下剋上・3

 試合を止めようと、倒れた天馬の様子を伺いに審判が近寄ろうとした、その時……!


 膨大な紅蓮のオーラを放ちながら、“天馬カケル”は立ち上がった。赤い髪は逆立ち、瞳の色も赤みを帯びている。

 何より、“白鷺マイア”が木刀とはいえ、急所に向けて的確に打ち込んだ連撃を受けて、まるでかのように、彼は再び木刀を構えたのだった。




「やはり、対戦相手に学園長あなたを選んで正解でした。初めてですよ……人間相手に、この特性ちからを使うことになったのは」



「まさか、回復のすべまで身に付けていたとはな……底が知れん奴だ」




 天馬カケルのユニークスキル【勇者】の特性は、主に三つある。



 其の一、『万能の加護』。

 あらゆる基本スキルを高水準まで上昇させることができる才能の恩恵。彼が、複数の精霊との干渉が出来るのも、実はのお陰であったりする。

 この特性と、本人のたゆまぬ努力の成果で、彼は若くして様々な武器術や体術に精通していた。



 其の二、『生ける伝説』。

 この特性を使用することで、彼の持つ武器の類は、全て伝説級の武器と同等の力を得る。攻撃力は跳ね上がるが、脆く壊れやすくなってしまう為に、使い所を見極める必要がある。

 稀に特殊な武器の中には、この力を使うことで存在自体が進化を遂げるものも存在する。



 其の三、『不死鳥の魂』。

 一日に一度だけ、命の危機に瀕した状況で発動する自動回復の恩恵。ただ傷を癒すだけではなく、それから一定の間だけ闘気オーラの総量と全能力が跳ね上がる。

 危機の時こそ本領を発揮できる、まさしく勇者然とした特性だといえるだろう。



 まさしく、この瞬間……彼が発動させた特性こそ、『不死鳥の魂』なのであった。

 学園長の実力が、図らずも彼の覚醒を引き起こしてしまったのである。



 相手からすれば、厄介この上ないだろう。

 ただでさえ強力な勇者を、ようやくギリギリまで追い詰めたところで、真の第二形態が出現するのだから。

 その光景は、まるで勇者というよりは魔王というべき姿に見えていても、おかしくはない。




 スッと持っていた木刀を、まじまじと見つめて、高rankの【鑑定】を使用し始める天馬。




「そろそろ、コイツも限界間近か。そうなると……次で、決めるしかなさそうだな」




 そう言って、彼は耐久値が低くなった木刀に“伝説化”を施して、最後に限界以上の力を発揮させる。




「また、大技か。あまり、無礼なめるなよ……この私を」



無礼なめるなど、とんでもない。尊敬の念を持ってるからこそ、を放とうと決めたんですから」




 紅蓮から黄金へ、輝かしい金色の闘気オーラが、“伝説化”された彼の木刀へと集まっていく。


 もちろん、それを黙って待っている学園長ではない。すぐさま、彼女も自身の【魔眼ユニーク】を発動させようとする。




「タキサイキ……ぐっ!?」




 しかし、【魔眼】は発動する前に、強制的に中断されてしまった。


 その原因は、技を溜めている天馬から放たれる異常なまでの“威圧感”により、全身が動かなくなってしまったからである。


 その予備動作『咆哮エキゾーストノート』は、直線上にいる全ての敵に指向性を持った強力な威圧を放ち、行動を阻害させる効果を持っている。

 これにより、チャージ時間を稼ぐことと、その大技を回避不能な状態にさせることの二つを両立させていた。




「地将剣……」




 動けなくなった学園長に向かって、木刀を構えながら駆け出す彼の周囲には、獅子の形をした黄金のオーラが纏われていた。


 そして、ある程度の助走の後、フワッと両足を地面から離すと、自身の作り出したオーラが、まるで補助促進ロケットのように天馬の身体を押し出すと、宙に浮いたまま彼は学園長に攻撃が届く範囲にまで接近していく。




ゴオッ!!!




「くっ!七曜術が、ひとつ……金星ナーヒード!!」





 ギリギリで身体が多少は動けるようになったものの、今からでは【魔眼】による回避も間に合わない。咄嗟に彼女は、さきほど披露した防衛術を展開させる。




「……ライオンハート!!!」




 バリンッ!!!




 その強力な一閃は、いとも容易く“金星ナーヒード”のバリアを破ると、彼女に命中……は、せず。

 学園長の眼前で天馬が木刀を寸止めすると、その大技による代償か、彼の武器はサラサラと木屑となって、その手からこぼれ落ちていった。




「参った……私の負けだ。悔しいが、な」




 彼女のギブアップ宣言を聞くと、彼は一歩だけ後ろに下がり、敬意を込めて頭を下げた。


 あの一撃を振り下ろされていれば、下手すれば彼女の命どころか、後ろにいた観客たちにまで被害が及んでいたかもしれない。

 それだけの威力であるということは、一流の冒険者だった学園長や審判が、すぐに理解していた。




「勝負あり!勝者……天馬カケル!!」




 朝倉審判のジャッジに、シーンと固唾を呑んでいた会場が一気に解放され、大歓声と拍手喝采が巻き起こる。

 それは、勝者の天馬カケルにはもちろん、敗者である白鷺マイアにも向けられた、賞賛の反応であった。



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