鎧通し
『マルチウェポン』は様々な武具に変化させられる便利な秘宝ではあったが、全て平均的な仕様のものに限られてしまう為、特殊兵装などと相対すると耐久性や威力が、どうしても劣るのが欠点だった。
真っ二つにされた盾を両手でキャッチしたアスカは、更なる“メタモルフォーゼ”を施して、割れた盾を双剣の姿へと変える。
「ははっ、凄いな!いつから、そんな手品を覚えたんだ!?」
キン!キン!キンッ!!
会話しながらも、激しく繰り出してくるレーザーブレードの斬撃を、風気を纏わせた両の手の双剣で押されつつも凌いでいくアスカ。
「やかましいわ!余裕こいてられんのも、今のうち……だっつの!!」
ギィン!!
一瞬の間隙を縫って、右の小剣を一角の胸元へと命中させることに成功したアスカ。しかし、パワードスーツの頑強な装甲に阻まれて、全くダメージを与えられない。
「これで、分かったかい?その武器じゃ、この『モノケロース』には攻撃を通せない。植村くんと
「風気で強化しても、ダメか……!」
慌てて、距離を取って後退するアスカだったが、もちろん一角が黙って見逃すわけはなく。
「まずは、アスカ……キミからだ!!」
「しつこい……なっ!!」
迫り来る一角へ、苦し紛れにアスカが双剣を投げつけるも、彼は
しかし、それは敵の視線を少しの間、遮る為の餌。気付くとアスカは一角との距離を詰めていた。
「素手で、戦うつもりか!?それは、僕のスーツを侮辱しすぎだぞ!アスカ!!」
「風神八卦掌……
突き出されたレーザーブレードを紙一重で躱すも、彼女の頰を熱刃が掠めた。
それでも、アスカは止まることなく踏み込みむと、リズムよく三発の単掌を一角のパワードスーツに打ち込んだ。
「勇気ある前進だ。僕が生身だったら、やられてただろう……相手が、悪かったね」
「ツバサ……“鎧通し”って、知ってる?極めた武術の中にはね、鎧を貫通させて内部に直接、威力を浸透させることの出来る技術があるの」
「何を、言って……ぐはっ!!」
ドン!ドン!!ドンッ!!!
彼女の打ち込んだ箇所から、時間差で衝撃が浸透し、パワードスーツの中にいた“一角ツバサ”の身体に直接攻撃が届く。
しかも、その三箇所は人体の急所と呼ばれる部位。
たまらず、顔を覆っていた鉄仮面を開放した一角は口から血を流しながら、なぜか満足そうに微笑んだ。
「さすがだよ、アスカ……良い
ドサッ
一角が気を失って倒れると、『モノケロース』も機能が停止したのか、キュイーンという音と共に完全沈黙する。
二人の刺客を倒して安堵したのか、一気に疲労が押し寄せた七海はガクッと膝を突いて、呼吸を荒くした。
「アスカ!!」
そこへ駆け寄ってくる植村。その後ろには、倒れていた鳴海の姿が見えて、アスカは向こうも勝負が決したことを知る。
「ぶっつけ本番の選手交代だったけど、上手くいったんじゃない?私たちって、コンビネーション良いのかもね。やっぱ」
「咄嗟に習ったばっかりの技を出して、上手い具合にハマッてくれたけど……内心、ドキドキしてたよ。全く」
「へへっ、ごめん。ソーマは“水気”を使って来たから、ユウトの“雷気”とは相性が良いと思ったんだよ」
植村の繰り出した雷神八極拳・二つの新技は、どちらも正式な技ではなく、どちらも動作や歩法の一種であり、本来ならば攻撃の準備段階に当たるものなのだが、“雷気”を絡めることで必殺の一撃にも昇華するというのが、この拳法の強みであった。
基礎として教えられた、この二つの技を【虚飾】の力で洗練させて放つことにより、鳴海の水龍さえも打ち破る
「あ、頰に傷が……大丈夫?」
「えっ!?あぁ、うん……ちょっと痛むけど、平気。ダンジョンから出れば、完治するから」
てっきり、一角にどう勝ったか聞かれるのかと思っていたのに、真っ先に傷の心配をされてしまった七海は、恥ずかしそうに顔を赤らめて精一杯の強がりを見せた。
「アスカさん!ユウトさん!!」
そこへ、クリスタルの檻から解放された龍宝姉妹が駆け寄ってくる。戦闘が終了したと判断され、拘束が消えたのだ。
「ごめん。少し、時間を掛けすぎちゃった」
「いえ、全然です!凄かったです……本当に、凄い戦いでした。今、治療しますね!!」
そう言って、サクラがアスカに【聖女】による奇跡の光を当てると、みるみると傷や怪我が治癒されていき、身体中の痛みが消え去っていく。
その様子を見ながら、モモカはじれったい様子で言った。
「でも、あと20分しかないよ!早く、番人を見つけて倒さないと……鳴海さんたちを倒せても、肝心の試験が不合格になっちゃう!!」
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