LV2「合わせ鏡の回廊」・6

「ユウト!一緒に、扉を開くよ?良い!?」



「えっ!?わ、わかった!」




 二人が、それぞれの取っ手に手を掛けると、ガチャリと鍵の開いた音がして、扉が開く。

 すると、アスカはモモカの方に振り向いて、自慢げに微笑んだ。




「……わかった?必要だったのは“鍵”なんかじゃなくて、向こう側にある扉と行為だった。って、こと」



「協力プレイが、必要だったわけね……いや、そうじゃないかな〜と思ってたんだよね。うんうん」




 精一杯の強がりを見せるモモカを、呆れながら置き去りにしたアスカは、とっとと扉の中へと足を運んだ……すると、そこにいたのは。




「また、蛇か……」




 目の前に立っていたのは、人の腕が生えた大型の黒蛇くろへびだった。その右手には、青い片手剣が握られている。

 遅れて、扉の中をくぐってきたモモカも敵の姿を発見して、驚いた様子を見せた。




「何、アレ!?あいつが、ここのボス?てゆーか、お姉ちゃんたちも、いないじゃん!」



「ユウト……そっちも、扉の中に入った?」




 アスカからの通信を受けて、すぐに植村からの返事が返ってきた。




「入った!ボスっぽい奴が、いる。これ以上、近付いたら今にも戦闘になりそうだ」



姿形すがたかたちは?どんなヤツ!?」



「大きな二本の角が生えた人型ひとがたの悪魔……赤い片手剣を、装備してる」



「こっちとは、違う番人か……てっきり、同じ姿の奴がいると思ってたんだけど。どういうことなんだろ?」




 予想が外れて悩み出したアスカを見て、モモカが痺れを切らす。




「考えてたって、どうしようもないから!時間だって、限られてるし……要するに、目の前にいる敵を倒せばいいだけでしょ?パパッと、やっちゃおうよ」



「そんな安易な……と、言いたいところだけど。モモカの言うことにも、一理ある。所詮は、レベル2の秘宝の番人。やるだけ、やってみるか!」



「おっ。珍しく、意見が合うじゃん!七海アスカ」



「アスカな?一応、私の方が年上だから!」




 二人が話していると、静かに立っていた蛇の悪魔が、ゆっくりと口を開き、そこから槍のような舌を伸ばしてきた。




 ズドンッ!!




 その舌をギリギリで、アスカは右に、モモカは左に回避して難を逃れた。そのまま、氷の道を作り出して、地面を滑り出したモモカが敵の周囲を回りながら、反撃の狼煙を上げる。

 比較的、広いフィールドだった番人ボスの間では、彼女は自由に動き回ることが出来ていた。




「貫け!フリーズ・アロー!!」




 ドドドドドドドドドッ!!!




 そして、創り出した無数の氷矢が黒蛇を貫いた。




「よっし!全弾命中!!」




 次の瞬間、姿を消滅させた敵を見て、思わずガッツポーズを取るモモカだったが、アスカは疑念を抱いていた。




「いくらなんでも、あっけなさすぎる……これで、終わり?」




 アスカの不安は、的中した。


 消滅した場所から、再び黒い霧と共に蛇の悪魔が姿を現したのだ。

 それには、モモカも驚きの声を上げる。




「なんで!?姿を、消しただけ?それとも……まあ、いいや!何度だって、倒してやるんだから!!」




 そう言って、スケートの滑りを加速させたモモカは、再びフリーズ・アローを黒蛇に向かって、射出していく。

 しかし、敵は手にした青い剣を地面に突き刺すと、足下から紫の霧を噴出させ、襲いかかってきた氷の矢を全て溶かし尽くしてみせた。


 その姿を見て、アスカは推測する。




「そいつは、姿を消してたんじゃない。復活したんだ……そして、一度やられた戦術に順応してきている」



「どういうこと!?生き返るたびに強くなるってこと?無敵じゃん、それ!」



「生き返らないように倒す方法が、あるんでしょ!扉と同じ……おそらくは、またが!!」



「だから!その何かを、言え……って!?」




 紫の霧の中から、物凄い速さで地を這ってきた黒蛇を眼前に捉え、モモカは言葉を詰まらせた。

 そして、咄嗟に守護の術式を展開させる。




「フロスト・ウォール!!」




 彼女の前に出現した分厚い氷の壁に、黒蛇の牙が突き刺さる。その牙は、厚い氷壁を溶かすほどの酸を有していた。

 術式が間に合わなければ、モモカの命も危なかっただろう。




「旋風投!!」




 後方から“気”を使った投げをみせたアスカは、黒蛇の身体をグルンと一回転させて地面に叩きつけた。敵は隙だらけ……しかし、彼女は追撃の手を緩めてしまう。




(下手に、トドメを刺して……また、生き返られたら。どんどん、こちらの攻め手が無くなっていく!下手な追撃は出来ない。でも、どうする!?)




 それは、一瞬の油断。


 迂闊に黒蛇の瞳を見てしまったアスカは、敵の状態異常攻撃“麻痺にらみ”の餌食とされてしまう。

 秘宝の番人のスキルとしては定番となりつつある攻撃手段。

 しかし、不死身と思われる敵の攻略法に思考が奪われ、すっかり警戒心が抜け落ちていた。



 そして、全身が痺れて動けなくなる彼女のもとに、黒蛇が地を這うように迫っていく。




「ちょ、七海アスカ!なに、ボサっとしてんの!?早く、逃げなさいよ!!」

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