LV3「ヒッポドローム・ヘル」・1

 緑のゲートをくぐった先に広がっていたのは、古代遺跡のような建造物に囲まれた吹きさらしの広大なフィールドだった。



 LV:3 緑色のダンジョン

 ミッション

 45分以内に、秘宝の番人を撃破せよ



『ダンジョン・サーチ』の情報通り、バトルミッションのようだ。しかし、まだ敵の姿は見えない。




「コロシアム……いや、競馬場か?」




 コースケの言った通り、確かに構造は競馬場のような設計に見える。もしかしたら、古代の競馬場をモチーフにしているのだろうか?




「わんっ!」




 足下にいたシベリアンハスキーが、何者かの気配を察知して急に吠え始める。


 と、いうか……姿が、大型犬のまんまだ。

 てっきり、元の姿に戻ると思っていたが、予想が外れたらしい。こうなると、こんな危険な場所に連れてくるんじゃなかったと、後悔してしまう。




「な……何、あれ!?」




 マコトが指を差した先には、周囲の建物からぞろぞろと姿を見せる馬……ではなく、上半身が人間で下半身が馬という半人半馬。

 各個体が、弓や槍など違った武器を携えている。


 それを見たコースケが、俺たちに教えてくれた。




「ケンタウロス……上位種の魔物クリーチャーだ。ざっと、10体以上はいるぞ!?」



「馬は馬でも、馬の魔物ってわけね。奴らが、ボスの前座か?でも、あれぐらいの数なら……」



「いや、待て!まだ、出てくるぞ!?」




 その数、ざっと30体以上……気付けば、余裕でレースが出来そうなケンタウロスの集団が、まるで臨戦体勢を整えた暴走族の如く、俺たちの前に集合していた。





「いくら、何でも……多すぎないか?」



「ど、どうする?ユウト!」



「どうするも、何も……やるしかないだろ。まずは、大技で一気に数を減らそう」



「うん!」




 俺とマコトが剣を構えて、気を溜めていると……何やら、マルコシアスの様子がおかしい。




「グルルルルル……!!」




 ケンタウロスたちに、明らかな敵意を向けてうなりをあげるマルコシアス。すると、その身体は徐々に膨張していき……本来の侯爵級悪魔マルコシアスの姿を取り戻していく。




「きゃあっ!な、なに?何なの!?」




 突然、巨大な狼に姿を変えたシベリアンハスキーに、マコトは俺の腕にしがみつき、コースケは腰を抜かして地面に座り込んでしまう。




「あ、悪魔?そいつが、ここの番人か!?」



「違うよ!こいつは、俺らの仲間。いけるか?マルコシアス」




 俺の言葉に反応して、「オオオオオオン!!」と高らかな雄叫びをあげるマルコシアス。

 まさか、感情が昂ることで元の姿に変身できるとは。俺も少し驚いたが、言うことは聞いてくれそうなのは安心した。





「おい!ユウト……来るぞ!?」




 コースケが、動きを見せたケンタウロス軍団を指差して叫ぶ。槍を持った者は突撃し、弓を持った者は後方からそれを援護しようと矢をつがえる。

 俺は、慌ててマルコシアスに命令を下した。





「久しぶりに、暴れてやれ……マルコシアス!!」



「オオオオオオン!!!」




 俺の号令と共に、空高くジャンプしたマルコシアス。しかし、それを狙って無数の矢が放たれた。

 けれども、巨大な狼はものともせず敵の中心地に向かって勢いよく着地する。


 その踏みつけと風圧で、一気に10体弱のケンタウロスが、その一撃だけで大ダメージを負った。

 更に、鋭い爪でひっかき、その場で宙返りしたり、まるでオモチャとじゃれるようにして、敵の軍勢を蹂躙していくマルコシアス。




「お、おい!ありゃ、いったい何なんだ!?説明しろ、ユウト!!」



「俺が【動物使い】のスキルで、ペットにした侯爵級の悪魔だよ。もう、人に危害は加えないから安心して」



「あ……悪魔を使役したってのかよ。それが、お前のユニークスキルなのか?」



「え?ま、まぁ……そんなとこ。動物型の悪魔に限られるけどね。使役できるのは」




 ユニークスキルであることは間違いではないので、そういうことにしておこう。確かに、秘宝の番人をペットに出来るなんて、俺も思ってもみなかったことだ。




「でも、あのワンちゃんでも一匹で戦うのは可哀想だよ!僕らも、手伝おう?」



「ん、わかった。フォローに入るか……マルコシアスの攻撃範囲には、入らないように気を付けろよ?マコト」



「了解!気をつけます」




 武器を構えて、ケンタウロスの群れに突っ込んでいく植村と上泉の後ろ姿を見て、ようやく式守も勇気を奮い立たせた。




「くそっ!わかったよ……やりゃ、いいんだろ。俺から志願したんだもんな、黙って見てるわけにはいかないぜ!!」




 彼は駆け出すと共に、手に持っていた『ウォーハンマー』をケンタウロスに向かって投げつけた。

 重々しい武器だったが、まるで硬球でも投げるようなスピードで投射すると、見事に敵の一体の頭蓋に命中した。




「よし、戻れ!」




 更に、命中したハンマーは、まるで自我を持つかのように、式守の手に吸い寄せられるかのごとく、きびすを返して戻っていった。




「おお、やる!」



「へへっ!俺が造った、このハンマーは近接武器にあらず……自動追尾で敵を撃ち、再び手元に戻ってくるホーミング式の投射武器なんだぜ!!」

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