LV3「カーシモラル・トンネル」

 それから、約一ヶ月。


 四人揃って会う機会こそ少なかったが、それぞれに準備を重ねてきた。

 たったの一ヶ月とはいえ、“冒険者養成校ゲーティア”の一日一日は非常に濃く、基礎トレーニングに加えて七星剣術、雷神八極拳、ブラスターの射撃訓練と逆に時間が足りないぐらいだ。俺が、手を出し過ぎという問題もあるかもしれないが。




「着きましたぞ」




 龍宝家の執事・藤村ロイドさんの運転する黒塗りのリムジンに送迎されて到着したのは、とある線路の脇道。

 レギオンレイドの時と同じように、『エクスプローラー』の団員たちがゲート周辺を占拠して、他の冒険者の立ち入りを禁じていた。




「緑のゲート……あれか」




 レイド戦の時と同じく中華風の戦闘服を見に纏ったアスカが、ゲートを見つけて気を引き締める。


 パチンと指を鳴らして、停車したリムジンにロックを掛ける藤村さん。今の時代では、脳内コンピュータと連動してる為、こうした動作一つで車のキー代わりにもなるわけだ。




「それでは、今回のレギュレーションをタイジュ様より申しつかっておりますので、わたくしから代わりに説明させていただきます」



「レギュレーション!?まだ、何かあるんですか?」



「いえ、試験内容のおさらいのようなものです。今回の合格条件は、ダンジョンをクリアして秘宝アーティファクトを入手すること……ただし、サクラお嬢様は最後まで生存しているのが必須条件となりますので、ご注意を」




 いきなり名前を呼ばれてサクラは、ビクッと肩をこわばらせた。




「これは、サクラお嬢様の素養を確かめるテスト。肝心の本人が生き残っていなければ、合格とはいえない……というのが、タイジュ様のご意向です」



「そう、だよね……わかりました。生き残れるよう、頑張ります!」




 緊張しながらも強い意志のこもった瞳で、真っ直ぐに藤村へ宣言するサクラ。その肩を組んで、アスカが緊張を和らげる。




「大丈夫だって。私たちが、生き残らせてみせるから。その為の、助っ人なんだからさ」



「アスカさん……ありがとうございます!」




 そんな二人の様子を見て、ぷっと吹き出すモモカちゃんに、目ざとくアスカが反応する。




「なに、笑ってんの?」



「いやぁ、お姉ちゃんのが背が高いから……肩を組むの、大変そうだな〜って。ぷぷーっ!」



「ぐっ!このガキャ……ほんまに!!」




 そして、始まる犬と猿の追っかけっこ。

 ダンジョン前に、体力消耗するぞ。小学生か。




「ふっ。どうやら、心配は無用のようですな。では、わたくし此処ここで皆様の帰りをお待ちしております。お気を付けて、行ってらっしゃいませ」




 藤村さんの言葉に、アスカもモモカちゃんにかけていたスリーパーホールドを解いて、真剣な表情に変わると、みんなに号令をかけた。




「じゃ、行きましょうか!みんな、準備は良い?」




 全員がコクリと頷くと、アスカを先頭に女性陣が次々とゲートの中へと入って行く。俺も続こうとすると、藤村さんに呼び止められた。




「植村様。サクラお嬢様たちのこと……どうか、よろしくお願い致します」




 深々と頭を下げて、俺に言ってくる藤村さん。

 彼が、どれだけ龍宝姉妹のことを思っているのか、少し分かった気がした。




「全力で、守ります。微力ですけど……」




 にこっと微笑み、満足そうに俺の返事を聞いてくれる藤村さん。そこへ、不意に肩をトントンと叩かれて、振り向くと……。




「ついでで良いので、私のことも守ってくださいね?植村さん」



「あぁ……雪鐘さんか。撮影、気を付けてね」



「ありがとうございます!今回は配信用じゃないので、気楽なもんッスよ。安全な場所から撮ってるんで、頑張って下さい!!」




 咄嗟にダンジョンカメラのレンズを、こちらに向けてくる雪鐘さん。薄々と感じてはいたけど、結構なお調子者なのかもしれない。

 まぁ、安全な所にいてくれるなら大丈夫か。



 そして、二人で緑のゲートをくぐると、そこはだった。コンクリートっぽい壁で囲まれた無機質な空間。入口も出口も見えず、ただ進行方向を示す矢印だけが表示されているのが、唯一の目印だ。




 LV:3 緑色のダンジョン

 ミッション

 45分以内に、秘宝の番人を撃破せよ




 ミッションのテキストが表示されると、同時に男の声がトンネル内を反響しながら耳に届く。




「遅かったね。待ってたよ!」




 そこで待っていたのは、驚くべきことに堂々と姿を見せる四人の刺客たちだった。

 てっきり、不意打ちでも仕掛けてくるものだと思っていたが、ここまで真正面から来られると逆に恐ろしいものがある。


 アスカも少し驚いた反応を見せていたが、すぐに平静を取り戻して、彼らとの会話を始めた。




「こっちとしては、待ち合わせした記憶が無いんだけど……もしかして、私たちの邪魔でもしに来た?」



「本当なら、隙をついて襲ってやろうかとも思ってたんだけど……ウチの大将が、やるなら真っ向勝負じゃ!って、聞かなくてさ」




“一角ツバサ”は、誇張した“牛久ダイゴ”の物真似を交えながら、フランクに会話を始める。

 お揃いの赤と黒を基調にした『エクスプローラー』の戦闘服がより一層、彼らの強者感を増幅させていた。





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