北斗ユウセイ
結界が解かれると、教師たちがリング上へと駆け寄って行き、気を失った柳生を介抱しながら、落ちていた魔剣を慎重に回収した。
「只今の試合は上泉マコト選手の勝利と思われましたが、想定外の事態が発生した為、正式な結果は後ほど……厳正な協議の上、発表したいと思っております。以降の試合は、予定通り行うことが出来そうですので、今しばらくお待ち下さい」
運営からの迅速なアナウンスが会場に響き、ザワついていた観客席も次第に落ち着きを取り戻していく。
呆然としながらリングから自分の足で降りていく“上泉マコト”には、万雷の拍手と女子たちの黄色い歓声が送られた。
頭角を現した美少年剣士に早速、ファンがついたらしい。正確に言えば、美少女剣士……なのだが。
そんな様子を、会場の一番上の客席後方で見下ろしていた人影が、不服そうに独り言を呟いた。
「情けない。虎の子の魔剣を渡して、このザマとは……シン陰流の
その男・柳生マサカドは、ふと近くに歩いてくる気配を感じて振り向く。
「やはり、黒幕はアンタだったか。負けそうになったら、あの魔剣を使ってでも勝て……ってか?」
「誰かと思えば……また、貴様か。三流剣士」
そこにいたのは、北斗ユウセイだった。
観客席の一番上ということもあり、周りにはその二人しか見当たらず、誰もその邂逅に気付かない。
「闇の耐性を持たぬ者が強力な魔剣を使えば、精神を支配され……最悪の場合、後遺症が残るケースも少なくない。それを分かってて、自分の息子に“あんな物騒なモン”を渡したのか?」
「それぐらい、知っておるわ。あんな無能に公衆の面前で負けるということは、我が流派からすれば死ぬことよりも恥ずべきこと。何としてでも、勝たなければならんかったのだ!アイツだって、それは分かっていたはず!!」
「……ふざけんなよ?弟子の命より、流派の
「ふん。言わせておけば、キャンキャンと……学生がたったの三年間で習得できるような粗末な剣技を自慢げに引っさげておいて、偉そうに!この私に高説を垂れるなど、笑止千万。格の差というものを、見せてやろう」
おもむろに腰の真剣を抜き、切先をユウセイに向けるマサカド。それを見て、彼は咥えていた
「おいおい。こっちは、木刀しか持ってきてねーってのによ……ちっ、仕方ねぇか」
「愚かな。常在戦場……そういった気の緩みこそ、貴様が三流たる
「はぁ……気が乗らねー勝負だぜ」
「どうした?戦う前から、言い訳……がっ!?」
気付くと、ユウセイはマサカドの背後に後ろ向きで立っていた。そして、いつのまにか抜刀していた木刀をスッと腰元に納めると、それと同時にマサカドの腹に激痛が走り、堪らず彼は膝を突いて地面に座り込んでしまう。
「七星剣術・三つ星。
「がはっ!げほ、げほ……あ、ありえん!!こんな三流剣術などに、この私が……ゴホッ、ゴホッ」
「足の運びと、抜刀する時の手の運び……それぞれの部位へ、瞬間的に爆発的な“気”を込めることで、神速の居合を実現させる。たった七つしかないのは、その技を極限まで極め、使い手によって独自の進化をさせてもらうためだ。これが、俺にとっての究極の“
そこへ、駆けつけてきたのは学園長・白鷺マイアであった。
「北斗先生!」
「遅かったな、学園長。コイツが、さっきの魔剣事件の首謀者だとよ。とっとと、連れて行きな」
「柳生マサカド……柳生ムネタカの父親か?」
「父親失格、ついでに師匠としても失格だ。おそらく、息子の方は悪くない。こいつの重圧で、魔剣を使わざるを得なかったのだろう……寛大な大岡裁きを、頼むぜ。学園長サンよ」
力なく塞ぎ込むマサカドに
階段を降りて観客席を出ようとすると、そこでユウセイを待っていたのは、売り子姿の愛弟子だった。
「かっこいいとこあるじゃないッスか。見直しましたよ、師匠」
「んだよ、イブキ。見てやがったのか」
「師匠がやらなかったら、私が手を出そうと思ってたんですけど……その必要は無かったみたいで、良かったです」
「
不意にイブキが差し出してきた紙コップに注がれたコーラを、渋々と受け取る師匠。
「それ、サービスです。頑張ったで賞」
「俺ぁ、
「あと、
「え……えええええっ!?う、嘘だろ?」
「あ、やっぱ気付いてたの私だけか。会った時から、分かってたんだけど……やっぱ、女の勘って凄いんだな。我ながら」
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