妖刀エペタム

 ヨシツネさんの姿が消えると、全ての効果を使い終えた『黄泉の香炉』も光となって消滅した。

 それを見て、妖刀エペタムが説明をしてくれる。




『効果を無くした秘宝アーティファクトは、また別のダンジョンにある宝箱へとかえっていく。消費系アイテムのほとんどは、こうやって循環を繰り返しておるんじゃ』




 さすがは、秘宝アーティファクトご本人。詳しい……いや、そんなことよりもだ。




「それより、マコト。さっき、お父さんが言ってたことって……その、本当なのか?」




 俺に問い詰められたマコトは少し黙ってから、謝罪と共に深く頭を下げた。




「ごめんなさい!ずっと、だまってて……」



「ま……マジか。でも、何で?」




 その回答をしてくれたのも、また彼の持つ妖刀だった。




『マコトの夢は父君の道場を奪い返し、正式に跡を継ぐこと。代々の掟で、道場主は“男”でなければならないという規則があったのじゃ。それゆえ、平時は性を偽って生活していた』



「そう、だったのか……」




 よくよく思い返してみれば、一緒に生活していて少し変わったところはあった。全ての点と点が線になって繋がったような気がする。




「ユウト、お願い!このことは……学園には、黙っておいて!?」



「それは、もちろん!言わないけど……男女でルームメイトは、少し不味まずくないか?」



「僕は、全然!気にしないよ?今までだって、問題は無かったでしょ!?」



「それは、男だと思ってたからであって……気にするのは、俺の方なんだけどなぁ」




 すると、まるでしつけられた子犬のように、シュンとした顔で落ち込むマコト。




「もう……今まで通りには、接してくれない。って、こと?」



「い、いや!それは、違うぞ!!男だろうが、女だろうが友達は友達だ。それは今までも、これからも変わらない」



「ほんと!?」



「まぁ、多少は意識しちゃうこともでてくるだろうけど……それぐらいは、許してくれよ?」




 俺も悟りを開いた僧侶というわけではない。相手が女性と知ってしまったからには、よからぬ煩悩も生まれる時もあるだろう。

 しかし、それはもう自然の摂理なのだ。




「わ、わかった。じゃあ、これからも一緒に暮らしてくれるんだね!?」



「他の人が聞いたら、誤解を生みそうな言い方なんですけど……まあ、そういうことだ。でも、マコトは本当に良いのか?それで」



「うん!僕、ユウトのことは信用してるから」




 そんな真っ直ぐな瞳で言われると、否が応でも変なことは出来ないな。当然、する気もないけど。




「じゃ……じゃあ、この問題は解決だ。一応な。で、次の問題!妖刀さん、“契約の儀”って具体的には何をするんだ?」



『エペタムで良いぞ、植村ユウト。“契約の儀”……やることは、簡単じゃ。ワシと戦って、勝てば良い』



「戦って勝つ?え、そもそも……どうやって、剣と戦うんです!?」



『ワシが人の姿となって、戦うんじゃ。まぁ、やる時になれば分かる。それより……本当に、やるのか?マコト』




 自身を手に取る剣士にもう一度、戦う意志を確認する妖刀に、彼女は決意を持って答えた。




「……やる。父さんの期待に応えるためにも」



『そうか。言うておくが、やるからには容赦はせんぞ。ワシは、おぬしが戦おうという小僧より遥かに強い。練習台にしようとでもしておるつもりなら、考えを改めることじゃな』



「わ、わかってるってば!」



『そして、もし……“契約の儀”が失敗すれば、ワシは先程の秘宝と同じように、どこかのダンジョンへと強制的に戻されることとなるじゃろう』




 本当に、大丈夫なのか?試験迷宮クノッソスでの戦いで、エペタムがマコトの身体を乗っ取ったことがあったが、あの少しの間でも動きはだと、すぐに分かるほどだった。

 もし、他人ではなく自分自身の自由に動かせる身体があったと思うと……。




「エペたんと、別れるのはイヤだよ……だから、絶対に勝つ。勝って、真の契約者として認めてもらうんだ!」



『……その心意気や、良し。確か、例の武術大会は一ヶ月後とか言うておったな。では、ワシとの“契約の儀”は三週間後。それまでに、“代わりの武器”と“戦いの策”を用意してくるがよい』




 そうか。愛用の武器が相手になるわけだから、マコトの当面の武器がなくなってしまうんだ。

 でも、待てよ……相手が人の姿に変わるのなら、剣ではなくなるってことなのか?

 とにかく、レベル4の秘宝アーティファクトと戦うのならば、それ相応の武器を用意する必要があるだろう。




「わかった……三週間後だね」



『うむ。では……ワシは、これより当日まで長き眠りにつく。人の姿となる為には、力を溜めなければならんのでな。それまでは、ワシに話しかけることも、ましてや抜くことも、してはならん。良いな?』



「う……うん」



『では、三週間後……おぬしの成長を、楽しみにしておるぞ。マコトや』




 そして、エペタムは眠りについた。

 すると、マコトが不安そうに俺を見てくる。




「だ、大丈夫だ!俺も、協力する。けど、残された時間は少ない……計画的に、動いていかないとな。この一ヶ月は、ハードになるぞ?マコト」



「はい!頑張ります!!」

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