顔合わせ・2
アスカに肘で小突かれ、慌ててサクラが自己紹介を始める。
「えっと、龍宝サクラです!この間、ロークラスAに転入したばかりの、ほぼ素人です。ポジションは、サポーター。一応、傷や怪我などを治したりは出来ます」
コップの水をくいっと一口、飲みながら神坂さんが関心を示した。
「凄い、ヒーラー!?それこそ、貴重な人材じゃない?」
「サクラは治癒だけじゃなくて、術による攻撃も出来るんだ。謙遜してるけど、かなり頼りになると思うよ」
俺が情報を捕捉すると、サクラは「いえ、そんな」と小声で呟きながら、顔を真っ赤にして俯いた。
「もしかして……口説いてる?龍宝さんのこと」
「ちちち、違うよ!一緒に、冒険したことある身として、情報を共有しただけ!!」
「ぷっ、慌てすぎ。逆に、怪しいよ?じゃあ、最後……ギルドマスター、よろしく」
からかい上手な神坂さんに、ポンポンと肩を叩かれ、俺は溜め息を吐きながら最後の一人として自己紹介をする。
「え〜、植村ユウト。ロークラスAで、ポジションはバーサトル?に、なるのかな。一応、形だけのギルドマスターってことになってます」
「またまた、ご謙遜を。実力も、一番上でしょ?この中では」
「アスカまで、からわないでよ〜。ホントに、トップの器じゃないんだってば!俺は」
そんな俺に、雪鐘さんがフォローを入れてくれる。
「まぁまぁ、良いと思いますよ。黒一点のギルドマスター」
「あ、いや!俺以外、女の子なのは狙ったわけじゃないからね?言っておくけど」
「狙ってたら、怖いっスよ。でも、色んなポジションの人たちが集まりましたよね……バーサトルが二人に、ランナー、サポーター、ストリーマー」
それを聞いて、すかさずアスカが雪鐘さんに突っ込んだ。
「初期メンのバランスじゃないな……普通、ほとんどがスイーパーとかになるんだけど。逆に、一人もいないとは」
「やっぱり、欲しいですか?スイーパーは」
「まぁ、別に……私とユウトもスイーパーは兼任できるし、ある程度は神坂さんとサクラも戦えるみたいだから、急ぎで必要ってわけでもないけど」
確かに、ロールプレイングで初期パーティーに戦士や武闘家がいないようなものだと考えると、安定性には欠けるかもしれない。
そんな話を聞いて、神坂さんがアスカに質問する。
「スカウトとか、しないの?正式に立ち上げるには、10人は必要なんだよね。あと、5人」
「私のいるハイクラスは、ほとんどの生徒がギルドに所属してるから難しいんだよね。だから、ユウトに頼んであるんだけど……進捗は、いかがですかな?ギルドマスター」
アスカの鋭い視線が、俺に突き刺さる。
色々と忙しくて、全く進んでない……。
「こ、これから!ちゃんと、スカウトしていきます!!まさか、一気に半数までいくなんて思ってなかったんで、油断してましたっ」
「そんなこったろうと思いましたよ。でも、実際……スカウトするのも、難しいよね。ユウトが言った通り、うちらなんて今はサークル活動みたいなもんだから。ギルドホームもなければ、安定した給与を支払えるかすらの保証もない」
「確かに……それは、そうなんだよな〜」
注文したメニューを受け取って、テーブルに置きながら、神坂さんが提案をする。
「と、なると……私たちみたいに、損得勘定なしで人柄に惹かれたような人たちを誘っていくしかないんじゃない?」
「人柄に……」
「単純に、近しい人とかさ。三浦くんとか上泉くん、朝日奈さんとかヒカルとか……植村くんが頼んだら、入ってくれそうだけどね。どう?」
「そう……だね。勇気を出して、誘ってみるかぁ」
全員が入ってくれたら、一気に九人。正式にギルド設立できるのも、目前だ。
まずは一番、頼みやすそうなマコトからチャレンジしてみようかな。同じ部屋だし、言えるチャンスは多いだろう。
「話は変わりますけど……皆さんは、今度の“武術大会”は参加なさるんですか?」
届いた手作りフライドポテトをつまみながら、雪鐘さんが全員に尋ねる。
“武術大会”とは“
ただ、それはトーナメント形式などではなく、同学年の生徒に“挑戦状”を叩きつけ、それが受理されたら正式に試合が決定するというもの。
勝てば、報酬と共に互いが相手に望むものを要求できる……まさしく、「決闘」と呼ばれるものだった。
両者の承諾があれば、よほど理不尽な要求でない限りは学園からも容認されるらしい。
因縁を持つ者同士の関係を修復させる為の名目らしいが、余計に因縁が深まりそうな方法である。
「俺は、やらないかな。争い事も、目立つのも苦手だし」
しかも、この“決闘”は校舎裏に設立された『闘技場』で開催され、全校生徒が見守る中で行われるというのだ。しかも、どちらが勝つかの賭けまで出来るという。いくら、学園通貨を使うとはいえ、何というアンダーグラウンドな行事なのか。
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