開戦
「すまんのう、お嬢。これも、仕事なんじゃ……悪く、思わんでくれよ」
心底、申し訳なさそうに謝罪の言葉を述べる牛久に、七海も憎めない様子で微笑んだ。
「大丈夫だよ、ごっさん。こっちも、
「ガハハッ!良い根性しとるわ、さすがはお嬢じゃ。なら……遠慮なく、行かせてもらうとするかのう!!」
上着の袖を捲り、丸太のような太い腕を見せつけると、牛久はゴキゴキッと指を鳴らして臨戦体勢を整えた。
それを見て、アスカは龍宝姉妹に小声で指示を飛ばす。
「良い?二人は敵を足止めだけして、すぐに奥へ向かって。あとは、私たちで引き受けるから」
「わ、私も戦います!そうした方が、人数的にも互角になるはずです!!」
いくら植村と七海が、一角たちを追い詰めたとしても、隙を突かれてサクラが倒されてしまえば試験的にはゲームオーバー。そこで、逆転されてしまう。
しかし、ハイクラスの生徒でもある四人を、彼女を守りながら戦うというのは、さすがに無理がある。
だからこそ、アスカは二人を先に安全な場所へ逃すという
「サクラ。仲間を助けたいという気持ちは素晴らしいけど、冒険者になるつもりなら大局を見なくちゃダメ」
「大局……?」
「そう。あなたが目の前の仲間を助けたいと動いたことで、結果的に大きな被害を生んでしまうこともある……ただ戦うだけでなく、自分がどう行動すれば最良の結果が得られるか。それを、常に考えなさい。こういう少数精鋭で挑むダンジョンなんかは、特にね」
「自分が、どう行動すればいいか……」
サクラが考え始めると、ほぼ同じタイミングで龍宝姉妹の全身がクリスタルの結晶のような大きな筒の中に閉じ込められてしまう。
いきなり、その場から移動することが出来なくなり、ドンドンとモモカがクリスタルの壁を叩く。
「ちょっと!何、コレ!?出してよ!!」
そんな二人の様子に、アスカが“鳴海ソーマ”の方へと視線を移すと、何やら鳥の羽のような扇子を取り出していた。
「ソーマ……二人に、何をしたの!?」
「この扇子は、レベル3の
「不可侵条約……?」
「この戦闘中、彼女たちは一切の介入が不可能となりました。逆に、あのクリスタルで守られている間は、私たちの介入も全てを遮断するようになっている」
鳴海が仕掛けたのは、完全に龍宝姉妹を蚊帳の外へと追い込むという奇策であった。
これにより、こちらも手出しは出来なくなるが、どのみち龍宝姉妹には危害を加えたくない気持ちで意見の一致していた彼らにとっては、むしろ都合が良かった。
それよりも、余計な邪魔をされる方が厄介だ。
こうすることで、気兼ねなく助っ人二人を排除することだけに集中できる。
この二人さえ先に処理することが出来れば、あとは試験の邪魔をする方法はいくらでもある。
「安心してください。この戦闘が終了すれば、その結晶牢獄は解除されます。中では、ちゃんと呼吸も出来る……しばらく、我々の戦いの見物でも、しててもらいましょう」
「そんな秘宝を持ってるなんて、聞いてないっつの……まあ、いいわ。どのみち、二人だけでやるつもりだったんだし。むしろ、安全な場所に隔離してくれて、ラッキーまである」
「では、改めて……開戦と、行きましょうか」
鳴海の声を聞き、一角ツバサが座っていた巨大なスーツケースが自動で展開し、中から各部位のパワードスーツが飛び出して、彼の身体に一個ずつ装着されていく。
そして、烏丸クロウは背中からスナイパーライフルを取り出して弾を込め、後方へと歩いて後退していきながら、その間に“
全てのパーツを装着し終えると、一角ツバサは足裏のブースターで宙へと浮き上がっていく。
「『モノケロースmark.II』……この日の為に、改良強化してきた最新版のパワードスーツだ。出力は、キマリス戦より遥かに向上している。植村くん、覚悟は良いかい?」
全然、良くない。けど、守ると約束した以上、ここで逃げるわけにはいかない。
俺は、無言で光剣に刃を生み出し、それを返事とした。
【虚飾】が、【近接戦闘(刀剣)】rank100に代わりました
「ふっ。やる気は、十分か……今度こそ、楽しませてくれよ!?植村ユウト!」
上空からブースターを噴射させ、猛スピードで特攻を仕掛けてくる一角くんは、その勢いで取り出したレーザーブレードを振り下ろし、俺の光刃にぶつけてきた。
凄い威力だ……このまま、まともに受けてしまうのは危険だ!
俺が、ふっと光の刃を一時的に消してみせると、押し込んでいたパワーの勢いを殺せず、そのまま相手を地面へ激突させることに成功した。
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