査定
無事にダンジョンを攻略した俺たちは後日、雪鐘さんの撮影した記録映像を確認した龍宝オーナーに呼び出され、サクラの試験の合否を聞くべく、ギルドホーム『ミストルティン』のオーナールームに集合した。
まるで、魔王討伐を王様に報告しに来た気分だ。
実際、自分には関係ないことではあるのだが、サクラは一緒に冒険した仲間だ。合格して欲しい。
肝心のオーナーは、まだ来ていなかったが、その場にいた
「雪鐘さんは、分かるけど……なんで、ツバサたちまで、ここにいるわけ?」
「僕らも、さっぱり。こっちも、呼ばれたから来てるだけだよ。事情聴取でも、するつもりなんじゃないかな」
「なーるほど。粗探しする気満々って、ことですか。はいはい」
アスカが一角くんと話していると、部屋の扉が開かれて、執事の藤村さんが先に中へと入って来る。
「皆様、お待たせいたしました。オーナーが、ご到着されました」
その言葉に、部屋の中の空気がピリッと締まる。
藤村さんのエスコートで、中に入ってきた龍宝オーナーが自分のデスクに着席すると、ふっと息を吐いて一言目を発した。
「全員、いるな。では……早速、本題に入ろう」
前置きとか無しに、いきなりか……緊張してきた。
「結果だけ、先に伝える。努力は認めるが、今回の試験は“不合格”……よって、サクラには冒険者の道は諦めてもらう」
その場にいた全員が驚きの表情を浮かべる者、案の定といった表情を浮かべる者に分かれる中、アスカが明らかに不機嫌な様子で食ってかかった。
「ちょっと、待ってください!その理由を、教えてくださいませんか!?本当に、ちゃんと査定してくださったんですか?」
「……なら、教えよう」
そう言って、彼はデスクの上に『ダンジョンカメラ』をゴトリと置いた。
「試験中の記録映像を、見させてもらった。だが、これには映ってない空白の時間が存在した」
その言葉に、雪鐘さんが慌てて反論する。
「そ……それは、お伝えしたはずです!私も、悪魔による襲撃をうけてしまって、撮影できなかった時間が存在すると。それは、サクラさんの責任ではないと思うのですが」
「本当に、そうか?この空白の時間に、鳴海たちが支援行為を行っていたとしたら……“四人で攻略する”という条件を逸脱した、違反行為となるのではないか!?」
「そ、そんなことは……!」
事情はどうあれ、実際はオーナーの言う通りではある。雪鐘さんも後ろめたい気持ちがあるのか、強く反論は出来ないようだ。
そこへ、鳴海さんが割り込んで意見を述べた。
「我々は、指示通りにサクラお嬢さんたちと交戦もしました。一度は敗北し、気を失っていたところ、ボス戦が始まった最中に再び目を覚ましたのです」
「そうじゃ!本来なら、ワシらはそこで
鳴海さんに次いで、牛久さんも必死になって弁明してくれている。本当に、良い人だというのが分かった。
そして、鳴海さんは話を続ける。
「そして、目を覚ました我々は、今度は“ボスを先に倒すこと”に目標を切り替えて行動を開始したのです。それが、結果的に手助けをする形にはなってしまいましたが、不可抗力と言えるでしょう」
「……なぜ、そこでもう一度、サクラたちに攻撃を仕掛けなかった?その方が、確実に任務は遂行できたはずだ」
「お言葉ですが、我々にだってプライドはあります。一度、やられた相手を苦戦しているところに横槍を入れてまで、仕留めてやろうなど……どうしても、実行することは出来ませんでした。我々の本業は、プレイヤーキルでは無い。ダンジョンを、攻略することですので」
「ふん。つまらんプライドなど、いらぬ。私が求めているのは、結果だ!優秀とはいえ、所詮はまだ学生か……どいつもこいつも、まだまだ青いわ」
オーナーの言葉を聞いて、流石に頭に来たのか黙っていた一角くんが身を乗り出そうとするのを、鳴海さんが素早く察知して手で制した。
その様子を見ながらも、不遜な態度は崩さずオーナーは続けた。
「とにかく、決めるのは私だ。これは、立派な協力行為……鳴海小隊は、罰則として一ヶ月の減給。雪鐘ミクは、解雇とする!」
「えっ!?」
「当然だろう?ろくに撮影も出来ないストリーマーなど、必要ない。探せば、代わりなど腐るほどいるポジションだからな」
「そ、そんな……」
突然の解雇通告に、呆然とする雪鐘さんの姿を見て、たまらずサクラが父親に申し出た。
「待って下さい!それは、さすがに横暴が過ぎます。私が不合格なのは、受け入れます……ですが、ここにいる皆さんのやったことは不問にして下さい!!」
「このギルドのオーナーは、私だ。お前が、口出しすることではない!」
「で、ですが!この試験が無ければ、皆さんが巻き込まれることは無かったんです!!お願いします、どうか……」
「ならん!お前の試験は、不合格。そして、この者たちの処遇も変わることは断じてない!!」
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