コンビネーション

 一角たちの気配を感知して、グラシャラボラスは軽く唇を噛むと口元からドロッとした血が流れ出てくる。

 そう、それは自身の攻撃を強化させる為の布石。

 新たにそこから作り出される“血の棘”が激しく枝分かれを繰り返しながら、冒険者たちを仕留めるべく伸びていく。


 あらゆる方向から襲いくる棘の刺突に、再び全員が防戦一方となってしまう。

 この攻撃が続く以上、こちらは反撃に出ることすら困難となるだろう。




「モモカちゃん!少しだけ、私のことを守って!!」



「わかった!厚き氷の壁よ……フローズン・ウォール!!」




 姉の性格を熟知していたモモカは、彼女がお願いしてくる時は、よっぽどの考えがある時だと分かっていた。何の疑問も持たずに二つ返事をし、棘攻撃を避けながら加速したスケーティングで、サクラの前に到着すると“氷の壁”を展開させる。




「ありがとう、モモカちゃん。しばらく、耐えて!」



「おっけー!任せといて!!」




 サクラの光壁が消え去り、代わりにモモカの創り出した氷壁が雪鐘を含めた三人を、“血の棘”から守る盾となった。

 そして、その間にサクラは新たな術式の詠唱を開始する。妹を呼び込んだのは、その為であった。




「東の守護者・サンダルフォン、西の守護者・メタトロン……災厄を討ち払う聖なる光となりて、その偉大なる力を我に示せ!ヘヴンズ・レイ!!」




 彼女が呼び出したのは、二つの大きな光球。

 そして、サクラが目の前にその手を広げると、それを合図にして、その双球から無数の光線レイが放たれた。





 パパパパパパパパッ!!!




 それは瞬く間の出来事だった。

 まるでレーザーででも除去するかのように、無数の“血の棘”に当たった光線レイは、次々とその棘を消失させていく。


 その威力には、鳴海小隊の面々も舌を巻くほどであった。




「なんじゃ、ありゃあ!?サクラお嬢ちゃんが、やったんか?」



「驚いたね。てっきり、回復系の術式しか使えないものだと思っていたが。こんな、強力な技を隠し持っていたとは」




 牛久と鳴海が驚くのも無理はない。

 なぜなら、この術式は『合わせ鏡の回廊』攻略後の短期間で彼女自身が編み出して習得したものだったからだ。それは、まさしく彼女自身とユニークスキル【聖女】の潜在能力だからこそせる技でもあった。


 しかし、消失といっても根本から断ち切ったわけではなく、いまだグラシャラボラスから流れてくる血から新たな棘が生え出してくる。

 若干、サクラの術が押してはいたが、彼女の術の使用時間には限界がある。

 この強力な術ですら、大きな時間稼ぎにしか過ぎなかったのだ。


 だが、



 サクラは信頼していたのだ。


 自分以上の才能を持つと思っている目の前の血を分けた姉妹の力を。





「モモカちゃん!交代スイッチ!!」




 阿吽の呼吸。モモカもまた、自分に出来ることを考えていた。そして一旦、敵の攻撃が止んだ好機に、今度は龍宝姉妹の妹が詠唱を開始した。




「白き雪、青き冷気、今よりこの場は我が戦場。純粋なる白、凍てつく青、我望むは原初の世界……アブソリュート・ゼロ!!」




 ゴオオオオオオオオ!!!




 突然、トンネル内に吹き荒ぶ猛吹雪。


 そして、急激に下がっていく温度。


 それは、“血の棘”が瞬く間に凍りついてしまうほどの冷気。




 ピキピキピキピキッ!!!




 急な温度変化に、アスカが憎まれ口を叩いた。




「さむっ!私たちまで、凍らすつもり!?モモカ!!」



「うっさい、七海アスカ。ちゃんと、人体は凍らないぐらいの温度には調節してるわ!それより、とっとと終わらせて!!」




“ヘヴンズ・レイ”を引っ込めたサクラが次に準備した術式は“フラッシュ・ライト”。

 単純な、ただ強烈な光を発生させるだけの目眩し技。ただ、その効果は雪鐘によって証明済みだ。




「皆さん、目を閉じて下さい!閃光弾で、透明化を解除します!!」




 バシュッ!!




 見事に、再び視界を奪われたグラシャラボラスは暴れ回って、実体の姿を現した。サクラの狙い通り。


 龍宝姉妹の完璧な術リレーによって、全ての障害は取り除かれた。



 目を開けた冒険者たちは、隙だらけとなったボスに向かってラストアタックを仕掛けていく。




 一角が機銃を放ちながら、飛行による突撃を。


 烏丸が遠く離れた位置からスナイパーライフルで、的確に目や翼などの要所を狙い撃つ。


 鳴海は、牛久の足元に低く速い津波を発生させると、彼を一気に敵の間近まで送り出す。


 牛久は、グラシャラボラスの下まで来ると、ジャンプして敵の足首に掴まり、【剛体】によって自重を増やし、ジタバタとしていた敵の身体を地面に固定した。




 なぜか、その動きはサクラたちがフィニッシュを決める為のお膳立てにも思えた。




 グラシャラボラスに接近していく冒険者は、あと三人。


“七海アスカ”は、ちらりと視線を移すと空から“一角ツバサ”、陸からは“植村ユウト”が走ってくるのが見えた。




「シルエット・シックス、“隠者ハーミット”……ドレスアップ」



「レーザーブレード……オーバーヒート!」



【虚飾】が、【近接戦闘(刀剣)】rank100に代わりました


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