刺客・3

 冒険者養成校ゲーティア・学生食堂



 ランチタイムに待ち合わせて、席を共にしていた“植村ユウト”と“七海アスカ”の二人。




「その、精鋭部隊の四人って……確か、アスカのクラスメイトだったよね?」




 昼食を終えた二人は、本題である“龍宝タイジュの刺客”についての話を始めていた。

 昨晩、“龍宝サクラ”から、そのことを知らされた七海は、植村を誘っての緊急会議を提案したのだ。




「うん。あのオーナーのことだから、何か手を打ってくるとは思ったけど……よりにもよって、厄介な連中を送り込んできたって感じ」



「みんな、ハイクラスの生徒だもんね。それが、四人も……」



「“天馬カケル”がいないのは、せめてもの情けのつもりだろうけど、その判断を後悔させてやるわ!私たちで、返り討ちにしてね」



「で……できるかな?強いんでしょ、その人たち」




 ちゃっかりと頼んでいた食後のデザートケーキを一口、口に頬張りながらアスカは強い語気で言った。




「できる!私と、ユウトならね。でも、前衛である私たちが倒されてしまえば、ダンジョン攻略は不可能に近くなる。相手も、それを分かってるはず……オーナーの娘たちには手を出しにくいだろうから。尚更、狙われるとしたら私たち二人だと思ってる」



「俺とアスカに、集中砲火が来るのか……」



「けど、サクラが事前に情報をくれて助かった。ツバサたちが相手なら、手の内は分かってる。試験迷宮でも、同じ班だったからね」




 口元についた生クリームを、ぺろりと舌で舐め取ると、アスカは自慢げに腕を組んだ。




「でも、アスカの手の内もバレちゃってるわけだよね?それだと」



「う、うるさいなぁ!とにかく、ユウトにも共有しておく。相手の能力を知っておいた方が、対処もしやすくなるでしょ?」



「わ、わかった!お願いします」




 すると、七海は三人の生徒の画像を立体映像ホログラムで可視化させ、植村に見せる。

 それを一人ずつ、拡大ピンチアウトして他己紹介を始めた。




「まずは、一角ツバサ……民間軍事会社『ユニコーン・インダストリアル』社長の次男坊。ユニークスキルは【発明家】で、それを生かした高校生科学者として会社の兵器開発にも携わってる」



「あぁ……俺を、“棒倒し”でコテンパンにしてきた人か。顔も良い上に、御曹司だったのか。めっちゃ、モテそ〜」



「おい、真面目に聞け。んで、ツバサ自身は一般的な冒険者ぐらいの強さなんだけど、自らが父親の会社と共同開発した最新鋭パワードスーツを着て戦うことで、実戦での戦闘力は跳ね上がる」



「レギオンレイドで、見た!めちゃくちゃ、かっこいいよね。あんなの、一度は着てみたいよな〜」



「男って……ホント、そーゆーの好きだよね。ちなみに見た目だけじゃなくて、性能も凄いよ。剣や銃器にシールド、様々な武装を搭載しててオールレンジで戦える上に、ブースターで高速移動と飛行も可能。小さな戦闘機を相手にしてるようなもんね」




 いやいや。下手な戦闘系のスキル持ちより、よっぽど恐ろしい相手だな。空中から、バンバン撃ってくる敵なんて、どうやって対処しろというんだ?




「攻略法は?」



「……ない!」



「おい!強いって情報だけ!?」



「ホントに、無いんだもん。しかも、ツバサが負けず嫌いな性格もあって、ダンジョンを潜るごとにパワードスーツの反省点を改良をしてくるらしくて、今では開発当初の欠点部分も完璧に補完されてるんだってさ」




 なるほど。ロークラスの生徒たちも十分に強いじゃん!とか思ってたけど、ハイクラスは予想以上に化け物揃いだったということを、改めて思い知った。




「なんとかして、勝て……と?」



「実際、そう。多分、ツバサのパワードスーツに勝つには真っ向勝負で正面から上回るぐらいしかない。そして……“植村ユウト”なら、それが出来ると思ってるんだけど。過大評価しすぎっすか?」



「え!?そ、それは……やってみないと、どうにも」



「“無理”とは、言わないんだ?よしよし。それで、十分……じゃあ、次!」




 彼女が次に拡大ピンチアウトしたのは、見た目は三十代ぐらいのワイルド系男性の画像だった。




「……教師?」



「違うわ!こう見えて、れっきとした一年生……こう見えてって、言っちゃったけど」



「そういえば、レイド戦にもいたな。随分、貫禄ある人だと思ってたけど、同級生だったんだ」



「それ、本人の前では禁句だからね?老け顔なの、気にしてるから。名前は、牛久ダイゴ。中学時代は、柔道で全国優勝も果たしたバリバリのスイーパー。ユニークも【剛体】っていう肉体強化のスキル持ち」




 超接近型の前衛スイーパーか。【剛体】の効果が、どこまでなのか分からないけど、真正面から戦ったら危険そうな相手だ。




「この人の攻略法は、あるよね?」



「あるけど。私が受け持つ予定だから、ユウトは考えなくて良し!」



「えっ?アスカが、戦うの!?」



「相手の前衛は、ツバサとダイゴだけだから。ツバサの方はユウトに引き受けて欲しいから、必然的に私がダイゴって感じ。私の八卦掌とも、相性が良さそうな戦闘スタイルだし」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る