対戦カード

「契約の儀」まで、あと6日



 いつものように朝練を終えて、“冒険者養成校ゲーティア”の校舎にマコトと入って行くと、何やら廊下に人集ひとだかりが出来ていた。


 立体映像式の掲示板に張り出された広告に、注目が集まっているらしい。さすがに気になり、足を止めると反対側から悪友の三浦がやって来る。




「武術大会の、対戦カードが発表されたらしい。ご丁寧に、生徒会が定めたオッズ付きだ」




【虚飾】が、【目星】rank100に代わりました




「どれどれ……?」




 人混みで見えにくい中、視力を強化して対戦カード表の内容を遠くから覗き見る。もったいない使い方だが、普通にメガネ感覚で使用してしまうのは悪い癖だ。





 武術大会


 対戦カード


『下剋上マッチ』賭けるもの・なし


 白鷺しらさぎマイア(学園長)4.2倍

 VS

 天馬カケル(二年・ハイクラスA)1.3倍




『一年生マッチ・5』賭けるもの・非公開


 柳生ムネタカ(一年・ミドルクラスA)3.6倍

 VS

 上泉マコト(一年・ロークラスA)12倍





 試合数は、全部で13試合。

 一年生マッチ、二年生マッチが6試合ずつ組まれており、一番上にメインイベントであるかのように“下剋上マッチ”と称された、まさかの天馬先輩と学園長のマッチアップが表示されていた。


 なるほど、これは注目されるはずだ。

 とんでもないマッチメイクじゃないか。



 そんな俺に、レイジが補足説明してくれる。




「“下剋上マッチ”は、学園代表で選ばれた生徒が一人だけ、上級生に挑戦できる権利を与えられるというシステムらしい。本来なら、三年生と戦う段取りなんだが、今の“冒険者養成校ゲーティア”は、二年生が最上級生だからな」



「だから、教師に下剋上……って、こと?」



「しかも、よりにもよって学園長トップに挑戦状を叩きつけたわけだからな。受ける方も受ける方だが、大胆不敵にも程がある」



「そんな学園長が相手でも、オッズは天馬先輩の方が低いのか……」




 確かに、凄い人なんだろうけど学園長の強さってベールに包まれてるもんな。それに比べて、天馬先輩の凄さは言わずもがな、学園中に広まっている。オッズの差も、そこにあるのだろう。


 それよりも、俺が気になるのは、やはりマコトの試合だ。賭けるものは“非公開”となっている。さすがに、退学を賭けた勝負などと申請は出来なかったか。に、しても……。




「生徒たちの間じゃ、マコトの試合が一番の狙い目だと騒がれてる。本命の柳生に賭けても、三倍になってベットしたハスタが返ってくるんだからな。ボロい試合ってヤツよ」



「マコトが、12倍って……誰がつけたんだよ、このオッズ」



「お前が思ってるより、柳生の評価が高いんだ。剣術部として、数々の大会で良い成績を収めている。一方で、上泉は道場を破門された落第生というレッテルが貼られたままだ。第三者から評価した目線では、妥当な数字と言えるだろう」



「だからって、こんなに差は……」




 チラリとマコトの顔を横目で見ると案の定、落ち込んだ表情をしていた。すかさず、レイジがフォローに入ってくれる。




「この試合で評価など、いくらでもくつがえる。他人の決めた数字など、気にするな」



「レイジくん……ありがとう」



「一応、データは取ってきてやったぞ。“柳生ムネタカ”に関する……な」




 俺らは、人混みから離れて自分たちの教室に戻りながら、レイジの掴んできた情報を聞いた。




「それで、データっていうのは……柳生くんの、ユニークスキルとかか?」



「いや、それは分からなかった。今、奴が習得している剣術は、父である“柳生マサカド”が広めた新陰流の派生流派・陰流。基礎的な剣術も強く、さっきも言った通り同年代では頭一つ抜けた実力者だ。ただ、態度がデカいわけじゃない」



「柳生マサカド……その人が、ヨシツネさんの道場を乗っ取って、マコトを破門にした張本人か」



「そうだ。上泉ヨシツネが他界して、すぐに新陰流を自己流に改良してしまうあたり、相当に自分本位な人間だ。前から、上泉の家系を邪魔に思っていたんだろう……だから、すぐにマコトを破門した。ま、これは俺の想像だがな」




 つまり、これはマコトのトラウマを乗り越える試練でもあり、過去との因縁を断ち切る為の一戦でもあるわけだ。ますます、負けるわけにはいかなくなった。俺が、勝負するわけじゃないんだけど。




「……勝てるかな、僕」




 ぼそりと不安を口にするマコトに、レイジが再び声をかけた。




「そっちも、準備はしてるんだろ。順調なのか?」



「それは……うん。もう少しで、何かが掴めそうな気がするんだ。強くなって自信がつけば、きっと柳生くんにだって……!」




 まるで、自分に言い聞かせるようにマコトは思いを口にした。

 確かに、俺も強くなったことで自分に自信がついた節がある。マコトも、そうであると信じたい。




「うーむ……もう一回、あのビデオを見せて、負けるように脅迫してみるか?」



「「それは、だめ!!」」




 俺とマコトの同調する声に、「ちぇっ」と残念そうにレイジは舌打ちしたのだった。





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