刺客・2
ミストルティン・ギルドカフェ
カフェの隅に向かい合わせで座る二人の美男子。
“天馬カケル”と“鳴海ソーマ”。
「今回は、損な役回りだったな。ソーマ」
「中間管理職の辛さを、痛感したよ」
「本当は、お前も反対なんだろう?今回の任務は」
サウナでの密談を終え、鳴海は天馬とティータイムを共にしていた。
極秘任務ではあったが、天馬の耳には届いていたようで。
「もちろん、反対さ。ただ、断ることが出来なかった……まだまだ、弱いな。私は」
「何を、言ってる。みんなの立場を思って、汚れ役を買ってくれたんだろ?俺からも、オーナーにやめるようには、進言はしておいたんだがな」
「カケルでも、止められなかったか。サクラさんのことになると、歯止めが効かなくなる節があるからね……オーナーは」
「確かに、な。俺には、出動要請を掛けなかった分、多少の恩情は残ってるんだろうが……」
おかわり自由のコーヒーを手に、二人の座るテーブルへとやってきたウェイトレスは、緊張でカタカタと手を振るわせながら、天馬のカップにそれを注いでいく。
イケメン揃いの『エクスプローラー』でも一、二を争う美男子たちを目の前にしたのだ。無理もないだろう。
天馬がニコッと微笑んで「ありがとう」と礼を言うと、ウェイトレスは顔を真っ赤にして頭を下げると逃げるように厨房へと去って行った。
注がれたコーヒーを口に含み、天馬は話を再開した。
「それで、結局……全員、参加することになったのか?」
「ああ。ダイゴだけは、最後まで渋っていたけどね」
「曲がったことが大嫌いだからな、アイツは。よく、説得できたな」
「アスカと、植村くんだけを排除する……そういう条件で、何とか呑み込んでくれたよ。龍宝姉妹だけ残されたところで、二人は後方支援役だ。どのみち、レベル3ダンジョンのクリアは困難となるだろう」
「ははっ。サクラたちには手は出せないが、アスカは良いのか」
「それだけ、アスカの実力を認めてるってことだろう。実際、敵に回すと恐ろしい相手だからね」
コーヒーカップをおろしテーブルに置くと、天馬カケルは真剣な眼差しで、鳴海に忠告した。
「……もう一人は、もっと恐ろしい相手かもしれないぞ?」
「植村くんか……確かに、レギオンレイドでの活躍は凄かった。噂には聞いていたけど、予想以上だったよ」
「あれでも、実力の全ては出していないはずだ。下手な手心を加えれば、お前たちでも十分に返り討ちに遭ってしまうだろう。一戦を交えるつもりなら、心して挑むんだな」
数時間後……サクラの部屋
コンコン
「藤村にございます。サクラお嬢様、折り入ってお話が。少々、お時間を頂けますか?」
「藤村?どうぞ、入って」
「失礼いたします」
周囲に人の気配が無いことを確認して、用心深くサクラの部屋へと入って行く執事・藤村ロイド。
「藤村が私の部屋に直接、足を運ぶなんて珍しい。何か、あったの?」
「いえ。モモカお嬢様から、試験に向けてのダンジョン探索へ向かったと聞いていたので、手応えはいかがなものか、気になりましてな」
「それがね、聞いて!私たち、4人だけでダンジョンをクリアできたの!!レベル2だったけど……これって、凄いことだよね!?」
普段、あまり感情を表に出さないサクラが珍しく感情を露わにする様子を見て、思わず藤村の顔も
「それは、素晴らしい。前情報なしの初見クリアは、レベル2だとしても、価値ある結果と呼べるものでしょう」
「へへ……でも、ほとんどは他の三人の活躍のおかげだけどね。私は、足を引っ張ってばっかりで」
「何を仰られる。互いに補い合うのが、“仲間”というもの……それで、良いのです。サクラ様の神聖術も、きっとチームを幾度となく救っていたことでしょう」
「藤村……そうだね。ありがとう」
サクラの顔を少し見つめた後、意を決したように藤村は口を開いた。
「サクラお嬢様に、お伝えしたいことがございます。本当は、タイジュ様に口止めされていたのですが……あまりに理不尽と思い、私の独断で約束を破らせていただくことに決めました」
「えっ……?」
「タイジュ様は『エクスプローラー』の精鋭部隊に妨害工作の命令を出して、サクラお嬢様のダンジョンに潜入させるおつもりです」
「そ……それって!」
「左様でございます。つまり、サクラお嬢様たちは、たった四人でタイジュ様の刺客と、ダンジョンの悪魔……両方を、相手にしなければならない。と、いうわけでございます」
衝撃の密告に、しばし言葉を失うサクラだったが、すぐに自力でくじけた心を立て直した。
「正直……それぐらいのことを、してくるんじゃないかと思ってた。ショックではあるけど、それをも乗り越えてこその試験なんだよね。きっと」
「ふむ……お強くなられましたな。イツキ様の面影を、見ましたぞ」
「えっ、ほんと?そういえば、お母さんと話したんだよ!藤村の体のことも、心配してた」
「な……何を、言っておられるのです!?イツキ様は、もう……」
サクラは意地悪っぽく、困惑してる様子の藤村に『黄泉の香炉』の話を嬉々として説明を始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます