柳生ムネタカ・1
「それでは、これより一年生マッチ・五回戦……ミドルクラスA・柳生ムネタカ選手と、ロークラスA・上泉マコト選手による試合を行います!」
大会は淡々と進み、あっという間にマコトの試合の時間となった。
今までの戦いも、それなりに見所はあったものの、そこはやはり見習い冒険者たち。この広い会場を湧かせるほどの攻防は見せられず、いまいち盛り上がりに欠けていた。
しかし、柳生くんは剣士としては知名度も高いのか、好勝負を期待する観客からの歓声も自然と大きくなっている気がする。
『いよいよじゃな』
「ちょ、急に喋り出さないでよ。驚くから」
『ふん。むしろ、今まで黙っててやったのを感謝せい』
俺の席に立てかけていた『妖刀エペタム』が、急に声を発した。今回の試合では、真剣の使用は禁止されている為、もちろん
そもそも、妖刀って外の世界とか見ることが出来るのか?まあ、見たいと言ってたから、見えるのだろう。
「両者、前へ!」
審判を務めるハイクラス教官・朝倉シンイチが、両者を決闘の舞台に呼び込んだ。
観客席に囲まれたコロシアムのリングは、ボクシングのリングの2〜3倍の大きさはあろうかという円形のフィールドで、ロープや柵などは存在せず、リングアウトで場外失格のあるルールだ。
決闘者は、互いに自分の氏名と賭けるものを宣言して下さい
「決闘者・柳生ムネタカ!賭けるものは、“
「決闘者・上泉マコト!賭けるものは、同じく“
決闘アプリを起動させ、宣言する二人の言葉にザワつく観客席。
隣にいた神坂さんも、俺の肩を掴んで尋ねてきた。
「退学って……負けたら、退学するってこと?植村くん、知ってた!?」
「う、うん……知ってた」
「どうして、そんな……ただのイベントでしょ!?おかしいよ、そんなの!」
彼女に続いて、他のみんなも動揺したように、俺へ質問攻めしてくると、黙って聞いていた手元の妖刀が一喝した。
『ええい、
急に声が聞こえた刀へ、一斉に視線が集まると、一瞬の沈黙を経て、全員が驚きのリアクションを見せる。
「「「か、刀が喋った!?」」」
「はは……これ、インテリジェンスソードなんだ。喋る妖刀。マコトの
まるで、遊園地のマスコットでも見つけたように、女子たちが妖刀に群がると、心なしかエペタムが赤く染まってるように見えた。エペタムも男よのう。
そんな乙女たちに、後ろから冷静に三浦が声を掛けた。
「そろそろ、始まるぞ。マコトの退学がかかった、大一番が」
“退学”という言葉で、みんなは黙って席に戻ると、真剣に勝負に集中し始めた。クラスメイトであり、友人の行く末を見守る為に。
会場外に設置されていた数ある武器の中から、手に馴染む木刀を一本、選んで取った両者は再びリングに上がると、中央付近で対峙した。
「お前との因縁も、これまでだ。そう思うと、せいせいするぜ」
「…………」
「ふっ。怖くて、声も出ないか……こりゃ、瞬殺だな」
それでは、「決闘」を開始して下さい
決闘アプリのカウントダウンが始まり、いよいよ勝負の火蓋が切られた。
fight!!
「オラァ!!」
開幕一番で、荒々しく剣を振るっていく柳生。
上泉は、それを何とか受け止めながら後手に回る。
「ふん!とりあえず、手は出るようになったみたいだな!?」
「くっ!」
多少なりとも、植村との仮想訓練の効果は出ていた。『ダンジョン・アイランド』では手も足も出せず、勝負にもならなかったが、今回は相手の剣を捌けるまでには動くことが出来ている。
「オラァ!!」
防戦一方の上泉の隙を突き、柳生の強烈な前蹴りが
「柳生シン陰流……
そこへ、追撃の衝撃波を放つ柳生ムネタカ。
慌てて木刀でガードする上泉だったが、その軽い体は、強烈な圧に押されてリングの
(このままじゃ、ダメだ!手を、出さないと……!!)
「七星剣術・一つ星……
敵の威圧に呑まれそうになりながらも、必死の思いで繰り出した“
「ハッ!なんだよ、この貧弱な“気”は!!」
バシュッ!!
軽々と木刀を振るって、あっさりと上泉の衝撃波を掻き消してしまう柳生。
そんな彼にベットしている生徒も多いのか、その優勢な状況に盛り上がりを見せていた。
「黙って、場外に落ちてりゃ良かったものを……バカがよ!」
呆然としてる上泉に向けて、柳生が剣を構えながら、尚も間合いを詰めて行く。
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