LV3「ヒッポドローム・ヘル」・4
「ユウト!?ねぇ、どうしたの?ユウト!」
閉鎖空間の外から聞こえた友人たちの声が聴こえなくなり、不安にかられるマコト。
しかし、そんな彼の焦燥などお構いなしにガミジンの猛攻は続く。
(もしかして、外でも新しい強敵が現れたのか!?僕が、早くボスを倒さないから……!)
ギィン!!
ようやく、戦意を取り戻したマコトは敵の一太刀を力強く『銘刀・残光』で弾き飛ばす。
「父さんの剣は、もっと速い。もっと強い……お前なんか、偽物だ!絶対に、負けない!!」
外にいる友人たちを助けたいという気持ちが、彼女に勇気と力を与えた。
しかし、ガミジンのコピーも劣化とはいえ、マコトの記憶を忠実に再現した“剣聖の斬撃”である。
するりと自身の刃をマコトの刃に絡め、くるんと回転させると、虚を突かれたように彼の手元から『銘刀・残光』が宙に弾き飛ばされてしまう。
それは、“巻き技”と呼ばれる、敵の太刀を奪い取り無力化させる高等技術であった。
「なっ!?」
せっかく湧き出した闘争心を無に帰す奇襲で、丸腰になり呆然とするマコトへ、追撃の振り下ろしが襲いかかる。
やられる……と、本能的に悟った彼女は、奇しくも記憶にある父の動きを
相手の振り下ろしに合わせて、懐に踏み込む。
そして、“敵の鞘”と“刀の峰の部分”の両方に手を添えると、テコの原理を利用して、今度はマコトが相手の武器を奪い取ると、そのまま下からガミジンを斬り上げてみせたのだ。
ズバアッ!!
“
正確に言うと、『無刀取り』とは剣を奪うことにあらず、無手のまま敵を制圧する剣士としての極致を総称して、そう呼ぶだけである。
相手から、太刀を奪い取る方法は幾つか存在するが、どれも強い胆力と、洗練された技術、並外れた反射神経が必要となる、まさしく秘伝であった。
その中でも、“逆取り”は父・ヨシツネが得意としていた技であり、それに憧れて幼少期には何度も見様見真似で練習していた。そこに、“
更に、マコトは左手を添えた剣の切先をガミジンに向けたまま、第二の矢を放った。
「七星剣術・一つ星……
それは、改良型・レーザービーム式の
「オオオオオオン!!!」
勝負が決したと思われたが、ガミジンも最後の技を隠し持っていた。“上泉ヨシツネ”の変身が解除され、元の姿に戻った悪魔はアメーバのように全身を広げると、マコトを包み込もうと肉の網を展開させた。
“自爆怨嗟”……死の間際、自身の全身を弾けさせ、冒険者の体を飲み込んで、新たな肉体へと変えてしまう。
この肉の網に蝕まれたら最後、逃げ出す
「七星剣術・七つ星……」
ガミジンの肉片に変わってしまった敵の太刀をその場に捨てると、足元に落ちていた『銘刀・残光』を
いつもの彼女ならば、恐怖で慌てふためいていたであろうが、この極限の状況において“上泉マコト”の集中力は過去最大にまで研ぎ澄まされていた。
あわや、敵の身体が触れてこようとする瞬間、彼は一瞬で溜めた濃密な“気”の一閃を、居合で抜く。
「……
それは、植村と放った“七星剣術・七つ星「
しかし、それは同じくして全く異質なものとなっていた。
膨大なオーラを長く溜めなければならない植村の“破軍”に対して、上泉の“破軍”は精密な気のコントロールによって刀身に一瞬で濃密なエネルギーを込める。
そして、放たれる一閃も、植村の“破軍”を激しい津波とするならば、上泉の“破軍”は水平線を描くような静かな
横一文字で放たれた上泉の“破軍”は、ガミジンの肉を上下に両断すると、更には周囲を塞いでいた閉鎖空間までも真っ二つに斬り裂いたのだった。
ミッション クリア
ダンジョン攻略を知らせるテキストが表示され、上泉は集中が切れたように、いつもの彼女に戻る。
「はっ!ユウト……ユウトは!?」
ふと見ると、植村と式守がこちらを見て、にこにこと談笑していた。
「ほら、作戦成功。思った通り!」
「つか……俺らが、いくら侵入しようとしてもビクともしなかった結界を、中から斬ったってのか?お前といいマコトといい、自信なくすわ。一緒に、冒険してると」
「まぁまぁ、コースケも活躍してたよ?うんうん」
そんな二人を見て、あからさまに上泉は不機嫌そうな表情に変わった。
「……ひどい。全然、ピンチじゃなかったでしょ?」
「うっ!す、すまん……こうすれば、マコトの実力が発揮されるかな〜と、思ったんだけど」
「ホントに、心配したんだからね!?ユウトのばかー!」
うーん。やっぱり、女の子なんだなぁ、マコトって。
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