6人目

 ホームルームが終わると案の定、カミングアウトしたマコトのもとに仲の良いクラスメイトたちが集まって、質問攻めをしていた。




「それじゃ、学園長にも許可は貰ってあるんだ?」



「うん。今朝、事情を説明したら、本人が良いのなら特別に許可をしてくれるって……急遽、僕のサイズに合う制服も取り寄せてくれたんだ」



「へー……怖そうな見た目の割に寛容なんだ、あの学園長ひと。良かった、良かった」




 さらっと学園長をディスる神坂さんに、苦笑いを浮かべながらマコトが続ける。




「一応……色々と、条件は出されたけどね」



「条件……例えば?」



「まずは即刻、男子寮から退居すること。まぁ、当然なんだけど……」




 その言葉に、ハッとした朝日奈さんが厄介なことに気付く。




「あー!そうじゃん、マコトくん……確か、ユウトのルームメイトだったよね!?」



「え、あー、うん、そう、だね。はは……」




 少し離れた場所から見守っていた俺へ、一斉に彼女らの視線が向けられる。

 まず、尋問官のような眼光の神坂さんから質問が飛んできた。




「植村くん……もしかして、知ってた?」



「な、何を?」



「とぼけない!上泉くんが、女の子だってこと……知ってたの!?」



「ちょ……ちょっと前から知っては、いました。はい。はは」




 更に、ご友人の月森さんも参戦してきて。




「つまり、女の子と知った上で、同棲生活を送っていた……と」



「いや!違う……違わないけど、変なことはしてなきから!!神に誓って!!!」



「ほーう。とは?」



「あ、いや……してないので、詳しく聞かなくても良いのでは……」




 窮地に立たされた俺を、マコトが慌てて救いの手を差し伸べてくれる。




「えっと!ユウトは、一緒に住むのには反対してたんだよ。僕がワガママを言って、黙ってルームメイトを続けててもらったの……もちろん、そのあとは変わらず男友達のように接してくれてた!!」




 マコトの後ろで必死に首を縦に振る俺の姿を見て、女子たちは納得してくれたようで、いつも通りの笑顔に戻ってくれた。




「上泉くんが、そこまで言うなら……なーんて。初めから疑ってないから、大丈夫だよ!ちょっと、植村くんをからかってみただけ。ね?ヒカル」



「ふふっ、うん!変なことするような人じゃないって、信じてるから。私たち」




 その割に、だいぶ“圧”があった気がするけど……信じてくれてるという言葉は嬉しいので、良しとしよう。


 そこへ、荒れた場をサクラが元の話の筋に戻してくれた。




「じゃあ、今日から女子寮にお引っ越しですか?上泉さん」



「あっ、うん!多分、同じ部屋になると思う。転校生で一人部屋なの、龍宝さんだけだって言ってたから……学園長が」



「えっ!私と、同室になるんですか!?」



「多分、今日から……大きな荷物は、後で届く感じになると思う。ごめんね、急に。今まで、男のフリをしてた人間なんかと、ルームメイトなんて。イヤだよね?」



「いいえ、全然!上泉さんは、良い人ですし……一人じゃ寂しいと思っていたので、むしろ嬉しいです!!」




 サクラと同室か。波長は合いそうな二人だし、上手くやっていけそうだ。

 と、いうか……今日から、俺が一人部屋になっちゃうのか。広く使えるのは良いけど、確かに寂しくはなりそうだなぁ。


 すると、ニヤニヤしながら悪友が、からかってきた。




「んん、どうした?急に、寂しくなってきたか。何なら、たまに遊びに行ってやってもいいぞ」



「はいはい。お気持ちだけ、受け取っておくよ」




 そんな俺たちの会話を聞いて、ふとマコトが本音を口にした。




「僕は、別に……ずっと、ユウトと同じ部屋でも良かったんだけどなぁ」




 そんな彼女に、女性陣たちが一斉に反応を示す。




 神坂さんは、ハァと溜息を吐いて顔を横に振りながら。


「マコト……お前もか」




 月森さんは、マコトの机に顔を突っ伏せて。


「また、増えたぁ……」




 サクラは何も分かってないようで、呑気のんきに。


「楽しそうですよね!私も男の子だったら、ユウトさんとルームメイトになりたかったなぁ」




 そんな三者三様のリアクションに、何のことだろうと首を傾げながら、マコトは助けを求めるように俺の顔に視線を移した。




「もしかして、僕……変なこと、言っちゃった?」



「え……いや、別に。言ってないと思うけど」




 すぐさま、月森さんと神坂さんが声を同調させた。



「「言っとるわ!!」」



「えっ、えっ!?なんか……す、すいません!」



 わけも分からず、とりあえず俺が謝ると、やれやれといった表情で、神坂さんが続けた。




「まぁ、いいけど。キミが鈍感なのは、今に始まったことじゃないし……あ!そういえば、上泉くんのこと誘ったの?私たちのギルドに」



「あ、忘れてた」



 柳生くんのことで色々とゴタゴタしていたから、すっかり忘れてしまっていた。

 すると、マコトの方から食いついてくれて。




「なに?ギルドって!?」



「俺が設立したギルドに、マコトを勧誘しようって話。認可してもらうには、あと5人のスタートメンバーが必要なんだ。すぐに返事しろとは、言わないから……」



「あぁ、交換条件だったもんね!もちろん、入るよ。と、いうか……入らせて下さい!!」



「返事、はやっ!でも、マコトの実力だったら五大ギルドから、スカウトが来たりするかも……」



「ううん!僕は……ユウトと一緒に冒険したい。だから、お願い!!」




 こうして、あっさりと新メンバーの加入が決まった。なんか、最後は逆オファーみたいになってしまったが、スイーパーとしては将来有望な冒険者だ。

 これは『アルゴナウタイ』にとっても、貴重な戦力となってくれそうである。



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