第 11 章 剣聖を継ぐ者

顔合わせ・1

 久しぶりの『灰猫亭』に来ていた俺。テーブルを挟んだ反対の席には、アスカとサクラが座っていた。




「よ……よろしくお願いします!」




 サクラは一枚の紙を、勢いよく俺に差し出した。

 それには、綺麗な字で“入団志願書”と書かれていた。あれ……既視感デジャヴか?




「待って、待って!サクラは、『エクスプローラー』に所属するんじゃないの!?」



「いえ。冒険者になるからには、所属するギルドも自分でどうにかしろ……と、父が。それが、条件だと言われました。なので、ユウトさんのギルドに」



「アスカが、誘ったの?」




 俺の質問に、呑気にファッション誌を読んでいたアスカが、ハッとして答えた。




「一応、うちらもギルド組んでるよ〜ぐらいは、言ったかな。でも、決めたのはサクラだから。ね?」



「はい!お二人がいるなら、色んな意味で安心感がありますし……私じゃ、ダメでしょうか?」




 自信なさげに、上目遣いで聞いてくる彼女。

 こちらも、色んな意味で断る理由がない。




「ダメどころか、大歓迎だよ!でも、いいの?うちらのギルドなんて、まだ何にも成果を上げてない学生のサークル活動みたいな状態だよ!?」



「構いません。きっと、大きなギルドになるって、確信していますから!」




 凄い自信だけど、何の根拠があるんだ?まさか、【聖女】の力で未来を見通すことが出来る……わけないか。

 読んでいたファッション誌を、店の本棚に戻すアスカ。関係ないけど、こういうインテリアが置いてあるのも学生食堂ならではの庶民感がある。




「あははっ!ギルマスより、ギルマスっぽいこと言ってる。で、どうすんの?入れてあげるの、あげないの!?」



「い、入れます!これから、よろしくお願いします!!」



「は、はいっ!ありがとうございます、団長!!」



「あ、いや……呼び方は、今のままで良いかな。うん」




 俺は、渡された“入団志願書”に、ギルドマスターとして認可する署名を記した。全て手書きっぽいけど、本当に効力ある書類なのだろうか?

 まあ、いい。何事にも、形式的なことは大事だ。




「いらっしゃいませ〜」




 料理の下ごしらえをしながら、店主である中条先輩が、新たに入店した客を迎え入れる。

 その客人たちを見つけて、アスカが手招きを始めた。




「おっ。来た、来た!こっち、こっち〜」




 呼び込まれて、俺たちのいる席へと歩いてきたのは“雪鐘ミク”と“神坂ナオ”という異色の組み合わせの二人であった。

 いや、待てよ……この二人って、まさか。




「せっかくの機会だから、呼んじゃった。『アルゴナウタイ』初期メンバー、大集合の巻……ってね」




 そうだ。二人とも、俺のギルドに入ってくれることになっていたんだった。ちゃんとした顔合わせもしてなかったから、すぐには気付かなかった。


 俺の隣に座ってきた神坂さんは、すっかりお馴染みとなった“入団志願書”を手渡しながら言った。




「はい、これ。こういうの書かなきゃいけないんだったら、早く言ってよね。急に、七海さんに渡されて、びっくりしちゃったよ」




 そんな彼女に、申し訳なさそうにアスカが謝る。




「ごめん、ごめん。初対面で、いきなり変な紙を渡されたら、そりゃビビるよね。ユウトから話は聞いてたから、知った気になってたけど」



「ううん、気にしてないよ。私も、七海さんのことは色々と噂で聞いてたから。ちょっと、緊張しちゃったってだけ」



「確認しとくけど……それ、悪い噂じゃないよね?」



「あはっ!大丈夫、大丈夫。おおむね、良い噂だったから」



「一部は、悪い噂もあったんかい」




 初対面とは思えないほど、会話が弾んでるな。

 波長も似たような二人だし、息が合うのかもしれない。

 中条さんから水の入ったコップを受け取った雪鐘さんも、神坂さんと自分の前にそれを置くと、雪サクラの隣に腰を落ち着けた。




「これで、全員ですか?」



「そうだね。せっかくだから、自己紹介でもしておく?初対面同士も、いるでしょ」




 アスカの提案に、「ハイッ!」と小さく挙手をして雪鐘さんが率先して、自己紹介を始めた。




「では、私から。ロークラスB所属、雪鐘ミクといいます。ポジションは、ストリーマーです。配信などの資金調達で、お役に立てたらと思ってます。よろしくお願いします!」



「ストリーマー……だから、首からカメラを掛けてたんだ。なるほどね」




 感心しながらも、ちゃっかり中条さんに注文を済ませた神坂さんが二番目に続く。




「私は、ロークラスAの神坂ナオ。ポジションは、ランナー。多少の戦闘術も身につけてるところなんで、ある程度の自衛ぐらいなら出来るかな」



「体育祭の時は、凄かったよ。優秀なランナーって人材不足だから、助かるわ〜」



「はは……期待に添えれると良いけど。じゃあ、次はそんな七海さん。どうぞ」




 神坂さんに促され、アスカはコホンと咳払いして、自己紹介を始めた。




「ハイクラスA所属の、七海アスカ。ポジションは、バーサトル。一応、今のギルドでは団長補佐?副団長みたいなポジションでやってるけど……これから、相応しい人が現れたら譲るかも。とりあえず、よろしく」





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る