LV2「合わせ鏡の回廊」・5

 ドドドドドドドッ!!!




 五つの首を持つ蛇の魔物クリーチャー・ナーガは、自身の首を鞭のように伸ばすと、逃げ惑うモモカに向かって時間差で首を飛ばしていく。


 襲いかかってきた蛇の鋭い牙はモモカが凍結させた道ごと噛み砕いて、えぐり取っていった。

 明らかに今までの魔物とは一線を画す強さ。およそ、中位から上位と思われる蛇の化け物は、このダンジョンの中ボスに位置する存在だった。




「ちょっと、七海アスカ!隠れてないで、助けなさいよ!!」




 休みなく洞窟内を進行していたアスカとモモカの組は、強敵と戦闘の真っ只中であった。


 多少は開けた場所とはいえ、狭い洞窟内。しかも、凸凹でこぼことした地面では、モモカのスケート移動も十分な速さを維持することが出来ず、ナーガの猛攻を回避するので精一杯だった。

 そんな様子を岩場の影に隠れて、様子を伺っていたアスカが返す。




「あれれ〜?私の力なんて、必要ないんじゃありませんでしたっけ!?ボス戦までの雑魚ザコなんか、私一人で十分よ!とか、なんとか……」



「ぐぬぬ……!言ったけどッ!!レベル2で、こんな奴が出てくるなんて聞いてなーい!!!」



「だから、油断すんなって言ったのに!やれやれ……しょうがない。シルエット・シックス、“隠者ハーミット”。ドレスアップ!!」




 アスカが、わざと大声で【七変化】を発動させると、それに気付いたナーガが今度は彼女を標的に変えて、五つ首のミサイルアタックを飛ばしてきた。




「飛翔天!!」




 一撃目の敵のヘッドを踏みつけると、それをジャンプ台のようにして、ナーガの頭上へフワリと空中を歩くように飛翔していくアスカ。

 そして、真上から奇襲を仕掛けようとする彼女に、またしても大口を開けた蛇の頭が迫って来る。




「八卦風神掌……龍玉遊掌・旋風つむじかぜ!」




 全身を回転させながら、周囲の風を纏わせて突撃するアスカ。風のドリルと化した彼女に触れたナーガの頭は、噛み付く暇もなく切断されていく。

それは、攻防一体の八卦風神掌・螺旋勁らせんけいの型であった。




波動穿はどうせん!!」




 全ての首を刈り取って、残るは体だけとなったナーガに、アスカはトドメの気の一閃を撃ち込むと、ふわりと着地を決めたのだった。




「……ふうっ」




 敵の消滅を確認し、軽く息を吐くアスカ。

 その一部始終をその場に止まって見届けていたモモカは、あからさまに悔しそうな表情を浮かべて言った。




「今回は、場所が悪かっただけだもん!もっと、広い場所だったら、あんなヘビ……私だって、簡単にやっつけれるんだから!!」



「別に、何も言ってないでしょ。そんな必死に弁明しなくったって、モモカの実力は認めてるっての」



「うわ!なんか、上から目線だし!!くやしい〜」



「だから……なぜ、すぐにそうなる!?そんなに、ケンカしたいんか!」




 ヒートアップしそうになる口論だったが、消え去ったナーガの後ろに扉があることを発見し、アスカが止まる。




「この扉を、守ってたのか……あのヘビ」



「おっ!もしかして、ボス部屋の入口!?」




 何の躊躇いもなく、発見した扉をガチャガチャと開けようとするモモカを、アスカが慌てて引き止めた。




「こら!まだ、ユウトたちが合流してないのに、ボス戦を始めようとすんな!!」



「だ、大丈夫だってば!開かなかったから!!」



「そういう問題じゃない……え、開かなかったの?」



「うん。もしかしたら、鍵とか必要なんじゃない?」




 まじまじと扉を観察しながら、アスカが見解を述べた。




「鍵穴らしきものは、見当たらない。ここに来るまでの道のりも、ほぼ一本道だったし……重要なアイテムを見逃してる可能性は、低いと思う」



「じゃあ、どうやったら開くわけ?力で、ぶっ壊す!?」



「脳筋プレイは、やめろ。もしかしたら、これは……」




 アスカが考え込んでいると、別班の“植村ユウト”から通信が飛んできた。




「アスカ、聞こえる?」



「はい、どうぞ。聞こえてるよ」



「アスカを目的地に設定して、【ナビゲート】を辿って来たんだけど……矢印が壁の方に向かって指されていて、そっちへ行けそうにないんだ」



「壁……?」




 何か閃いたのか、アスカは扉に続く通路の横壁に近付くと、大きな声で叫んだ。




「おーい!もしかして、そっち側にいる〜!?」




 何秒かラグがあって、すぐに生の声で返事が返ってくる。




「いる!そんな近くに、いたんだ!?」



「そっちには、扉みたいなの無い!?」



「あるよ!怪しそうだったから、まだ開けてないけど!!」




 植村からの返事に、想定が確信に変わったのかアスカが満足そうに微笑むと、モモカが口を挟んできた。




「じゃあ、扉を開いて先で合流できる感じ?でも、どうやって開けるかだよね。問題は」



「多分、このダンジョンは左右対称にセパレートされている構造なんじゃないかな。わざわざ、そんなコースにしてるってことは、何かギミックがあるはず……例えば、別れた仲間同士で協力しなければならない。とかね」



「はぁ?もっと、分かりやすいように説明しなさいよ!」



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