鍛冶屋
「契約の儀」まで、あと20日
「あった、あった!ここだ」
人工島にある服飾ロード。その名の通り、学生自身がデザインしたブランドの服飾やアクセサリーなどの学生店舗が並ぶ通りに、一店だけある無骨な店構えのテナント。
看板には『式守武器店』と書かれている。
ここにやって来たのは、マコトの仮の武器を調達する為だ。実際、「契約の儀」で使う武器は、俺の『ダンジョン・サーチ』を使って、手頃な秘宝武器の眠るダンジョンに挑み、入手しようと思っているのだが、そこに潜るにも武器が必要というわけで、生徒間で噂になっていた学生店舗を見てみようという話になったのである。
つまり、“代わりの武器”を手に入れる為の“代わりの武器”を調達しに来たわけである……ああ、ややこしや。
「へい、らっしゃい!」
まるで、八百屋の主人のようなお出迎えで、店の中に足を踏み入れた俺とマコトに満面の笑みを浮かべているのは、バスケ選手のような高身長で体格の良い男子。ギャップのあるクマさんエプロンを掛けて、カウンターで腕を組んでいた。
周りを見ると、こじんまりとした店内に立派な剣や槍、銃火器までもが並べられ、販売されていた。
噂になるのも、納得なラインナップだ。
「凄い。こんなに沢山の武器……一人で、どうやって集めたんですか?」
マコトの質問に、店主はムッフーと鼻息を荒くして、自慢げに答えた。
「俺のユニークスキル【鍛冶屋】は、様々な武器を進化させることが出来るんだ。そこに並んでるのは、元々は
「えっ!オモチャを、本物に進化させたの!?」
「そうだ、すげーだろ!?んで……今日は、どんな武器をお求めなんだい?おたくらは」
俺がチラッと横にいるマコトを見ると、それに反応して彼が小さく手を挙げた。
「僕の武器が欲しくて、手頃なカタナとかあったら欲しいんですけど……」
「ふむ……どれどれ」
「えっ?な、なに!?」
急にカウンターから出てきた若き店主は、ジロジロとマコトの手を舐めるように見回し始めた。
女の子だと知った今だと、なぜかハラハラする。
「両利きか……器用な奴だな。適正武器は、短剣・剣・太刀。太刀の熟練度は、なかなかの高さだ。ガキの頃から、やってたクチか」
「なんで?今の一瞬で、そこまで分かったんですか!?」
「これも、【鍛冶屋】の恩恵だ。武器の扱いに特化した【鑑定】を、使うことが出来る。何なら、そこの兄ちゃんも
自分の武器の適正か。無料なら、診てもらおうかな?【虚飾】があるから特に意味はないと思うけど、気にはなる。
「じゃあ……よろしくお願いします!」
「ほいよ。う〜ん、どれどれ……」
まるで、美術館の絵画になったような気分だ。じろじろと見定めるように【鑑定】され、俺は黙って硬直していた。
「適正武器は、剣や銃。オーソドックスな武器が、合うようだ。ただ、熟練度が……こんなの初めてだ、全く分からん。何かのユニーク持ちか?振れ幅がデカすぎて、表示が定まらないのか」
確かに、【虚飾】時は最大でrank100までになるけど、普段は一般冒険者レベルだろうからな。そりゃあ、数値が定まるわけがない。
「と、とにかく!参考になりました、はは。マコトに、オススメの刀とかあります?」
「ん、そうだな。目的は、何だ?練習用か、競技用か、それとも……」
「ダンジョン用です。今度、二人で潜るつもりなので。野良のダンジョン」
「なぬ!?ゲートを、発見したってことか?」
「あ、はい……他の生徒には、内緒にしておいて下さいね」
すると、彼は顎に手を当てて、しばし何かを悩み始めた。まさか、口止め料に何かしろとか言われるのでは……爽やかそうに見えて、悪徳業者だったか?
「なぁ。良かったら、そのダンジョン……俺にも、同行させてくれないか?」
「は?えぇ、いや……でも」
「いやな……俺の【鍛冶屋】は、武器の進化をさせる為に、ダンジョンポイントが必要なんだよ」
「ダンジョンポイント……とは?」
「潜ったり、
なるほど、それが“制約”ってわけか。何の縛りもなく無限に進化できるのなら、すぐに世界一の武器商人になれちゃいそうだもんな。
「しかも、【鍛冶屋】はユニークでは珍しいrank値の存在するスキル。進化を行うほどにrankは上がり、より強力な武器に進化させていくことが出来る。その為には、ダンジョンに潜るのは必須なんだが……」
「大手のギルドにでも入ってない限り、そうそう本物のダンジョンに挑戦できる機会なんてない」
「そういうことだ。もちろん、タダでとは言わない。今回の武器は、何でも無料で進呈してやる。今後も、お前たちにはご贔屓にしたっていい……だから、頼む!連れて行ってくれるだけで、良いんだ!!」
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