三人と犬
「契約の儀」まで、あと14日
「くぅ〜、結構な出費だな。やっぱ」
電車を乗り継ぎ、無人タクシーを経由して俺たちが降りたのは、とある山中にあるキャンプ場だった。学生身分である我々に足は無く、こうして公的な乗り物を駆使してくる他に手段は無かったわけで。
「ご、ごめんね。やっぱり、僕も払うよ」
「あ、いや。大丈夫!こないだ参加したレギオンレイドのバイト報酬が、入ったばっかりなんだ。ここは、俺に任せとけって」
普段の生活は島内の学園通貨で賄えるし、実際のところ普通のお金の使い道って、あんまり無いんだよな。マコトはバイトもしてないだろうし、ここは俺が払っておくべきだろう。
「いやぁ、悪いな。植村」
「キミは、出す素振りぐらい見せようか?式守くん」
「コースケで、いいぜ?あ、となると……俺も、ユウト呼びでいいか!?」
「……どうぞ、ご勝手に」
ダメだ。会話が、成立しとらん。
彼の名前は、式守コースケ。
そう、『式守武器店』の店主である。
結局、彼は一緒に同行することとなった。マコトが許可したからというのも大きいが、これからの学園生活において武器屋は色々とお世話になるかもしれない。ご贔屓になっておいて、損はないだろうと思ったわけだ。
「……に、しても。周りは、一面の緑だな。くぅ〜、空気が美味いぜぇ!」
思いっきり深呼吸して、気持ちよさそうなコースケ。聞くと一年のロークラスB所属らしく、俺たちと同学年だということが判明した。
見た目通り、バスケ部にも所属してるらしく、男女共に人気がありそうなお兄さんタイプといった感じだ。さっきのようにマイペースなところも見受けられるが、キャラの濃い“
「ゲートがあるのは、この辺なの?」
「ああ。もうちょっと、先に進んだところにあるはずだ」
マコトに聞かれて、俺は【虚飾】に【ナビゲート】をスキル代替させた。
『ダンジョン・サーチ』で事前に調べたところ、誰にも見つかってない近辺のゲートで、武器系の秘宝が入手できるのは、
もっと近場にあれば良かったのだが、見つかっただけでも御の字といえるだろう。
『ダンジョン・カメラ』の普及によって、暇な一般人の配信者などが積極的にゲート探しに躍起になってきたせいで、最近は未発見のゲートが少なくなっている現状だった。
本当に困ったものだが、全てのゲートを把握できるチートアプリを持った俺が言える立場ではない。
「なぁ、ユウト」
「ん、なに?」
「まさか、山の中で散歩させたくて連れてきたんじゃないよな?その犬っころ」
彼の言う犬っころとは、俺がリードで実家から連れてきたシベリアンハスキーのことだろう。前々から試したかったのだが、機会がなく今日になってしまった。
果たして、この犬……もとい、侯爵級悪魔『マルコシアス』は、ダンジョン内に入ると元の姿に戻るのか?という、実験を。
元の姿になるのなら、これほど強力な用心棒はいないだろう。いざとなれば、俺の【動物使い】で制御することも出来るはずだ。
「……ちょっと、試してみたいことがあって。まぁ、じきに分かると思うよ」
「ふーん。まぁ、いいけどさ。植村って噂には聞いてたけど、もしかして……かなりの経験を、積んでたりするのか?」
「えっ、なんで?」
「ここにあるダンジョンの情報を提供してくれるっつー冒険者仲間がいたり、レギオンレイドにバイト感覚で参加してたり……今だって、緊張してる感じが全くない。ロークラスの人間からしたら、実際のダンジョンに挑戦できる機会なんて、滅多にないはずなのに、だ」
飄々としてるように見えて、なかなか鋭いな。
もちろん、彼には『ダンジョン・サーチ』のことは教えておらず、適当に知り合いから譲ってもらったことにしてあるのだが。
確かに、慣れというのは怖いもので、全く緊張しなくなってきてる自覚はあった。それだけ、強くなったという自負があるからなのかもしれないが。
「たまたま、知り合いに恵まれててさ。そういう経験だけは、積んでるんだよ。一丁前に」
「俺も、そこらのロークラスよりはダンジョン経験はある方だと思うが、いまだに緊張してるぜ。しかも、今回のゲートはレベル3なんだろ?林間学校でしか、行ったことねーからなぁ。そんな上位」
俺としても、レベル2ぐらいが良かったのだが、
「あっ、発見!ユウト、もしかして……あれじゃない!?」
少し、山の道路を外れて進んだ木々の間……目的の“緑のゲート”が、そこにあった。
「間違いない。みんな、準備は良いか?」
マコトが、コースケ作のカタナ……『銘刀・残光』を。
コースケも、自作した
そして、俺たちはゲートをくぐり、ダンジョンの中へと足を踏み入れたのだった……。
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