応答丸

「契約の儀」まで、あと7日




応答丸アンサラー!」




 上泉マコトが、その魔剣の名を呼ぶと、彼女の鞘から勝手に飛び出てきた小剣が、自らの手へと納まる。これは、特別に許可された互いに実剣を使っての演習であった。




「七星剣術・一つ星……貪狼ドゥーべ五月雨さみだれ!!」




 小回りの効く小剣だからこそ、実現しうる“貪狼ドゥーべ”の五連射。式守の見立て通り、上泉の短剣に対する適正は高いものだったといえる。


 その魔剣『応答丸アンサラー』こそ、彼女がダンジョンで入手した秘宝アーティファクトであった。




応答丸アンサラー

 意思を持つ小振りの魔剣。その名を呼べば、ひとりでに手に納まり、ひとりでに敵を屠ることもできる。

 使い手の俊敏性が強化される反面、それに順応しうる者でなければ、逆に使いこなすことが難しい上級者向けの武具。




「くっ!」




 飛んできた四つの衝撃波を回避して、最後の一つを光剣クラウ・ソラスで防ぐ俺に、マコトは手にした魔剣を投げつけてきた。




「行け!応答丸アンサラー!!」




 これが、厄介だった。


 単なる投擲武器ではなく、この魔剣は自らの意思を持って敵である俺に斬撃を繰り出してくるのだ。

 一対一の手合わせであるはずなのに、まるで二人を相手にしているようなものである。




 ギン!ギンッ!!




 しかも、その動きは鋭く疾い。

“自動回避”と“刀剣rank100”の併用で、何とか凌ぎきれるレベルだ。並の冒険者や魔物クリーチャーが相手であれば、コイツをけしかけるだけで勝負は決してしまうだろう。



 その間に、俺との間合いを詰めていたマコトは、再び手に“応答丸アンサラー”を呼び戻すと、流れるように次の技へと移行した。




「七星剣術・三つ星……禄存フェクダ!!」




 ギリギリまで、魔剣を凌いでいて体勢を崩した俺へ放つ高速突進の居合斬り。俊敏性が強化されているからか、その一閃はいつにも増して研ぎ澄まされていた。



 これは、危険だ!



 仮に受けても、マコトのことだ。更なる追撃を用意しているはず。このスピード、後手に回れば一方的に攻められてゲームオーバーになってしまうだろう。


 伊達に俺も場数を踏んでるわけではない。

 数々の死線を潜り抜けてきたことで、一瞬の状況判断も出来るようになっていた。




【虚飾】が、【跳躍】rank100に代わりました




 空高く後方にジャンプして、一度は体勢を立て直す。


 しかし、マコトはも読んでいた。



禄存フェクダ”の効果で、脚力が強化されていた彼は、植村の後を追って跳躍したのだ。

 さすがに、高さこそ及ばなかったものの、十分な技の射程圏内に相手を捉えるまでには到達すると……。




「七星剣術・一つ星……」

「七星剣術・一つ星……」




 奇しくも、ほぼ同時にお互いが同じ技の予備動作に入る。

 ここで、マコトは勝利を確信した。


 なぜなら、植村は“貪狼ドゥーべ”の高速連射は出来ないと知っていたからだ。“動”の気の性質を持つ彼の“貪狼ドゥーべ”は一撃が重い分、上泉ほどの高速連射は出来ないのである。


 例え、重い一撃といえど、一発分の“貪狼ドゥーべ”ならば防ぎ切る自信があった。

 一方で、こちらの放つ“五月雨さみだれ”は、連続した高速の五連射。いくら回避性能が異常な植村であっても、空中で全て躱すのは不可能だろう。

 そういう意味では、彼が【跳躍】を使ったのは悪手だったといえる。




「……貪狼ドゥーべ!!」




 先に放たれたのは、単発である植村の“貪狼ドゥーべ”だった。確実に、これを防いで反撃の“五月雨さみだれ”を叩き込もうとしたマコトは、わざといた。


応答丸アンサラー”の恩恵もあるとはいえ、一騎打ちで侯爵級悪魔ガミジンを打ち破ったことで、彼女自身も飛躍的な成長を遂げていたのだ。



 飛んできた衝撃波を、“応答丸アンサラー”の刃で打ち払い、返す刀で“五月雨さみだれ”を繰り出す。それが、マコトの考えた作戦プランだった。が、しかし……。




 バチバチバチッ!!


 


「う、うあああっ!!」




 突如、全身を襲う電流に彼女は抵抗できず、そのまま落下すると、下で戦いを見守っていた剣の師・北斗ユウセイが、その体をキャッチした。




「おいおい!俺がいるからって、やりすぎだ。ここは、ダンジョンの中じゃねーんだぞ!?」



「す、すみませーん!やられると思って、つい!!」




 実際、下にいた師匠の姿を見てから撃ったものの、追い詰められていたのは確かだ。

 改めて、彼女の剣の才能は凄い。




 着地して、すぐにマコトの様子を見に行くと、意識はあったようで安心した。




「ごめんな、マコト。大丈夫か?」



「ぜ……全然、大丈夫。それより、さっきのは?」



「“貪狼ドゥーべ”に、雷気を加えて放ったんだ。当たると、今みたいに相手を麻痺状態にも出来る。試作段階の技だったんだけど、あれを使うより他に勝てる道筋が見つからなかった」



「はは……やっぱり、ユウトは凄いや。今回こそは、一本が取れそうだったんだけどなぁ」




 その会話を聞いていた師匠が、ゆっくりとマコトを降ろしながら、呆れて言った。




「俺からしたら、お前らどっちも大概だぜ。勝手に、人の技を改良していきやがって」



「「あぅ……す、すみません」」



「ふっ。褒めてんだよ、馬鹿野郎ども。七星剣術ってのは、七つの技を全て覚えるのがゴールじゃねえ。むしろ、それからがスタートだ。各々の適性に合わせて、七つの技を独自に進化・改良させていく……千人いりゃあ、千通りの七星剣術が生まれるのが、俺の理想としている流派の形だからな」

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