刺客・1
ミストルティン・スパ施設
『エクスプローラー』のギルドホーム・ミストルティン内でも屈指の人気を誇る
サウナと水風呂で心身を整えていた冒険者たちが、タオル一枚を腰に巻き、密談を交わしていた。
「次の任務が、決まったよ。今度のダンジョンは、レベル3。人数は、我々4人だけの少数精鋭で挑む」
リーダー格である鳴海ソーマが、オーナーから直々に伝えられた命令を、仲間に伝える。
手拭いを顔を覆うように掛けて、ゆったりとした椅子の上で仰向けになっていた“一角ツバサ”は、耳だけで彼の伝達を聞くと、真っ先に反応を示した。
「レベル3を、僕たちだけで……か。随分と、買われてるじゃないか。良いことだ」
「もちろん、買われているのもあるけれど……四人だけの任務なのには、他にも
「……その訳とは?」
「ダンジョンをクリアするのと並行して、極秘の任務が与えられている。それを、口外しないために最少人数で編成されたんだろう」
パタパタと自分をあおいでいた扇子の動きをピタリと止めて、“牛久ダイゴ”が尋ねる。
「ソーマ。もしかして、そのダンジョン……サクラ嬢ちゃんがテストで挑むっちゅうダンジョンでは、なかろうな?」
牛久の鋭い指摘に、その場にいた全員が一瞬だけ無言になり、ピリッとした空気が漂った。
ハァと軽く溜息を吐いて、鳴海が答える。
「……ダイゴの勘は、本当に恐ろしいね」
「やっぱりのう。ならば、極秘任務というのは、サクラお嬢の邪魔をするといったところか?」
「正確には、サクラさんたちより早く、ダンジョンを攻略して秘宝を手に入れること。その為には、直接的な妨害行為も許可されている」
頭の上からフードのように手拭いをかぶり、
「許可されてるってゆーか、直接妨害しろってことでしょ。PKしちゃって、良いってこと?」
「おい、クロウ!」
無感情な烏丸の発言に、熱血漢の牛久が怒声を上げる。そんな彼の肩を無言で掴み鳴海が制すると、烏丸の質問に回答した。
「最悪、PK行為をしてでも止めろ……との、お達しだ」
「いくら、ダンジョン内では死なないとはいえ、自分の娘に随分な仕打ちだね。それだけ、冒険者にさせたくないってことか」
ふんっと鳴海の手を払い除けると、牛久は怒りを露わにしながら言った。
「わしゃ、やらんぞ。冒険者を目指すサクラ嬢ちゃんの気持ちは、よーく分かる!それを、踏みにじるような真似はワシには出来ん!!」
さすがに、深刻な空気を感じたのか一角も顔の手拭いを外しながら、会話に加わってきた。
「僕も、ダイさんと同意かな。女の子を泣かせるようなことがしたくて、冒険者になったわけじゃないんでね」
予想した通りの反応だったのか、つとめて冷静に鳴海は残る一人の意見を聞いた。
「クロウは?」
「……命令なら、やりますよ」
再び、キッと睨んでくる牛久に怯むことなく、烏丸は続けた。
「アンタたち、なんか勘違いしてないか?俺たちは、一介の会社員みたいなもんだろ。上司の命令は、絶対だ」
「何じゃと!?なら、上司が死ねと言ったら、クロウは死ねるんか!」
「極論すぎ、話にならないね。PK行為なんて、冒険者なら想定しうる事態だろ。それに、向こうは助っ人も用意してるらしいじゃないか」
「助っ人じゃと?誰なんじゃ!?」
牛久が鳴海の顔を見ると、その助っ人の正体が明らかとなった。
「サクラさんのパーティーも、全部で四人。あとの三人は、龍宝モモカ、七海アスカ、植村ユウト……だ、そうだ」
「七海……お嬢も、いるのか!?」
そのメンバーを聞いて、にやっと笑った一角が、鳴海に進言する。
「気が変わった。僕も、やるよ……その
「それは、ありがたいが……どういった、心境の変化だい?ツバサ」
「僕には今、最も戦ってみたい相手のベスト3がいてね。一位は、天馬カケルなんだけど。二位と三位がいるとあっちゃ、やらないわけにはいかないだろ?」
「意外だな。アスカは、ともかく……植村くんを、そこまで意識していたとは」
「このあいだのレギオンレイド、ソーマも見たろう?彼は、強い……今度は、体育祭の時のような遊びではなく、本気で力をぶつけ合ってみたくなったのさ」
いよいよ、一角までも乗り気になったのを見て、牛久は思わず立ち上がると。
「ええい、どいつもこいつも!ソーマ、お前の気持ちはどうなんじゃ!?」
「私も、クロウと同じ意見だ。私たちは、まだ個人では実力も、人気も、財力も持ち合わせていない。雇われの身……『龍宝財団』の支援がなければ、まともな冒険者活動も出来ないだろう。人の夢を尊重して、自分の夢が潰れていては元も子もないよ」
「う……ぐぬぬ。そうじゃ!ワシらが先に潜って、ダンジョンを攻略してしまうというのは、どうじゃ!?」
「それは、ダメだ。一応、サクラさんたちには“チャンスを与えた”という免罪符が必要なんだよ。だから、ダンジョンには潜らせてから、失敗させないといけない」
「ぐぬぬぬぬぬ…………!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます