文曲

 明朝、東の海の浜辺。



 今日の朝練は、七星剣術の稽古だ。

 最近では、週の半分を拳法の稽古に当てている分、一回一回の練習を濃密なものにしていかなければならない。


 互いに木刀を使用しての模擬戦闘を、マコトと行う。アスカとの手合わせとは異なり、こちらは何でもありの実戦形式。

 ただし、七星剣術を主体に戦うということだけが条件だ。教える師匠によって、方針も大きく変わるものだ。




「腕を上げたな!マコト!!」



「ありがとう、僕は、七星剣術一本だからね!ユウトには、負けてられないよ!!」




 正直、マコトに合わせて【近接戦闘(刀剣)】のrankを70ぐらいに抑えていたのだが、もう少し上げても良いかもしれない。




【虚飾】が、【近接戦闘(刀剣)】rank80に代わりました




(くっ!剣圧が強く……ちょっとずつ、本気を出してきたね!?ユウト!!)



「どうした!?ここまでか?」



「まだまだ!七星剣術・四つ星……文曲メグレズ!!」




 ボッとマコトの右眼に蒼の炎が宿る。

 そして、植村の一太刀を紙一重で躱し、返しの一閃を放った。

 その鋭い一撃に“自動回避”を持ってしても、あわや直撃といったほどに肉薄される。



 少し離れた場所で、師である“北斗ユウセイ”と手合わせしていた姉弟子“安東イブキ”は、弟弟子おとうとでしたちの戦いを横目で見ながら、感心した。




「おぉ!マコトくん、“文曲メグレズ”を完璧に使いこなせるようになってるじゃん!!」



「元々、センスがある上に努力家だからな。とはいえ……ここまで早いとは、思わなかった」




 七星剣術・四つ星“文曲メグレズ”。

 感覚器官である“眼”や“耳”などに“チャクラ”を集中することで、視覚や聴覚を著しく上昇させるという、地味だが強力なバフ技。

 繊細な“気”のコントロールを必要とする為、“静”の極みと言われている。

 その為、この技だけは“動”の性質を持つ植村が使いこなすことはかなわず、弟子たちの中でも完璧に使用できるのは上泉だけとなっていた。




「七星剣術・一つ星……貪狼ドゥーべ!」




 接近戦に危機感を覚えた植村は、体勢を立て直すべく距離を置いて牽制の衝撃波を放つ。




「七星剣術・一つ星……貪狼ドゥーべ!!」




 それに応じて上泉も同技を放つが、それは突きのモーションで放つ異質なものであった。

 衝撃波を剣先の一点に集中させることで、レーザービームのような一閃に変えると、植村の貪狼ドゥーべを貫いて霧散させ、そのまま彼の頰を掠めた。




「な……っ!?」



「やるぅ!何、あれ!?」




 二刀流の木刀で師に打ち込みながら、すっかり弟分の戦いに気を持ってかれている安東が、一人でテンションを上げている。




「おい!お前も、稽古に集中しろ!!」



「何です!?あれ?」



「はぁ……“文曲メグレズ”で、“貪狼ドゥーべ”の気穴を看破して、その針の穴を通すように光線状の“貪狼ドゥーべ”を撃ち込んだんだ。いわゆる、“ツボ”みたいなもんだな。そこを狙えば、集まっていた気はバラバラになり霧散する」



「すごっ!じゃあ、どんな衝撃波も無効化できるってこと?」



「巨大な技になると気穴も多くなるから、難しい。だが、そこらの気系の飛び道具なら攻略できるだろうよ。ただ、おいそれと出来るような技術じゃねえ。マコトは元々、類稀なる“眼”を持っていた。それを、更に“文曲”で強化したことで、あんな離れ業を実現させたんだ。俺でも、出来るかどうか微妙な芸当だ」




 片鱗は感じていたけど……やっぱり、マコトは天才だ。成長速度が、尋常じゃない。




 こうして、朝の稽古は終了した。

 結局、最後には(刀剣)のrankを90にまで

 何とか、最後は一本を取ることが出来たが、うかうかしていると、すぐにでも追い抜かされてしまうだろう。




「はぁ……はぁ……やっぱり、ユウトは強いや。今日こそは、いけると思ったんだけどなぁ」



「よく言うよ。“文曲メグレズ”に、改良型の“貪狼ドゥーべ”……いつの間に、あんなの身に付けたんだ?レベルアップしすぎだろ」



「へへっ、驚いた?それもこれも、ユウトを倒す為に頑張って覚えたんだよ〜」



「今度の武術大会、俺に挑戦状とか叩きつけてこないだろうな?勘弁してくれよなぁ」



「実は、それも考えてたんだよね。でも、同じクラスの生徒には挑戦状が出せないみたいなんだ。はぁ……残念」




 そうだったのか、危ない危ない。実際、剣の腕だけでいえば、マコトの方が素養はあるからな。

 さすがは、“剣聖”の血を継ぐ者ってことか。




「あ!じゃあ、あいつにリベンジするのは?柳生ムネタカ……だっけ?今のマコトなら、余裕だろ」



「……そ、それは。やめておくよ、勝てる気がしないから。はは」



「……マコト」




 おそらく、実力は拮抗。もしくは、俺の予想通りマコトの方が上回っているはずだ。

 ただ、彼が勝てる気がしないというのは実力の問題ではなく、精神こころの問題なのだろう。

 彼自身というより、心に抱えているトラウマを乗り越える自信が無いのだ。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る