アルゴナウタイ

「本当ですか!?ありがとうございます!」




 噴水広場に移動した俺たちは、サクラちゃんにビデオ通話をして依頼を引き受けるむねを伝えていた。

 噴水のふちに腰を掛け、アスカが話しているのを、俺は立ちながら様子を見守っていた。




「喜ぶのは、まだ早いって。お礼は、ダンジョンを攻略してからね」



「は、はい!そうですね……でも、ありがとうございます。あと、その、報酬なんですけど」



「んー……それは、成功報酬で良いよ。クリアできたら、その時に考えておく。サクラが、用意できそうな報酬をね。もちろん、法外なお金とか請求したりしないから安心して?」



「い、いえ!私が出来ることなら、何でもさせていただくつもりなので……遠慮なく、おっしゃっていただければ。はい」




 画面越しでも、申し訳なさそうにペコペコと頭を下げているサクラちゃん。それだけで、彼女の人柄の良さが伺えた。




「それより!本当に、ダンジョンをクリアしたら冒険者にさせてもらえるの?かなり、反対してたと思うんだけど。サクラのお父さん」



「さすがに、約束を破るようなことはしないと信じたいです……私は」



「ん〜、そうだといいけど。サクラが、そう言うなら」



「きっと、大丈夫ですよ。あ、えっと……ダンジョン攻略の決行日は、一ヶ月後です。詳しいスケジュールは、後で送っておきますね」




 一ヶ月後か……結構、準備期間があるな。ありがたい。




「出来れば、その期間のあいだに違うダンジョン攻略を挟みたいんだけど、いけそう?連携とか、信頼関係も深めておきたいし」



「それは、構わないですけど……ダンジョンを見つけるところから、始めないといけないのでは?」



「あ〜。それは、こっちで手頃なゲートを見つけておくから大丈夫。それじゃ見つかったら、また連絡するから、そのつもりで」



「わ……わかりました!モモカちゃんにも、伝えておきます。あの、植村さんにもお礼を言っておいて下さい」




 アスカは、チラッと俺の顔を見ると、交代してくれるのかと思いきや……。




「おっけー、伝えておく。それじゃ、またね〜」



「はい!ありがとうございました!!失礼します」




 俺が顔を出そうとした瞬間、ビデオ通話は途切れてしまった。ちゃんと、挨拶しておきたかったのに。




「ちょっと。ここにいるって、言ってくれればいいのに!」



「何か、話したそうな顔してたの見たら、意地悪したくなっちゃった。へへ」



「おい〜……ってか、練習でダンジョンに潜るとか言ってなかった?」



「言ったよ。そういうことだから、よろしくね」




 一瞬、「は?」と思ったが、なるほど。俺の持つ『ダンジョン・サーチ』で見つけろって、ことか。

 しばらく使ってなかったから、忘れてた。




「はぁ。調べてみるけど……ちなみに、ご希望のダンジョンは?」



「あくまで、練習の一環だから……レベルは2ぐらいで。無難に、バトルミッションとかが良いかな」



「ん〜……近場だと、二件ヒットした」



「はやっ!?もう、見つかったの?」




 トコトコと歩いて、俺の隣に来たアスカが覗き込むように、展開させた『ダンジョン・サーチ』の画面に釘付けとなる。どうでもいいけど、距離が近い。




「えっと……どっちに、します?」



「ここ、良いじゃん!手に入る秘宝アーティファクトが、『黄泉の香炉』……だって」



「『黄泉の香炉』……“死者の魂を現世に呼び寄せて、5分間だけ会話することが出来る”、か。誰か話したい人が、いるの?」



「私じゃなくて、龍宝オーナーに使えたらと思って」




 お目当てのダンジョンをブックマークしておくことで、“他の冒険者が攻略中”などの情報がリアルタイムで確認することが出来る。本当に、便利なアプリだ。

 ちなみに、今のところは誰にも発見されてないようだ。見つけられる前に、攻略しなくては。





「龍宝オーナー?」



「サクラのお母さんは、サクラが幼い頃に他界しちゃってるんだって。噂では、龍宝オーナーは奥さんに頭が上がらなかったみたい。万が一、約束を反故ほごにされた場合、これを使って龍宝ママに叱りに来てもらおうかなって。良い案じゃない?」



「そんな、思い通りいくかなぁ?確かに、切り札として持っておくのは良いかもしれないけど」



「まぁ、私だって……死者の魂を利用するようなことは、あんまりしたくないけどさ。私たちが説得して聞くような相手じゃ、なさそうだから」




 それは、分かる。地位も高いし、物申してくれるような人も周りにいなさそうだからな。苦労して課題をクリアして、やっぱりダメだ!とか言われたら、サクラちゃんが可哀想すぎる。




「じゃあ……練習用のダンジョンは、ここで決まりで。誰かに見つかる前に、早く挑まないと」



「うん。よく考えたら、これって……私たちのギルド、初陣ういじんになるんじゃない?正式な依頼を貰ったって、ことになると」



「あぁ……そうなる、のか?」



「そういえば、考えておいたよ。私たちのギルド名!」



「おっ、なに?」



「『アルゴナウタイ』!神話に登場する英雄たちの一団、アルゴー探検隊のこと。どう!?一人一人が、英雄みたいになるギルドを目指して!!」



「一人一人が英雄に……『アルゴナウタイ』か。悪くないかも。言いづらいけど」



「……おい、こら。一言余計だっつの」






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る