LV2「合わせ鏡の回廊」・2

 洞窟を進んでいくと、ゴブリンやオークなどの下級クリーチャーが出現したが、光剣クラウ・ソラスを使って難なく撃退していった。


 上位や特位のクリーチャーと交戦してきたのもあって、この強さの敵で脅威は感じなくなっていた。

 この世界にレベルシステムなどは無いが、こういうことで冒険者としての成長を実感する。




「よし。このまま進んでいけば、アスカたちと合流できると思う」




【ナビゲート】を使って、“七海アスカ”の位置を示す矢印を追いながら、俺がサクラちゃんを先導していく。




「やっぱり、凄いなぁ……“冒険者養成校ゲーティア”の、人たちは」



「ん?どうしたの、急に」



「お父様が、言ってたんです。敵の攻撃を全く受けない前衛がいれば、ヒーラーの存在は必要ない……って」



「い、いや!今回は、弱い敵が多かったからで……もっと、上位のダンジョンだったら、絶対にヒーラーは必要になってくるから!!」





 調子に乗って、一人で突っ込みすぎたか。連携を深める為に挑んだダンジョンなのに、これじゃソロ攻略と変わらない。全く、サクラちゃんのことを考えていなかったな。





「すみません……なんか、気を遣わせちゃったみたいで。少し、落ち込んでしまって」



「う〜ん……なら、サクラちゃんも戦う方法を身に付けてみるってのは、どう?」



「えっ?私、運動神経とか良い方じゃないんですけど……オススメの武術とか、ありますか!?」




 かわいいファイティングポーズを見せて、やる気をアピールしてくるサクラさん。俺が言いたかったことは、そういうことではない。




「そうじゃなくて、サクラちゃんのユニークスキルを攻撃に転用できないかってことなんだけど……」



「私のスキルを、攻撃に?」



「ゲームの白魔術だって、攻撃用の魔法とかあるし……あれだけの奇跡を起こせるのなら、使いようによっては転用できると思うんだよね」




 周防さんもユニークスキルの使い方を応用させて、見事にスイーパーへと転身していた。

 ユニークスキルの潜在能力を引き出すには、使い手の柔軟な発想が必要なのだろう。彼女の【聖女】もヒーラー特化のスキルに収まるレベルのものではないと、思っている。




「私のスキルは、大気中のマナを光に具現化させて様々な奇跡を起こすというのがベースになっているんです。その光を武器に変えられれば、良いんでしょうか?」



「そうかも。幸い、ここには手頃なクリーチャーが多い。色々と、試しながら進んで行こうよ」



「は……はい!頑張ってみます!!」



「俺が倒さない程度に敵を足止めさせておくから、後方から色々と攻撃術式を試してみて?」




 彼女が力強く頷いたのを確認して、俺は再び進行を開始した。まさか、自分が人に助言できるような立場になるとは。まだまだ、見習いの身なのだけど。


 すると、都合良く暗闇からオークが二匹、槍を持って現れた。敵が仕掛けてきた攻撃を光剣クラウ・ソラスで受け止め、俺はサクラちゃんに向かって叫んだ。




「今だ!何でもいいから、試してみて!!」



「わかりました……破邪の光よ、闇を打ち払う白き矢となれ!イービル・クラッシュ!!」




 彼女が集めた光は、弓矢の形に変化してサクラちゃんの両手に収まると、その弓から俺が足止めしたオークに向かって光の矢が放たれた。




「グアアアアッ!!」




 見事に命中した光の矢は、その一撃で敵の姿を消し去ってみせた。急所に当たったわけでは無いのに、この威力。いくら相手が下級とはいえ、やはり彼女のユニークは攻撃に転化させても凄まじかった。




「いいぞ!あと、一匹!!」



「す、すみません……慣れない術式で、負担が!」




 ふらっとよろけた彼女は、洞窟の壁に手をついて身体を支える。ぶっつけ本番で、いきなり成功させたとはいえ、精神力の消耗が激しかったようだ。


 俺は、すぐに残っていたオークを斬り伏せると、すぐにサクラちゃんのもとへ駆け寄った。




「ごめん!無理させちゃって……大丈夫?」



「はい。これぐらいなら、すぐに回復すると思います……でも、成功しました!」



「うん。凄いよ、一発で……しかも、威力も十分だった。あとは、あの術式を進化・応用させていけば、上位のクリーチャーにだって通用すると思う」



「凄いのは、ユウトさんです。すぐに、私のスキルの可能性に気がつくだなんて……」




 俺の【虚飾】も、使い道をアレンジしていくタイプだったからか、そういう思考が染み付いているのかもしれない。何にせよ、これで彼女が攻撃支援まで出来るようになったら、完璧な後衛となれることだろう。




「俺は、何もしてないって。きっと、冒険者になっても、今のサクラちゃんなら心配なく活躍できるよ!きっと」



「ありがとうございます。良かった……思った通り、ユウトさんは優しい人ですね」



「へ?」



「私、このユニークのせいか……何となく、他人の善悪を敏感に感じ取れてしまうんです。ユウトさんや、アスカさんからは“善”のエネルギーを強く感じました。だから、今回の一件をお願いしたんです」



「そう、なんだ……そんなに良い人間じゃないけどね、俺は。はは」



「いえ、そんなことはありません。ユウトさんで良かったです!ふふっ」







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