雪鐘ミク
「サクラさん……どうして?」
「雪鐘さんだって、今は同じパーティーメンバーです。見捨てるわけには、いきません!」
二人が安堵したのも束の間、更に勢いを増した“血の棘”は、ついにアスカとモモカを捉えて、突き刺さる。
両者共に、致命傷こそ
次の一撃が来れば、逃げることは出来ない。
「アスカさん!モモカ!!」
「か、回復の術は!?サクラさん、使えるんでしょう?」
「使えますけど!今、この防御壁を解除することは……っ」
同時に二つの術は、使うことが出来ない。
雪鐘の提案通り、回復の術式を使う為には現在進行形で“血の棘”の攻撃を防ぎ続けている結界を、解除しなければならなかった。
しかし、そうしてしまえば今度は自分たちの命が危うい。
倒されてなお、アスカは牽制射撃で、モモカは氷の壁を張って第二・第三の“血の棘”をギリギリのところで凌いではいたものの、いつ倒されてもおかしくない状況であった。
「二人とも……くっ!」
サクラが何も出来ない自分に歯痒さを感じていると、その姿を見た雪鐘が意を決して首に掛けていた一眼レフに手を掛ける。
「みんな!一瞬、目を閉じて!!」
わけのわからぬまま、反射的に言われた通り皆が目を閉じると、雪鐘が一眼レフの強烈なフラッシュを焚いて、敵がいるであろう方向に向かってシャッターを押した。
バシュッ!!
「オオオオオオン!!!」
それは閃光弾のような役割を果たし、透過していたグラシャラボラスの視界を襲うと敵はゴロゴロとのたうち回るようにして苦しみ始める。
透過状態でも視覚は機能していたグラシャラボラスにとって、
「サクラさん!今のうちに!!」
「天使よ、奇跡の円陣を描きたまえ……サークル・ヒール!」
サクラが巨大な魔法陣を展開させると、その中にいたアスカとモモカの足の傷がみるみると回復していく。そして、その二人が立ち上がってくる姿を確認できた彼女は、雪鐘を賞賛した。
「助かりました、雪鐘さん!素晴らしい機転でした!!」
「えへへ。光度を全開にして、ストロボを使ってやったんだ……でも、どうしよう!オーナーから、一切の手出しを禁じられてたのに〜!!」
「だ、大丈夫です。お父様には、言いませんから!絶対!!」
実際、雪鐘の功績は大きかった。
グラシャラボラスの視界を妨げ、サクラの治療時間を稼いだだけではなく、予期せぬ好転も引き起こしていた。
「な、何じゃ?ワシらは、何を……」
正気を取り戻した牛久たちが困惑しながら、植村への攻撃を止めていたのだ。
グラシャラボラスの瞳の力で操られていた彼らは、雪鐘の閃光によって偶然にも洗脳が解けたのである。
「はぁ……はぁ……皆さんは、操られていたんです。あの悪魔の力で」
肩で息をする植村が指を差した方向に、四人が目をやると彼らも“翼の生えた魔犬”の姿を目視する。
「なるほど。そういうことか……気を失った私たちの意識を乗っ取って、手駒として操ったんだな」
「ソーマ、お前……理解力、早すぎじゃろ」
鳴海と牛久が話していると、烏丸が銃の構えを解きながら近寄ってきた。
「……で、どうするの?俺たちは」
植村と悪魔の姿を交互に見ながら、指揮官である鳴海が返答に困っていると、パワードスーツのフェイスマスクをオープンさせて一角が意見を述べた。
「僕らの任務は、このダンジョンを攻略することでもある。なら、先に秘宝の番人を倒してしまうというのも手だと思うんだけど……みんなは、どう思う?」
一角の提案に、牛久がニカッと笑って即答した。
「ワシも、ツバサの意見に賛成じゃ!この戦闘に乗じて、お嬢たちに再び襲い掛かろうなどと、
牛久の勢いに、溜め息を吐きながら烏丸が続く。
「
三人の意見を聞いて、鳴海の方針も決まったようで。
「なら、決まりだね。植村くん……ここからは、一時休戦といこう。今度は、どちらが先に秘宝の番人を仕留められるかの勝負だ」
「わ、わかりました!望むところです」
「ふっ。では、行こうか!鳴海小隊……これより、標的を“秘宝の番人”に変更。ダンジョンの攻略を、最優先とする!!」
「「「了解!!!」」」の言葉と共に、一斉に悪魔に向かって進軍を始める鳴海小隊の面々。
そこへ、
ドドドドドドドドドッ!!!
しかし、さすがは『エクスプローラー』の精鋭たち。それぞれが持ち前の武器や技を駆使して、“血の棘”の猛攻を防ぎながら、敵との距離を詰めていく。
その様子を、アスカも気付いたようだ。
「あいつら……正気を、取り戻したの!?」
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