柳生ムネタカ・4

「おい!何だよ、ありゃあ!?」



 コースケがモニターに映し出された配信を見ながら、叫んだ。

 それに対して、隣で冷静に足を組みながら観戦していたレイジが自身の見解を述べる。




「あれは……秘宝アーティファクトのようだ。ユニークスキルを使って、密かに持ち込んでいたんだろう」



「真剣を隠し持ってたってことか?はなから、反則する気満々だったってことかよ!?」



「反則というより、保険のようなものだろ。まさか、自分が負けるとは思っていなかったが……実際に追い詰められる場面が訪れて、思わず手が伸びてしまった。そんなところか」




 試合に負けても、勝負には勝とうってことか?

 それだけ、マコトには負けたくないと思っていたのか……だとしても、許されることじゃない!


 月森さんが焦って、俺の服のすそを掴んでくる。




「上泉くんの木刀が、折れちゃってる……助けないと!あのままじゃ、危険だよ!?」



「あ、ああ!助けに行こう!!」




 俺が、観客席からリングに身を乗り出そうとすると、強い声で制止された。




『待たぬか!』



「エペタム!?でも、早く助けないと!」



『あの魔剣、かなり強力な秘宝とみた。外側からでは、奴の張った結界は破れぬじゃろうて』




 ガミジンの使った“閉鎖空間”のようなものか?

 確かに、歴戦の教師たちが手を加えても、侵入できそうな気配すら無い。




「じゃあ、どうすれば……」



『どうやら、ワシの出番のようじゃな。ちと、行ってくるとするか』



「行ってくるって、どうやって!?」



『真の契約を結んだ今ならば、火急かきゅうの事態にのみ限り、瞬時に主の手元へと転移することが出来るはずじゃ。まぁ、見とれ』




 そう言うと、妖刀エペタムは本当に姿を消して次の瞬間、モニターに映るマコトの手に転送されていた。




「え……エペたん!?」



『よう、耐えたな……ここからは、ワシも加勢してやるぞ』



「あ、ありがとう!どうやったら、柳生くんを助けてあげられるかな!?」




 暴走状態と化した“柳生ムネタカ”から放たれる『燕飛えんひ』の連打は、先ほどの衝撃波に比べると、より大きく強い漆黒の気を纏っていた。

 それを脅威の動体視力で回避し続けながら、マコトはエペタムとの対話を続ける。




『助けるじゃと!?相手は、おぬしのことを痛めつけてきた憎きかたきじゃろう!情けなどかけて、どうする?』



「そうだけど……憎しみは、争いしか生まない。罪を憎んで、人を憎まず。お父さんの教えなんだ」



『まったく!親子そろって、お人好しにも程があるわい……ならば、気を失わせろ。さすれば、魔剣からの支配から解放されるはず』



「ホント!?エペたん!」



『ワシとは異なり、意思持たぬ魔剣などの呪いの武具を扱う際には、闇の力への耐性が備わっておらんと、あのように憎悪だけが膨れ上がった狂戦士バーサーカーに成り下がってしまうのじゃ。元に戻すには一度、意識を絶ってリセットさせるより他はない!妖刀たるワシが言うとるんじゃ、信じよ』




 すると突然、ピタッと敵の『燕飛』が止んで、恐る恐る柳生に視線を移すと、今度は魔剣を上段に構えて膨大な暗黒の闘気を溜め込んでいた。




「柳生シン陰流……燕飛・狂イ咲キ!!」




 必殺の一撃が来ると直感で反応していたマコトもまた、居合の体勢で自身の妖刀へ瞬時に紫炎の闘気を注入していた。




「七星剣術・七つ星……破軍ベネトナシュ リバース!!」




 柳生の振った剣閃から、黒い燕のような形をした斬撃が、群れをなしてマコトに襲いかかる。


 しかし彼女もまた、その集合斬撃を気の大渦を目の前に発生させて、全てを巻き込みながら消滅させていった。

 それは紛れもなく、フルカスの使った“破軍ベネトナシュ ”と同一のもの。

『妖刀エペタム』と真の契約を結んだことで、“紫炎の妖気”を使えるようになっていたのだ。




鮮血牢センケツロウ……断罪ダンザイ!」




 自身の技が劣勢と見るや柳生は、すぐさま手を伸ばして、何かを握りつぶすようなジェスチャーを取ると、周囲を囲んでいた結界から、真紅の棘が伸びてきて、一斉にマコトを串刺しにした。


破軍ベネトナシュ ”を制御していて無防備だった彼女へ、死角から一斉に降り注いだ棘の奇襲に、一部始終をモニターで見ていた観客席から、各所で悲鳴があがる。


 それだけ、誰しもが“やられた”と思った。暴走状態にあった柳生も、含めて。

 しかし、彼は急に背後から何かの気配を感じ、背筋に悪寒が走る。




「七星剣術・三つ星……禄存フェクダリバース




 妖気によって一瞬だけ完全に気配を遮断することで、強化した脚力で間合いを詰めつつ、

 それが“禄存フェクダリバース”。


 彼女は、死角からの棘が着弾する前に、その裏技を発動させていた。“破軍ベネトナシュ ”が巨大なカーテンとなってくれたことで、その挙動は対峙していた柳生でさえ一切、悟ることが出来なかったのだ。




 ズドッ



 振り向いた時には、もう遅かった。

 振り抜かれた居合によって、柳生は気を失い倒れ込む。


 その様子を見届けて、妖刀が勝ち誇ったように言った。




『安心せい。峰打ちじゃ』




 同時に魔剣の支配から解き放たれたのか、リングを包み込んでいた真紅のドームも徐々に消え去っていき、上泉の視界に生徒たちのいる観客席が飛び込んできた。




「「「ワアアアアアアアアアッ!!!」」」




 一転、その観客たちは一斉に歓喜の声をあげた。


 賭けに勝った者、負けた者、関係なしに、それは一つの勝負として見る者を感動させる内容だったからだ。





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