ルームメイト
「それで、勝負を受けた……と」
「……うん」
男子寮に帰ってくると、ひどくマコトが落ち込んでいたので、俺の部屋で柳生くんとの経緯を聞いた。お菓子を食べながら、テレビを見ている俺の隣で、ずっと体育座りで顔を俯けている。まるで、この部屋に棲みつく地縛霊のように。
「まぁ、気持ちは分かる。それは、さすがに許せないよな。男を、見せたんじゃないか?」
「でもさぁ、どうしよう……負けたら、退学だよ?」
「それは、まぁ……こうなったら、勝つしかないだろ!どのみち、いつかは越えなきゃいけない壁だったんだし」
ばっと顔をあげて、こちらを見てくるマコト。
あわや、怒られるのかと身構えていると……。
「ユウト!どうしたら、勝てるかな!?アドバイス、ちょうだい!!」
捨てられた子犬のような眼で、懇願してくる友人。
「俺に、アドバイス求めるの!?師匠とかに、聞いた方が良いんじゃないか?」
「だって、個人的な勝負だし……それに、ユウトの方が、僕のことには詳しいでしょ?」
「うーん、まぁなぁ。両方と手合わせした経験のある立場から言わせてもらえば、実力的には差は無いと思うけどな。むしろ、マコトの方が上まである」
「ほ、ほんと!?」
さすがに見ていたテレビを消して、俺は真剣にマコトと向き合う。
「だけど、問題はそこじゃない。マコト自身も、気付いてるんじゃないか?自分の中にある、柳生くんへの恐怖心に」
「そ、それは……」
「俺も、林間学校で軽いイップスみたいな状態になったから分かる。トラウマを抱えた状態だと、そもそも勝負の土俵にすら立てなくなる。そうなってくると、
「そう、なんだよね……ユウトは、どうやってイップスを克服したの?」
「あの時は、アレックスさんの行動と言葉に勇気づけられたんだ。マコトも、そういう尊敬できる人みたいなの、いないのか?」
俺の質問に、しばし悩んで考えると、マコトは一つの答えを導き出した。
「……やっぱり、父さんかな。今は、天国に行っちゃったけど」
「ん、おぉ……そうか。なら、話してみるか?」
「えっ?」
「死者の魂を呼んで、少しの間だけ話せる……『黄泉の香炉』っていう、
そう言いながら、俺は机の上に置いてあった例の香炉を手に取って、彼の前に持っていく。
「もしかして……それが、『黄泉の香炉』?」
「ああ。三回使用することが出来るんだけど、既に二回は使用済み。あと、一回だけ誰かを呼び寄せることが出来る」
「そんな、凄い秘宝……一体、どうしたの?」
「ちょっと、知り合いにダンジョン攻略を誘われてさ。その報酬みたいなもん?」
一応、アスカにも使用を薦めたのだが、必要ないと言われたので、俺が引き取ることになった。
いつか、使い道が来るだろうとは思っていたが、こんなに早くやって来るとは。魅力的なアイテムではあるが、死者を呼び寄せられるものが部屋にあるというのは、妙な恐ろしさがあるもので、こちらとしても早急に誰かの為に使ってあげたいと思っていたところだった。
「ユウトって、意外と顔が広いよね。プライベートで、色んなダンジョンに潜ってない?」
「まぁまぁ、良い経験は積ませてもらってるかな。んで、どうする?何なら、今でも呼び出せるけど」
「今!?さ、さすがに……今は、ちょっと」
「ん?ここじゃ、生活感ありすぎか」
確かに霊とはいえ、せっかくの感動の再会を学生寮の一室でホイホイと呼び出しては、雰囲気も何もあったものではない。
「それも、あるけど……ほら!私たちが、同棲してるとか勘違いされちゃうかもだから。その……」
「はぁ!?男同士なんだから、普通にルームメイトだと思うだろ。マコトのお父さんって、そういう同性愛とかに敏感な人だったのか?」
「えっ?あ、うん……まぁ、その……そんな感じ、かな。多分、わかんない」
急に顔を真っ赤にして、しどろもどろになるマコト。この反応、まさか……!
「もしかして、マコト……お前」
「な……なに?」
「同性愛者……男が好きなのか?俺は、そういうのに偏見が無いから大丈夫だぞ!あ、大丈夫って言っても、俺は女の子が好きだからな!?それはそれで、何か誤解を生みそうな言い方か」
「ち、違うから!変な心配しないでよ!!もう……」
あわや、自分の正体に気付かれたのかとドキドキしていた上泉は、内心では胸を撫で下ろしていた。
とはいえ、当たらずとも遠からずではあるが。
そして、慌てて彼は話題を逸らした。
「でも、良いの?ユウトの秘宝なのに、僕が使っちゃっても……」
「そうだな……今なら、お得キャンペーン中だ!俺のギルドに入ってくれるのなら、
「そういえば、ギルドを設立したとか言ってたね……あれ、本当だったの!?」
「ほんと、ほんと。すでに、5人は集まってる。申請には残り5人のメンバーが必要なんだ。特に、スイーパー」
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