告白
放課後……『
“上泉マコト”の前にいたのは、恋文をくれた“西園寺トモミ”だった。周りには、二人以外に誰もいない。
「ごめんなさい!この通り、実は僕……女だったんだ。本当に、ゴメン!!」
突然、呼び出された相手が、急に女子の制服を着て、動揺を隠せずにいた西園寺だったが、誠意を込めて謝罪されると、意外にすんなりと受け止められることが出来たようだった。
「驚いた……けど、納得した。こんな可愛い男の子、いてたまるか!って思ってたから……ふふっ。女の子って聞いて、ちょっと安心」
「あ、ありがとう……そういうわけだから、キミの気持ちには応えることが出来ないんだ。ごめんね」
「もう、謝らないで?薄々、断られるとは感じてたから……まさか、こういう理由でとは思ってなかったけど」
すると、彼女は自分のカバンの中から一枚の紙を取り出して、マコトに差し出した。
それは、テープで丁寧にツギハギされた、あの時のラブレターであった。
「これ……せっかく、直したから。受け取るだけ、受け取って欲しい。持ち帰ったら、捨てちゃって構わないよ。これは、ただの私の自己満足。最後のワガママだと思って?」
「わかった……絶対、捨てないよ。大事に、取っておくから」
「上泉くん……あっ、“くん”じゃないよね。“さん”、か」
「上泉くんで、いいよ。西園寺さんだけは、その呼び方のままで」
マコトの優しい口調に、必死に誤魔化していた感情が少しずつ溢れてきて、それが一粒の涙となって彼女の頬を
「私……初恋の相手が、あなたで良かった。男とか、女とか関係ない。私は、“上泉マコト”っていう人間を好きになったんだなって、今、思えました」
「ぼ、僕の方こそ!キミの告白から、勇気をもらって……こうして、事実をカミングアウトする気になったんだ。だから、ありがとう!!僕なんかを、好きになってくれて」
二人は自然と微笑み合うと、最後は上泉が伸ばした手を彼女が握って、それが別れの挨拶となった。
図書委員だった彼女が大量の本を抱えて運んでいた時、ふと通りかかったマコトが助けてくれた……それが、西園寺が恋に落ちるキッカケだった。
些細なことかもしれない、マコトにとっては覚えてもいないぐらい当たり前のことだったのかもしれないが、その行動だけで“上泉マコト”という人柄の良さを感じて、惹かれたのかもしれない。
そんなことを回想しながら、西園寺トモミは流れてくる涙を手で拭いて笑顔で前を向くと、胸を張って歩き始めた。
その頃……。
「そっか……上泉くん、告白されてたんだ」
「うん。今頃、女の子だったって、打ち明けてる頃じゃないかな」
「うわぁ……なんか、その子の気持ちに感情移入しちゃうな。胸が、苦しくなってくる」
珍しく、月森さんと二人で帰宅を共にしていた俺は、マコトが告白された話題を交わしていた。
「まぁ、確かに……切ない話では、あるか」
「私も、同じような経験があるからさ。余計に、ね?」
そう言って、彼女は俺の顔を下から覗き込んできた。「覚えてる?」という言葉が聞こえてくるような表情だ。もちろん、忘れるわけがない。
「あはは……あの時は、どうもです。貰った手紙、ちゃんと大切に保管してあるよ」
「ウソ!?本当に?」
「ほんと、ほんと。だって、あんなの貰ったの初めてだったし……単純に、嬉しかったから。あ、もしかして、気持ち悪い?」
「ううん!嬉しい。最悪、忘れてるんじゃないかと思ってたぐらいだもん」
「いやいや。絶対、忘れませんって」
俺の答えに、彼女は満足そうに「ふ〜ん」といった感じに絶妙な顔をしている。正しい解答を選択できたようだ。
まぁ、実際に忘れるわけないほど、印象的な出来事だったからな。誰かに、告白されるなんて。
そういえば、あの気持ちは今でも変わってないんだろうか。聞きたいけど、そんな勇気はない。
「そういえば、植村くん!」
「はいっ!な、何でしょう!?」
「なんで、誘ってくれなかったの?植村くんのギルド」
「えっ!?いや、誘おうと思ってたよ!ただ、月森さんは部活もあるし、落ち着いた頃が良いかな〜……と」
今度は、ジト目で睨んでくる彼女。こんなに表情が豊かだったっけ?何にせよ、可愛い。
「ほんとに〜?私は、いつでもウェルカムだったんだけどなぁ」
「えっ、そうだったの!?」
「うん。実は、来月に大きな大会があるんだけどね……そこで、新体操は一区切りにしようかな。と、思ってるんだよね」
「え、本当に!?」
「これ以上、二足の草鞋を履くのは、どっちも中途半端になりそうで……新体操で世界を目指すにも、冒険者として有名になるのも、両立しながら出来るほど甘い世界じゃないのは分かってる。だから、一本に絞ろうかと思ったの」
新体操より、冒険者の道を選ぶってことか。
月森さんなら、どちらでも大成しそうではあるけど、ここまで頑張ってきた競技を捨てるのは、相当な勇気がいったはずだ。
「だから、今度の大会……植村くんには、応援に来て欲しいな。最後の私の勇姿、見届けて欲しい」
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