転校生
一番乗りに到着したロークラスAの教室。
朝練を終えた俺は、自分の机に突っ伏して軽く仮眠を取っていた。仮眠と言っても、実際には目を瞑っているだけで、色々と考え事をしているだけなのだが。こうするだけでも、身体の疲れというのは取れてくれるらしい……と、何かの記事で読んだ気がする。
雪鐘さんの加入は、後で本人と話してから正式に決める運びとなった。自分的には来る者拒まずで断る理由は無かったのだが、あっさり認めてしまってチョロいギルマスと思われるのも“何か悔しい”という浅はかなプライドである。
よくよく考えたら、彼女は個人としても名のある
その道に通じる者しか感じれない嗅覚でも、働いたのだろうか?
何にせよ、ライブ配信のノウハウを知ってる冒険者の加入はありがたい。新興ギルドにとっての一番の問題は、資金調達であるからだ。
ダンジョン攻略の生配信は、手っ取り早く稼ぐには一番の方法ではある。有名になって顔が世間に広まるというのは気恥ずかしい気持ちもあるが、まずは有名になってから悩めというもの。
現時点で確定しているギルドメンバーでも、アスカに神坂さん、そして雪鐘さん。ルックスだけ見ても、逸材だらけだ。十分に、バズる可能性はあるだろう。
あまり、女性をルックスで評価するというのは
次第にギルドを運営する未来図まで想像が及んでいると、担任の
すっかり他の生徒たちも席に着いていて、全く動じることなく考え事をしていた自分が恥ずかしくなる。
さすがは、【妄想】をrank100まで上げた者だ。
などと、自分で自分にツッコミを入れていると、隣の席の月森さんがクスクスと笑いながら、俺に話しかけてきた。
「おはよう。よく、眠れた?」
「あ……はい。おかげさまで、はは」
「ほら。寝癖、ついちゃってるよ?」
そう言って、彼女は優しく撫でるように俺の寝癖を直してくれた。朝から、不意にドキドキさせないで欲しい……ほんと、助かります。
「突然ですが、今日からロークラスAに転校生が配属されることとなりました。皆さん、温かく迎えてあげて下さいね」
聖先生の一言に、クラス中がザワつき始めた。
いつの時代でも、転校生イベントというものは盛り上がるものなのだ。
しかし、“
先生に呼び込まれて、教室に入って来た女子生徒の姿に、クラスメイトたちが息を呑む。
「可愛い」だの「綺麗」だの「彼氏いるのかな?」など、転校生にまで聞こえる声で言うなよと注意したい。
そんなことより、俺はその転校生が自分のよく知る人物だということの方に驚いていた。
「あの、その……龍宝サクラと、いいます。これから、よろしくお願いします」
おどおどしながら、簡潔な言葉でペコリと頭を下げた彼女に教室中から拍手が巻き起こる。
それと同時に、今度は「龍宝って、あの龍宝!?」や「龍宝財閥のお嬢様かよ!」だの「だから、この時期に転入できたのか?」などなど、憶測が飛び交う。珍しい苗字な上に、冒険者を目指す者なら『エクスプローラー』を運営している財閥の名前を知らない方が少数派だろう。
聞こえて来る声に、明らかに動揺した様子を見せるサクラは助けを求めるようにキョロキョロと顔を動かすと、ふと俺と視線が合った。
すると、彼女は急に表情がパッと明るくなって、思わず声を発してしまう。
「ユウトさん!」
天使のような微笑みで手を振られ、俺は反射的に笑顔で返すが、すぐに気付く。
クラス中の視線も、俺に注がれていることに。
そして、周囲の友人から言葉の矢が刺さってきた。
三浦からは。
「お前……手をつけるのが、早すぎんか?転校生だぞ」
朝日奈さんからは。
「えっ、誰!?ユウトの彼女?」
マコトからは。
「薄々は、感じてたけど……もしかして、ユウトって軽い男!?」
神坂さんからは。
「植村くん……あとで、詳しく。よろしくね〜」
月森さんからは。
何もなく、ただただ無言で睨まれているような気がする。気のせいであってほしい。
「ちがーう!何度か、一緒にダンジョンを潜ったことがあるだけ!!ただの冒険者友達だから」
と、いうか……ここに、転校してきたってことは。
「お父さんからの許しが出たの!?サクラ?」
「はい!黙ってて、すみません……いきなり、転校してきて驚かせたくって。えへへ」
「はは……そうだったんだ。おめでとう!」
はっ!興奮して、みんなの前で余計な会話をしてしまった!!
そして、耳に入ってくる声。
「今、呼び捨てしてなかった?」
「お父さん?まさか……そういう関係!?」
これは、釈明するのに丸一日はかかりそうだ。
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