査定・2
一週間後……。
小鳥が囀り、朝の木漏れ日に照らされながら、二人の男女が黙々と組み手を交わしている。
“
共に本気は出していないものの、【虚飾】と【七変化】を使用しており、深い読み合いと反応速度が磨かれるハイレベルな攻防となっていた。
「良いでしょう!今日の朝練は、ここまでとします。二人とも、お疲れ様」
「「ありがとうございました!!」」
二人の組み手を静かに見届けていた“竜胆エリカ”が稽古の終わりを告げると、すぐに手を止め植村と七海は師に深々とお辞儀をする。
それを見届け、彼女は静かに去って行った。
竜胆の稽古は、いつもこの人工島にある小さな森で行われる。彼女いわく、島の中で一番の自然エネルギーが密集している場所が
師が去っていくのを見届けた二人は、持参したタオルで汗を拭いた。
「やっぱ、競う相手がいると良いね。一人の時は、黙々と自分と向き合うだけだったから……それも、悪くないんだけど。刺激が足んないってゆーか」
「要するに……俺を誘って、良かった。そういうこと?」
「そういうこと!ホント、習ってくれてありがとね」
「いえいえ。こちらこそ、誘ってくれて感謝ですよ」
シュッと制汗スプレーを、自分の身体に吹きかけながら、彼女が感謝してくる。
ふわりと香ってくる良い匂いに、思わず目を向けてしまう。
「ん……使う?貸してあげよっか」
「いや、別に」と言おうとする前に、彼女からスプレーを投げつけられ、思わず反射的に受け取ってしまった。
「こういうの、ちゃんと持ってるんだ。ちゃんと、女の子なんだなぁ。アスカも」
「ケンカ売っとんのか。誰でも持ってるわ、それぐらい!ユウトは、もう少し身だしなみとか気にした方がいいよ?ただでさえ、私服もダサいのに。そんなんじゃ一生、結婚できないんじゃない!?」
「は、反撃がエグすぎる……そこまで、言わなくても」
「あ、言い過ぎた。ゴメン、ゴメン……でもさ!結婚するなら、龍宝家の夫婦みたいになりたくない?将来」
「あぁ、確かに驚いたね。あんなに、奥さんのこと愛してたなんて……良い意味で、意外だったというか」
素直に、受け取ったスプレーを自分にも吹きかけて、俺はそれを彼女に投げ返した。
「子供みたいに泣いてたよね、サクラのパパさん。泣き方は、アレだったけど……そんなに愛されてるなんて、奥さんは幸せだったんじゃないかな」
そういえば、アスカのお父さんも他界してたのか。
そういう意味でも、何か思うところがあったんだろうな。
「でも……結局、サクラのことはどうなったの?」
「んー。それが、まだ音沙汰なし。もしかしたら、不合格になっちゃったのかも……」
あの後、イツキさんの説得の効果もあって、試験の合否は一度リセットされた。もう一度、親子で話し合って、改めて互いの納得する答えを出すという結論へと至ったのだ。
しかし、それから一週間。サクラからは、まだ何の報告も無かった。優しい彼女のことだ。父の真意を聞いて、自ら身を引いたということも十分に考えられる。
俺が不安そうにしていると、気付くとアスカが下から顔を覗かせてきて、驚いた。
「もしかして……結婚できないって、言われたこと。まだ、落ち込んでんの?」
「えっ?それは、もう気にしてないよ」
「まぁまぁ。でもさ!ユウトは、他に良いところ、いっぱいあるし?意外と“運命の人”って、すでに近くにいたりするのかもよ!?」
「だから、気にしてないっつの。なぐさめなくて、結構なんで」
「はぁ……気付かんか〜。ほんと、鈍感」
最後、彼女が何か小声で呟いたようだが、はっきりとは聞き取れなかった。
「ん?」と俺が尋ねようとすると、彼女は慌てて話題を変え出した。
「そ……そういえば、雪鐘さんのことなんだけど!」
「雪鐘さん……ああ、確か解雇は白紙に戻ったんでしょ?一角くんたちの、減俸処分も」
「そうなんだけど。やっぱり、退団したんだって」
「えっ、なんで!?天下の五大ギルドだよ?」
「そうだけど……白紙に戻ったとはいえ、あんな簡単に解雇してくるようなオーナーがいる所じゃ、不信感は芽生えるでしょ。それに、他に入りたいギルドが出来たみたいでさ」
そう言いながら、彼女は一枚の用紙を俺に見せてきた。そこには、いかにも手書きといった感じで、『入団志願書』という文字と、“雪鐘ミク”の氏名が記されていた。
「それ……どこのギルドの、入団志願書?」
「『アルゴナウタイ』……ウチのギルドの入団志願書。私たちのギルドに入りたいんだって、彼女」
「は……はぁ!?なんで?」
「私たちと一緒の方が、“撮れ高”が稼げそうだから……とか、言ってたような。私は二つ返事でOKしたけど、ギルマスにもお伺いは立てないとかないと、と思って」
「ギルマス?あ……俺か!」
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