、一定の広さの空間内にある全てのトラップやロックを無効化してしまうっていう秘宝アーティファクト。使い所は難しいけど、やりようによっては役立つ……レベル1のダンジョンでは、そういったアイテムがゴロゴロしてるわけ」




 レベル1のダンジョンで入手できる秘宝アーティファクトというのは、たまに便利なアイテムが見つかったりするものの、ほとんどはニッチな使い道の物が多く、初〜中級者帯の冒険者たちは入手したとしても、すぐに冒険者専用のフリーマーケットなどに出品して、活動資金に変えてしまうことが多かった。

 だからこそ、レベル1の秘宝アイテムだけは現実世界でも集めることが比較的に容易ではあったのだ。




「今回は、霊園のユニークスキルと併用することで、そのレベル1の秘宝が日の目を見た……って、ことか」



「そういうこと。いかなる探知にも知られることなく、任意の場所に忍び込むことが出来てしまうスキル……【潜入】。泥棒稼業の人間なら、金を積んででも欲しがるようなユニークだよね、ホント」




 二人が話してると、もう一度、扉をすり抜けて、“霊園サダコ”が中に入って来る。




「やっぱり、良くないと思うわ……こんなこと」



「今更、後悔しても遅いっつの。もう、私たちはなんだから。最後まで、計画を実行するしか道は残されてないの。覚悟を、決めなよ」



「う……うん」




 圧を出して強引に霊園を黙らせると、レヴィは両手を擦り合わせながら、宝物庫の中を物色し始めた。




「さて、と……各々、三分以内で目当ての物を探して。それ以外には決して手を出さないこと、いいね?」




 レヴィの言葉に、猪狩と霊園は共に顔を見合わせてから、彼女に頷き返した。


 この学園は、多数の大手ギルドからの協賛を受けており、その際に冒険者教育に使えそうな秘宝アーティファクトを提供されることも少なくない。

 ここには、そういったものが多く保管されていた。




「あった……俺の探していたもの」




 猪狩が手を伸ばしたのは、『魔剣ダインスレイヴ』。そう、柳生ムネタカが武術大会に持ち込んだ際に、学園側が没収したレベル4の呪具であった。




「私は……これ、で」



 霊園が選んだのは、黄色いカバーの古びた魔道書。それは『黄衣こういの王』と呼ばれる召喚器であった。




「あった、あった。コレ、か」




 最後にレヴィが選んだのは、見た目は何の変哲もない全身鏡。

 それは『インクリース・ミラー』と呼ばれる、映し出した物体を複製して増殖させることができる、魔法の鏡であった。


 目当ての秘宝を発見したレヴィは、何やら仲間に通信を始める。




「マモン?こっちは、終わった。今から、帰るよ」



「了解。指定の場所で待っている」



「つーか、デカすぎ!手鏡だと思ってたのに、全身のヤツなんだけど。こんなん、か弱い女子に運ばせんなっつの」



「文句なら、ルシファーに言え。それに……それぐらい、お前なら楽勝で持てるだろ?じゃあな」




 一方的に通信を切られたレヴィは、チッと舌打ちしながら、自身の右腕を黒く変色させると、目の前にあった自分の身長ほどはある大きさの鏡を軽々と片手で持って、肩に担いでみせたのだった。







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