LV2「合わせ鏡の回廊」・7

「くっ!」




 アスカが動けないと瞬時に悟るや、モモカは滑走の速度を上げて敵に向かって突撃する。


 あわや、彼女に届こうとせん黒蛇の牙……そこへ。




「ブリザード・スピン!!」




 腰の高さに片足を上げながら素早く回転するモモカは、靴底のブレードに氷刃を付与させて、黒蛇に向かって切りつけると、見事に後退させることに成功する。

 そのまま、麻痺していたアスカに体当たりをかましてみせる。




 ズザザザザッ




「痛いなぁ……って、言いたいところだけど。今回は、助かった!ありがと、モモカ」



「動けるようになった?もう、気を付けてよね。前衛スイーパー!」




 ヒーラーのような回復手段を持たない場合、麻痺から復帰させる最適な方法は無理矢理、その身体に衝撃を与えることだった。

 モモカの体当たりは、そういった意味合いがあったことをアスカも気付いていたのだ。




「その調子で、もうちょい時間を稼いでおいて!」



「はぁ!?やってあげてもいいけど……倒す方法でも、見つかった?」



「それを、これから見つけんの!シルエット・ツー……“怪盗ファントム”。ドレスアップ」




 モモカがフリーズ・アローを時間差で黒蛇に撃ち込み足止めしている間に、アスカは“怪盗”のシルエット効果で上昇した【鑑定】スキルを繰り出した。




 ボティス

 蛇型・総裁級クリーチャー

 身体能力 B

 精神耐性 D

【特性】

 青き剣

 麻痺にらみ

 紫炎の霧

 つがいの心臓

 死亡学習




「これは……」




 アスカが【鑑定】によって、敵の性能に気付き始めていた頃、壁を隔てた反対側のエリアでも植村たちが激しいボス戦を繰り広げていた。




 キン!キン!キン!



 まるでフェンシングのような太刀筋で、装備していた“赤の剣”を振るってくる人型の悪魔の猛攻を、植村が光剣クラウ・ソラスを使って全て受け止めていた。



 やはり、こいつ……強くなってる!



 実は、この敵も早々に植村の七星剣術によるコンボで一度は撃破されていた。

 しかし、黒蛇と同じように即蘇生をして、戦闘が継続されていたのだった。


 さっきは一方的に通っていた斬撃が、通らなくなっている。自分がやられた攻撃に対して耐性が付いているのか?だとすると、下手に倒して再び蘇生されてしまったら、生き返る度に耐性が増えていき、やがては無敵のモンスターが誕生してしまう。


 元より、慎重に立ち回るタイプだった植村は、最悪のケースを想定して、攻めあぐねていた。

 しかし、それは正しい判断であった。蘇生のカラクリを暴かない限り、この敵は永遠に死の淵から立ち上がってくることになる。


 そこへ、アスカの声が耳に届いた。




「ユウト!聞こえる!?」



「うん、聞こえてる!」



「そっちの状況は?」



「一回、倒したんだけど……すぐ、復活してきて!只今、絶賛交戦中!!」




 鍔迫り合いを制し敵を仰け反らせると、すぐに距離を取って息を整える植村。

 その報告を受けて、アスカが続けた。




「なるほど……ユウト、【鑑定】スキルは使えるよね?試しに、そいつに使ってみてくれない!?」



「【鑑定】スキル……わかった、やってみる!けど、攻撃が激しくて!!」




 植村の声を聞いていた“龍宝サクラ”は、意を決して術式を展開した。




「魔を封じるは、光のかせ……セイクリッド・チェーン!」



 ジャラララララッ




 空から二本、大地から二本、光の鎖が出現して、敵の両手両足に巻きつくと、相手の動きを封じてみせた。

 奇跡の光を“剣”や“矢”の形に変化させることで、新たな術式を編み出していくスタイルの【聖女】。今回は、“鎖”をイメージして具現化させた行動阻害の術式だった。




「ユウトさん!今のうちに!!」



「ありがとう!さ……サクラ!!」




【虚飾】が、【鑑定】rank100に代わりました




 ボティス

 人型・総裁級クリーチャー

 身体能力 B+

 精神耐性 E

【特性】

 赤き剣

 増強の角

 紫炎の霧

 つがいの心臓

 死亡学習




「アスカ、【鑑定】できたよ!ボティス、人型の総裁級……特性は強化の角に、紫炎の霧。それと、?」



「やっぱり、そういうことか!姿形は違っても、やっぱりコイツらは同じ番人だったんだ」



「ん?どういうこと!?」



「こっちのボスにも、“つがいの心臓”という特性が備わってたの!どういうことか、分かる!?」




“つがい”の意味は、確か“二つのものが組み合わさって一つになること”みたいな意味だった気がする。と、いうことは……。




「俺らが戦ってる敵と、アスカたちが戦ってる敵は“二つで一つ”?」



「そういうこと!扉のギミックと同じだよ。こいつらを倒すには、おそらく……二体同時に、トドメを刺さなくてはならない。一体ずつ仕留めていたら、永遠に復活されて強くなってしまう!!」



「二体同時に……できるかな!?」



「できなくても、やるしかない。通話は繋いだままで、タイミングを合わせよう!」




 二人が通話を交わしていると、光の鎖で拘束された人型ボティスの二本角が赤く輝き始めた。

 すると、全身の筋肉が膨張して、凄まじいパワーで手足を捉えていた鎖を引きちぎっていく。




「ユウトさん!拘束が、保ちません!!」



「あれは……“強化の角”の効果か!」



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