LV3「ヒッポドローム・ヘル」・3

 一方、ガミジンの作り出した閉鎖空間内では、上泉の前に予想だにしない相手が立ち塞がっていた。




「と……父さん!?何で?」




 息子の前に姿を見せた“上泉ヨシツネ”は、無言で腰の刀を抜くと、恐ろしいまでの殺気を放った。




(父さんのはずがない!もしかして、さっき心を読まれた感覚って……!!)




 マコトの読み通り、それが侯爵級悪魔・ガミジンの得意とする戦術であった。


 まずは、“サイコメトリー”で狙いをつけた相手の深層心理を覗き込む。そこで、対象が最も“強い”と感じている存在の姿に変身する……それが、“ミラーシャドウ”の能力だった。


 厄介なのは、それだけではない。ガミジンは対象の記憶を辿り、すらもコピーしてしまう。“メモリーアーツ”なる技も、持っていたのだ。



 予備動作なく振られた“上泉ヨシツネ”の一太刀は、瞬時にマコトの間合いに飛び込み放たれると、彼の首に浅くはあったが斬り傷を与えた。

文曲メグレズ”で視力を強化してなければ、今の一閃でその首はねられていただろう。


 それは、何度も見ただったことに、マコトは驚きを隠せない。

 咄嗟に距離を取ろうとするも、閉鎖空間の壁が背中に当たり、行き詰まってしまう。


 心を読んだ相手の最も恐れる敵に化け、一対一の状況を強制的に作り出す。卑劣であり狡猾な、ガミジンの必勝パターンであった。




(怖がるな!あいつは、偽物だ……戦わなくちゃ!!)




 勇気を振り絞って、『銘刀・残光』を握りしめるマコトだったが、相手は自分が最強と疑わない父親だ。柳生ムネタカに抱く恐怖心とは、またが彼の足を止めていた。


 しかし、相手の中身は“秘宝の番人”。そんなことなど、お構いなしに容赦なく斬撃を振るってくる。




「う、うわあああっ!!」




 今のマコトに出来ることは、精一杯に攻撃を回避することだけだった。それだけ敵の一撃が鋭くはやいと言うのもあったが、明らかに彼の戦意は失われつつあったのが大きいだろう。



 閉鎖空間から漏れ聞こえるルームメイトの声に、光剣クラウ・ソラスに“チャクラ”を溜めながら、植村が呼びかけた。





「マコト!大丈夫か!?」



「どうしよう!?父さんの姿をした敵がっ……僕じゃ、勝てないよ!」





 父親の姿……それが、敵の能力なのか?

 だとすると、精神面に弱い部分があるマコトにとっては最悪の相手かもしれない……どうする!?



 ケンタウロスの矢を全て回避すると、今度は槍を持った部隊が突撃してくる。それを見て、コースケは必死に俺を鼓舞した。




「おい!今は、目の前の敵に集中しろって!!マコトを助けるのは、それからだろ!?」



「ああ!わかってる!!」




 チャクラから、オーラへ。


 光刃から溢れ出るほどの“気”を送り込み、上段の構えで光剣クラウ・ソラスの柄を握る。

 実戦で使うのは初めてだが、これだけの数の相手がいるというのは絶好の機会といえるだろう。


 七星剣術・七番目の秘剣にして、広域殲滅を目的とした最大級の大技。




「七星剣術・七つ星……“破軍ベネトナシュ ”!!!」




 ゴウッ!!!




 構造としては単純な、最大限まで“気”を溜めて放つ、

 しかし、それは光の津波となって目の前に広がるケンタウロス軍団を槍持つ前衛から、弓持つ後衛に至る全てを呑み込みながら、駆逐していく。


 さすがに威力の大きな対軍奥義という性質上、練習では本気で放ったことは無かったが、実際は予想以上の破壊力であった。ケンタウロスどころか、敵の後方にあった建物まで、跡形もなく消し飛んでいる。




「うぉ、すっご……」



「そりゃ、こっちのセリフだわ!何だよ、今の技!?」




 コースケも興奮しているが、俺も驚いた。


 てっきり、貪狼ドゥーべの強化版ぐらいの気持ちで放ってみたのだが……もしかしたら、数々の戦闘経験を経て、俺の剣気自体も跳ね上がっていたのかもしれない。




「うわあああっ!!」




 マコトの悲鳴を聞き、浮かれていた俺とコースケが目を合わせる。そうだ、まだダンジョンを攻略できたわけじゃない。





「だが、どうする?この結界、俺たちも中に入れるのか!?」



「いや……多分、難しいと思う。一応、やるだけやってはみるけど」



「おいおい!このままだと、マコトがヤベーぞ!?外からでも、力になれるようなことないのか?」




 昨日今日、会ったばかりのマコトを心の底から心配している様子のコースケ。人柄の良さが伺える……とか、感心してる場合じゃなかった。

 俺は、ふとマコトのお父さんの言葉を思い出す。




「うわあっ!マコト、た……助けてくれ!!」



「あ?お前、何やって……」




 急に、脈絡もなく助けを求め始めた俺を、めた目で見てくるコースケに、慌てて「静かに!」という無言のジェスチャーを送る。


 マコトは、誰かの為になら“強さ”を発揮できると言っていた……なら、逆に俺たちがピンチだと感じてくれれば、彼女に眠る“火事場の馬鹿力”が発揮されてくれるかもしれない。

 外で、俺たちが出来ることといえば、こんなことぐらいしか思いつかなかった。




「このままだと、コースケが!!」



「え……うわ〜、タスケテー」




 わけも分からず、乗ってくれてるあたりはナイスだが、棒演技すぎるぜ。コースケ……!

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