LV3「ヒッポドローム・ヘル」・2

「へへっ。俺の武器なら、上位種にも通用する……なんだか、いける気がしてきたぜ!」




 式守が自身の武器を自慢げに見ながら鼻息を荒くしていると、その間にも植村と上泉は前線へ切り込んでいた。


文曲メグレズ”を使って視力を向上させた上泉は、槍を構えて突撃してくる三体のケンタウロスの刃先を全て紙一重でかわすと、すれ違いざまに返しの一太刀を浴びせていき、彼女と交差した敵たちは斬られたことにも気付かぬ様子で、バタバタと倒れていく。


 植村は、ブラスターでケンタウロスの足首を撃ち抜くと、落とした槍を拾い上げ、【投擲】rank100の力で弓を持つ個体に投げ飛ばし、撃破。それを見た他のケンタウロスたちが一斉に襲いかかるも、自動回避で華麗に突撃を避けながら、ブラスターによる精密射撃で一体ずつ確実に急所を撃ち抜き、仕留めていった。




「な……何なんだよ、あいつら。本当に、俺と同じロークラスか!?」




 一体を撃破して喜んでいた自分が恥ずかしくなるほど、他の二人は淡々と上位種を撃破していく。

 式守が呆然と見守っている隙に、あれだけいたケンタウロス軍団は、あっという間に壊滅状態にまで追い込まれていた。


 すると、役目を終えたかのように、マルコシアスは元のシベリアンハスキーに姿を戻してしまう。




「わんっ!」




 元の姿に戻ってられる時間には、制限があるようだ。とはいえ、短時間でも強力な助っ人だ。召喚獣のようなものだと考えれば、人手の少ない時などには連れてきて損はないだろう。




「よーしよしよし。よくやったぞ、マルコ」




 十分、仕事を果たしたワンコの頭をわしゃわしゃと撫でてやると、尻尾を振って喜びを表現している。普通に、ペットとしても愛くるしい。


 そんな中、急に周囲の空気が冷たくなるのを肌で感じる。すると目の前の地中から、まるでゾンビが這い上がってくるかのように、水分を失って乾き切った人間のミイラを思わせる奇妙な存在が姿を現した。


 まるで、ホラー映画さながらの登場に、マコトが俺の腕を掴んで怯えた様子を見せる。

 こういうところは、女の子っぽい。




「もしかして……あれが、秘宝の番人か?」




 コースケに尋ねられ、俺は【目星】rank100を使って、即座に敵の情報を盗み見る。





 ガミジン

 悪霊型・侯爵級クリーチャー

 身体能力 E

 精神耐性 A

【特性】

 サイコメトリー

 ミラーシャドウ

 メモリーアーツ

 閉鎖空間

 自爆怨嗟


 


「間違いない!あいつが、秘宝の番人だ……みんな、気を付けろ!!」




 俺が注意を促すと、さっきまで怯えていたマコトが『銘刀・残光』を握りしめながら、悪魔に向かって先陣を切って歩いていく。




「僕が、行く!これは、僕の為のクエスト……僕が、やらなくちゃ」



「待て、マコト!まずは、敵の能力を知ることが先決だ!!」




 こちらの注意喚起に何も反応を示さず、マコトは呆然と立ち尽くしていた。

 その様子に、コースケも不審に思ったようで。




「おい、あいつ……どうしちまったんだ?立ったまま、気絶したとかじゃないよな!?」




 慌てて彼女に駆け寄ろうとすると、意識を取り戻したようにマコトは言葉を発した。




「今……心を、読まれた」



「えっ?」




 その時、マコトとガミジンを取り囲むように漆黒のドームが展開された。

 中に入ろうとするも、そのドームは強固でびくともしない。




「これは……敵のスキルか!?」




 当てはまりそうな技は、“閉鎖空間”。

 まさか、強制的に一対一の状況を作り上げるスキルなのか?だとしたら、マコトが危険だ!!


 何とかして結界を壊そうと俺が武器を構えると、コースケが狼狽した声で叫んだ。




「お……おい、ユウト!増援だ!!」




 彼に言われて周囲を見回すと、新たなケンタウロス軍団の第二波が再び周囲の建物からゾロゾロと中に侵入して来ていた。




「くっ。無限に、出てくるのか……!?」



「おい!もう一度、暴れさせてくれよ!!さっきの、犬っころ」



「あ……あぁ、うん!マルコシアス、いけるか!?」




 すると、マルコシアスは申し訳なさそうに首を下げると、「クゥ〜ン」と悲しげな鳴き声をあげた。


 どうやら、続け様に変身することは出来ないらしい。こうなったら、二人でやるしかない。




「無理っぽい!」



「はぁ!?また、さっきと同じ数ぐらい出てきてるぞ……どうするんだ?」



「俺たちで、やるしかない。いける?コースケ」



「ま……マジか。いけなくても、やるしかないんだろ?なら、やってやる!」




 覚悟を決めたのか、武器であるハンマーを構えて鼻息を荒くするコースケ。

 さっき見た感じだと中距離から一体ずつ仕留めていくのが、彼の攻撃スタイルのようだった。なるべく、俺が彼に近付けさせないように前線で敵を殲滅していく!


 一気に、多くの敵を葬れる技……あれを、試してみるか。




【虚飾】が、【近接戦闘(刀剣)】rank100に代わりました




 こちらが準備するより早く、今度はケンタウロス軍団から矢の雨が、俺たち二人に目掛けて降り注いできた。





「いきなりかよ!?どうする?ユウト!」



「コースケは、黒いドームに身を寄せて!あれを、遮蔽物として使うんだ!!」



「お、お前は!?」



「俺は、大丈夫!あれぐらいなら、避けられるから。多分」



「避けられるって……ま、マジかよ」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る