LV2「合わせ鏡の回廊」・8

 バチンッ!!




 光の鎖を引きちぎり、再び自由の身となったボティスを警戒し、光剣クラウ・ソラスを手に迎撃態勢を取る植村だったが……。




 ドンッ!




 二本の角で強化された脚力で、強く地面を蹴ったボティスは、植村の頭上を高く跳躍して“赤の剣”を構えた。そう、敵の狙いは自身に術を仕掛けてきた“龍宝サクラ”だった。




「サクラ!避けるんだ!!」



「きゃっ!!」




 空高くから振り下ろされた剣を、間一髪で直撃こそ避けたサクラだったが、その風圧と地面をも叩き割るほどの衝撃波によって、華奢な彼女の身体は洞窟の壁まで吹き飛ばされ激突してしまう。




「くそっ!七星剣術・三つ星……禄存フェクダ!!」




 瞬時に、禄存フェクダの高速歩法で敵の正面に回り込んだ植村は、次いで居合の一閃を放つとボティスの剣によって防がれはしたものの、サクラへの追撃を阻止することには成功する。




「う……ん」




 不幸中の幸いだったのは、植村のジャケットを着ていたお陰で身体へのダメージが軽減されていたことだった。

 アンビバレント社の“スレイプニル”ジャケットは見た目こそ、ただの布のようだが最高級の素材と極秘の製法によって、その耐久性は生半可な金属鎧ならば、軽く凌駕するほどだ。




「サクラ!大丈夫!?」



「は、はい……何とか」




 ぐったりとしてはいるが、意識はあるようだ。

 直撃しなくても、これだけの威力とは……角の効果によって、敵の筋力は予想以上に増幅されていたと推測される。




「どうしたの!?何か、あった?」




 こちらの様子が分からないアスカが、異変を感じ取ったのか、心配そうな様子で通信を飛ばしてきた。




「サクラが、敵にやられた。致命傷ではないけど、早めに決着をつけた方が良さそうかも!」



「わかった!でも、どうする?同時に撃破するとなると、息を合わせる時間がいる……多少の足止めは、必要だよ?」




 すると、グループ通話で会話を聞いていた“龍宝モモカ”が話に割り込んできた。




「足止めぐらい、やってあげる!その代わり、一発で決めてよね……七海アスカ!!」




 すると、妹の言葉に奮い立たされたのか、サクラも負傷した身体を、ゆっくりと起こしながら続いた。




「なら……こっちの足止めは、私が引き受けます!ユウトさん」




 二人の進言を聞き、アスカは気功掌で黒蛇を吹き飛ばすと、静かに微笑んだ。




「なら、足止めは龍宝姉妹に任せる!その隙を突いて、私とユウトが同時にフィニッシュを叩き込む。それで、良い?みんな!!」



「「「了解!!」」」




 氷の道を華麗に滑走しながら、まず最初に仕掛けたのはモモカだった。




「凍てつけ、氷の牢獄……ダイヤモンドダスト!」




 黒蛇の周囲の水蒸気が凍結していき、敵を足下から凍らせていく。その速度は凄まじく、あっという間に目標を氷漬けにしてしまう。

 しかし、黒蛇も紫炎の霧を放出し、内部から氷を溶かす抵抗を見せる。じゅわっと氷塊から煙が立ち昇った。




「やば……そんなに長くは、凍らせておけないかもしんない!」



「十分!溶かされる前に、終わらせる!!ユウト、そっちは!?」




『飛翔天』を使ったアスカが、宙を舞いながら氷漬けにされた敵の前に陣取る。




 サクラは、どうするつもりだ?さっきと同じ光の鎖の術式では、今の強化されたボティス相手では、一分と保たないだろう。




「気高き戦士の盾よ……パラディン・ガード!!」




 キイイイイイイン




 すると、サクラの術式によって俺の眼前に光の盾が出現した。彼女が選択したのは、敵を縛る鎖ではなく、俺を守る盾を作り出すことだった。


 その盾が一層、輝きを増すと、それに誘われるようにボティスが剣を振りかざしながら、襲いかかってくる。




「その盾には、敵対心を煽る効果が付与されています!それが展開している間は、ユウトさんに攻撃が集中するはずです!!」



「なるほど……ヘイトコントロール付きの盾ってわけか!」




 敵の剣が、光の盾を何度も斬りつけていくが、その全てを遮断してしまうほど、その防御力は優れていた。やはり、人を守る為に使う術式だと光の強度も増すのかもしれない。

 しかも、これなら向こうから射程圏内にとどまってくれる為、フィニッシュの準備をするのにも好都合だった。

 光の壁一枚を隔てて、凶々しい悪魔が何度も斬りつけてくるという光景は、見た目こそ恐ろしいものはあったが、サクラの選択は正しかったといえるだろう。





「こっちも、足止め完了!どうやって、息を合わせる!?アスカ!!」




 問題は、そこだった。


 そもそも、同時フィニッシュが正解なのかも確実とはいえない中、その選択が正しかったとしても、どこまでの誤差が許容される範囲で息を合わせて、撃破しなければならないのかすらも、分からない。


 ただ、失敗すればするほど、敵は成長していく。

 次に蘇生されれば、今度は足止めすることすら困難となってくるだろう。

 確実に、この一撃で仕留める必要がある。




「カウントする?それとも、じゃんけんの掛け声とか!?いや、違うか……私たちが合わせるなら、“站椿たんとう”か!」




 それは、竜胆先生の初稽古で、嫌というほど反復した練習法。確かに同じ動作を行えば、自然と息は合わせられる。そして、自然と“気”を練ることも出来て、スムーズにフィニッシュ技へと繋げられるというわけか。










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