上泉ヨシツネ

 明朝、人気ひとけの無い島の海岸まで足を伸ばした二人。


 マコトが強く呼び寄せたい人物を心で強く念じながら、『黄泉の香炉』に火を灯した線香を一本だけ立てると、モクモクと煙が発生して、その中から人影が現れる。


 黒い長髪で眉目秀麗な男性が、白い着物を着ている。間違いない、マコトの父・先代剣聖の“上泉ヨシツネ”だった。



 今日に当たって“上泉ヨシツネ”のことは、ある程度の情報をネットで仕入れてきた。



 剣聖・上泉ヨシツネ

 柳生新陰流の免許皆伝のほか、様々な剣術にも精通している上泉道場の先代当主。

 なんと、俺の親父のギルド『アルス・ノヴァ』の一員だったこともある元S級冒険者。

 生まれつきの病弱な体質だったために、若くして他界してしまったという。




「父さん……父さん、なの?」



「久しぶりだね、マコト。元気に、していたかい?」



「その声……その顔、間違いない……父さん!!」




 マコトが感極まって父親に抱きつくと、それを彼は優しく受け入れ、静かに頭を撫でた。

 なぜ、霊体が肉体があるかのように触れることが出来るのかは、いまだに謎だったが、やはりきっと秘宝アーティファクトの効果なのかもしれない。





「ずっと、こうしていたいところだが……マコト、私を呼び出したということは、何か聞きたかったことがあるんじゃないのかい?」



「は、はい!実は、僕……どうしても、勝てない相手と戦わなくちゃいけなくなって……父さんから、助言を貰えたら、と」



「勝てない相手……それは、マコトのかい?」



「え……?」




 マコトの両肩を掴み、全てを見透かすような真っ直ぐな瞳を我が子に向けるヨシツネさん。




「マコトが乗り越えなければいけないのは、その相手ではないね。己の心に潜む恐怖心、弱さ……それは、時に如何いかなる強敵にも勝る脅威だ」



「そ、そうです……どうしたら、己の弱さに打ち勝てますか!?」



「人には、それぞれ違った“強さ”があるものだ。強くなりたいという一心で戦える“求道者シーカー”、相手を蹂躙することに悦を見出す“戦闘狂バーサーカー”、分析を繰り返し論理的に攻略法を導く“専門家プロフェッショナル”。そして、誰かを守る為に力を発揮できる“守護者ガーディアン”……マコトは、どれに当てはまると自分で思うかい?」




 なるほど。確かに、一言でスイーパーといっても様々なタイプが存在する。俺なんかは結構、色々な要素を持ってるような気がするけど、マコトは……。




「僕は……誰かを守る為になら、力を発揮できるかもしれません」



「ならば、心が弱くなった時……誰かを思い浮かべて、その人の為に戦ってみなさい。勇気の原動力となるかもしれないよ」



「は、はいっ!やってみます!!」



「しかし、これだけの助言では不安だろうね。今……妖刀エペタムは、いるかい?」





 そう言われて、マコトは慌てて持っていた刀袋をほどき、中から妖刀エペタムを取り出した。





『これは……お久しゅうございます。我があるじよ』



「久しぶりだね、エペタム。今もマコトと一緒にいてくれて、嬉しいよ」



『あなた様の遺言なのです、当然でしょう』



「どうだい、エペタム。そろそろ、マコトと“真の契約”を結んでみる気はないかな?」




 真の契約……マコトと妖刀エペタムは、まだ仮契約状態だったってことか?




『ふむ。まだ、時期尚早なのでは?“契約の儀”は、諸刃の剣。成功すればを完全に解放することが出来ますが、失敗すれば……』



「今のマコトでは、無理だと思うかい?」



『成長しているのは、認めますが……まだ、精神的に弱いところが、ありますゆえ』




 そんな一人と一本の会話を聞いていたマコトが、話に割り込んでいく。




「やります!やらせてください!!」



『マコト……』



「エペたん……じゃなくてエペタムと、真の契約を交わせるようになれれば、自分にも、自信が持てるような気がするんだ」



『失敗すれば、二度とワシのことは振れなくなるかもしれんのだぞ。それでも、やるのか?』



「それは、イヤだけど……でも!」




 マコトたちが言い合っていると、ヨシツネさんの姿が次第に薄くなっていく。




「おっと。そろそろ、時間が来たようだ……あとのことは、二人で相談して決めると良い。けど、エペタム」



『はい!何でしょう?我が主』



「マコトは、強い……エペタムが、思っている以上にね。父であり師である私が言っているんだ。信じておくれ」



『主よ……しかと、心に刻んでおきましょう』




 そして、彼は次にマコトへと視線を向けた。




「人は高い壁を乗り越えた時に、更なる成長を遂げるもの……マコト、見事に乗り越えてみせておくれ。私は信じて、上から見守っていよう」



「はい!父さん……いいえ、師匠!!」




 最後に、彼の視線が向けられたのは……まさかの、俺だった。




「植村ユウト……だね。確かに、父親の面影がある」




 そうか。俺の父親とも面識があるんだ。




「不思議な因果だ。互いの子供たちが、こうして引き合わされているとは……植村くん」



「は、はい!?」



「私ののこと……これからも、よろしく頼むよ」



「はい!もちろ……え?娘!?」




 パッとマコトの方を見ると、両手で顔を覆って天を仰いでいた。どうやら、ヨシツネさんは最後の最後にとんでもない爆弾を投下していったらしい。




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