靴箱の手紙

 朝練を終えた俺とマコトは、その足で“冒険者養成校ゲーティア”の校舎へとやって来た。


 そういえば、スカウトの件を持ちかけないとだ。

 ちゃんと聞いたことがなかったが、マコトは希望のギルド先とかあるのだろうか?彼の実力があれば、有名どころでも十分に入団できる可能性がある。

 誘われたら断れなさそうな性格をしてるし、本当に俺らのギルドなんかに誘っていいものなのか。


 そんなことを考えていると、いきなりマコトに名前を呼ばれた。




「ゆ、ユウト!たたた……大変だよ!!」



「どうした?靴箱の中に、虫でもいたか〜!?」



「虫じゃなくて、これ!」




 彼が見せてきたのは、一通の折り畳まれた便箋びんせんだった。マコトの靴箱の中に、入っていたのだろう。




「それって、もしかして……」



「挑戦状かな!?武術大会の!誰からだろう……」



「は?いやいやいや!そんな物騒なもの、靴箱なんかに入れるかい。どう考えても、ラブレターだろ」



「ら、ららら……ラブレター!?」




 めちゃくちゃ、動揺してるよ。結構、シュッとした顔立ちしてるのに、そういうのに免疫ないのか?

 中性的で、モテそうなんだけどなぁ……。




「今の時代でも、こういう文化は残ってたんだなぁ……良かったじゃんか。マコト」



「なんか、おじいちゃんみたいなこと言うね。ユウト」



「うっ!あ、いや……ってか、差出人さしだしにんは誰なんだ?それで、挑戦状かどうか分かるだろ」



「おお、そっか。えっと……あ、書いてあった!知らない名前の子だ。でも、女の子っぽいよ」



「なら、ラブレターで決まりだな」




 マコトは、キョロキョロと周りを見て、誰もいないのを確認すると、こっそりと便箋を開いて黙読を始めた。ここで、読むんかい。まあ、いいけど。




「どうしよう!ユウト!!」



「今度は、何だよ?」



「今日の放課後、校舎裏の花壇前で待ってます……だって!」



「あんまり、中身を教えない方がいいぞ?でも、それは……いよいよ、そういうことかもな」




 まさか、マコトに先を越されることになるとはな。まぁ、三浦に彼女が出来るよりはショックが小さいか。




「どうしよう!?どうすればいい?これって、そういうことだよね!」



「良い子そうだったら、付き合っちゃえば?」



「えー!?だって、名前も知らない子だよ?」



「なるほどね。じゃあ、定番の“まずは、お友達から”とか?」




 全く、女子から告白されるということが、どれだけ恵まれてることなのか理解しとらんな。

 それか、本当に色恋沙汰に興味が無いのか?草食系っぽいもんなぁ。




「でも、下手に期待させちゃったら、可哀想じゃない!?」



「あー、もう……お前の好きなようにしろ!彼女も出来たことないような奴に、恋愛のアドバイスを求めるな!!悲しくなってくるわ」



「ご、ごめん……こういうの、はじめてだったから。でも、付き合う気とかないから、今は。この子が、いくら良い子だったとしても」



「そっか……じゃあ、誠意を持ってお断りをしてきな。向こうも、相当な勇気を持って出したラブレターだろうから」



「そう……だよね、うん!そうする。ありがとう、ユウト」




 ぐぬぬ、もったいない……とか、思っちゃってる俺みたいなのには、一生ラブレターとか貰えることなんてないんだろうな。

 マコトなら、この先にいくらでもチャンスはありそうだし。まぁ、いいか。


 一段落して、上履きに履き替えていると、大事そうに便箋をカバンの中にしまいながら、彼が続けた。





「でも、意外。ユウトって、彼女とか作ったことないんだね」



「作ったことないんじゃなくて、作れないの!いつでも、作れるみたいな言い方しないでくれ」



「えぇ!?でも……ユウトは、モテてると思うよ。自覚ないの?」



「えっ。誰から、モテてると?」



「ユウトに好意を、持ってそうなのは……月森さん、神坂さん、あとは転校生の子だってそう!」




 えっ!やっぱ、俺の思い上がりじゃなかったのか!?他の人から見ても、脈があると感じてるってこと?おぉ!!




「もしかして……俺は、モテるのかッ!?」



「あははっ。うんうん、でも……誰を、選ぶの?もし、みんなから好かれてたら」



「うっ!?そ、それは……」



「お父さんが、言っていた。“二兎を追うもの一兎をも得ず”……ってね」



「くぅ〜!ちなみに……今の日本って、一夫多妻制とか無いんですか!?」




 あれだけ優しいマコトが、悪魔のようにさげすんだ瞳で、俺を見つめている。

 いかん。地雷を踏んだか。




「はぁ〜。真面目に答えると、一部の上級国民には与えられてるらしいよ」



「えっ!?マジ?」



「日本は、国力強化の政策を続けてきたでしょ?僕らの頭の中にある“スキルシステム”も、その一つ。これによって、優秀な人材からは目に見えて才能スキルを子供に受け継がせることが出来るようになった。父さんの【剣聖】とかも、そう」



「だから、優秀な人材に“一夫多妻”の権利を与えて、良い遺伝子を継承させていこう!ってこと?」



「“一妻多夫”もまたしかり、だけどね。冒険者の職業でいうと、Sランクになると権利が貰えるんだって……なーんてね!全部、都市伝説のようななんだけど」



「いや、噂かよ!本当に作れるのかと思ったじゃんか、ハーレムぅ……」



「はぁ〜、やれやれ。ユウトには、しばらく恋愛は無理そうだね……うん」












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