ストリーマー

「そんな『エクスプローラー』のストリーマーが、何の用?オーナーに頼まれて、偵察にでも来た?」




 警戒心を強めるアスカの圧に、少し焦りながら雪鐘さんは慌てて弁明を始めた。




「まさか!偵察だったら、こんなに堂々と姿を現しませんって。まずは、許可を頂きたくて」



「許可……何の?」



「この間のレギオンレイド。中の様子を撮影してたんですけど、お二人も映っていたので、SNSにアップしていいかどうかの許可です」




 次に彼女は小さなショルダーバッグから、ビデオカメラを取り出した。龍宝財団が開発した『ダンジョンカメラ』だ。冒険者養成校ゲーティアでも話題になっていたので、カメラに疎い俺でも知っている。

 それにしても、常に持ち歩いているのか。




「あれ、ライブ配信はしてなかったの?」



「合同ミッションだと、ライブ配信は出来ない規定になってるんです。うちのギルド以外の冒険者も多く参加してますから。ホントは、ライブできた方が色々と稼げるんですけどね〜。なので、今回は私が編集した後に動画をあげようかな……と」



「ごめんだけど、私……一応、芸能事務所に所属してるんだよね。小さい所だけど、さすがにお伺いは立ててみないとダメかも」



「それは、全然!では、事務所からOKが出たら、その時に教えて下さい。連絡先を、送っておくので」




 テキパキと脳内コンピュータを操作して、俺たちに連絡先を飛ばしてくる彼女。

 なんか、俺にも来たんだが……と思い、目が合うと。




「一応、植村さんにも送っておきました。もし、配信とかに興味があったら、いつでも連絡してくださって構わないので!」



「え、あ……うん。ありがとう」




 コミュ力、高いなぁ……こうやって、人脈を広げてるんだろうな。

 何にせよ、意図せず可愛い女の子の連絡先を手に入れてしまった。ラッキー。


 ふと、アスカの顔を見ると、蛇のような眼で睨んでいたので、慌ててニヤついていた表情を真顔に戻す。マヒされそうになるぐらいの眼力にらみだった。




「それにしても、芸能事務所に所属していたとは……さすが、噂に高き美少女冒険者!今度、私とコラボ動画とか出したりしません?」



「やめとけ、やめとけ。まだ、まともな芸能活動もしてないから、再生数とか稼げないって。てか、用件は終わったの?」



「いえ、もう一つ!サクラお嬢様の試験に、私も皆さんと一緒に同行させてもらうこととなったので。よろしくお願いします」




 あれ?俺の撮影許可が聞かれなかったんだけど、聞くまでもなかったということか。もしかしたら、芸能事務所に入ってるかもしれないのに!?


 もちろん、入ってませんけど。

 そんな俺のことなどお構いなしで、二人の会話は続いていた。





「同行って、サクラの試験も配信するつもり!?」



「それは、しません。私が撮影するのは、あくまで記録用の映像です。中で不正が無かったかどうか、オーナーが後でチェックしたいということだったので」



「はぁ!?不正してんのは、どっちだっつの!どの口が言ってんだ、あのオヤジ!!」





 突然、口が悪くなるアスカに、無言で後退あとずさりしていく雪鐘さん。





「あ、あの!私は、頼まれただけなので!!許してくださいぃ……」



「あ……ごめん。別に、雪鐘さんに怒ってるわけじゃないから。でも、ついてくるなら気を付けてね?多分、派手な戦闘になると思うから」



「もちろんですっ。ダンジョンカメラは望遠機能もバッチリなので、お邪魔にならないところで撮影させていただくつもりです!それでは、失礼しました〜!!」




 ぺこぺこと頭を下げて、逃げるように去って行く雪鐘さん。良い意味で、下っ端感が溢れ出ていた。




「いなくなんの、はやっ」



「誰のせいだと、思ってるんすか」



「ほう……私のせいだと?」



「それそれ!その“圧”のせいでしょうが」



「そ……そんなに、“圧”あるかなぁ?私」




 意外と、気にしてたのか。

 結構、可愛らしいところもあるんだよな。たまに、怖いだけで。本人には、言えないけど。




「でも、ストリーマーなんて最近できたポジションだと思ってたけど。“冒険者養成校ゲーティア”にも、もういたんだね」



「スキルの弱いサポーターの子とかは、転向してる生徒も多いみたいだよ?結構、ダンジョンでやることない時間も多いと、手持ち無沙汰になるみたいだから。その間に、撮影できるならって感じじゃないかな」




 そうか、サポーターとかは支援する場面以外は行動に余裕があったりするのか。だとしたら、今回の新ポジションの導入は良かったりするのかもな。




「わざわざ、ストリーマーまで派遣してくるってことは、龍宝オーナーも俺たちのことを警戒してたりするのかな?」



「かもね。もしかしたら、刺客が返り討ちに遭うかも、とか……ツバサたちが、裏切るんじゃないか?とか。心配性なんでしょ」



「裏切ってくれる可能性が、あるってこと!?」



「いや、ない。あいつらも、れっきとした冒険者プロだから……一度、引き受けた任務は必ず遂行してくる。だからこそ、気を引き締めないと」



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