カフェ・利休

「カフェ・利休」。学生店舗の中でも、手頃な値段と創意工夫が見られるメニューで、生徒たちから高い人気を誇るカフェだ。


 放課後の訓練を終えた植村と七海はここで、寮に帰るまでの道草を食っていた。




「うま!ここの抹茶スイーツは、いつ食べても絶品だわ」



「それは良かったけど、なぜに俺のおごり?」



「良い先生を、紹介してあげたでしょ?それなりの対価は、支払ってもらわないと」




 注文した抹茶パフェを小さな口で、美味しそうに頬張りながら幸せそうなアスカ。

 幸い、林間学校イベントで稼いだ学園通貨ハスタがあるし、喜んでる顔を見るのも悪い気はしない。




「でも、驚いたよ。あんなに若い先生だったなんて。武術の先生っていうから、仙人みたいなお爺ちゃんの姿を想像してたんだけど」



「中身は仙人みたいなお婆ちゃんだから、間違ってはないけどね。前世では、中国の高名な武術家だったらしいよ。その記憶をベースにして、現世で修得した“気”を加えた新たな型を生み出したんだって」



「それが、“風神八卦掌”と“雷神八極拳”……って、ことか」



「剣術の稽古と並行するのは大変だろうけど、どちらも習っておけば、きっと両方に良い作用をもたらしてくれるだろうから、頑張ってみてよ」




 確かに、どちらも“気”を使うという点では同じだし、“雷気”を自在に操るようになれれば、七星剣術にも応用できるかもしれない。

 ちょっと辛いのは事実だけど、どんどん強くなる実感が得られるというのはワクワクするものだ。頑張ろう。




「あっ!そういえば、ユウトに聞いておきたいことがあったんだった」



「ん、なに?」



「実は、また助っ人を頼まれてるんだけど……やる?」



「え?また、レギオンレイド!?」




 抹茶パフェを完食し、口元についていたクリームを舌でぺろっと舐め取ると、アスカは続けた。




「いーや。今回は、個人的な依頼なんだよね」



「個人的な依頼……?」



「依頼主は、龍宝サクラ。冒険者になる為の選定試験に協力して欲しいんだって。私たちに」




 そして、俺はアスカから詳しい経緯を一通り説明してもらった。要するに、サクラちゃんが父親の指定したダンジョンを攻略できれば、冒険者になることを認めてもらえるということらしい。




「なるほど。四人で、レベル3のダンジョンって……どうなの?」



「その四人の実力が十分なら、クリアは難しくはないと思う……ってか、龍宝姉妹のユニークは二人共、強力だし。もし、そこに私とユウトが加わるなら、余裕なんじゃないかな?」



「おお〜」



「……ただ、条件が甘すぎる。龍宝オーナーは、サクラを冒険者にはさせたくないはず。そんな、あっさりとクリアできるような課題は出さないと思うんだよね」




 言われてみれば、確かに。だとすると、何かしらの妨害工作をしてくるということも考えられるのだろうか?




「まさか……娘に、PK行為を仕掛けさせるような真似、しないよね?」



「そう、思いたいけどね。龍宝オーナーは、目的の為には手段を選ばない人だから。最悪、『エクスプローラー』から刺客を送り込んでくるってケースも、想定しておく必要があるかも」



「いやいやいや!そんなの、天馬先輩とか来たら無理ゲーでしょ!?クリアさせる気ないじゃん!!」



「さすがに、カケルまでは引っ張り出して来ないことを願うけど……でも、これで分かった?表向きは、レベル3攻略のお手伝い。でも、実際は鬼ハードモードの依頼かもしれない」




『エクスプローラー』の刺客を退けつつ、レベル3ダンジョンを攻略……しかも、それを四人だけでか。ある意味では、レギオンレイドよりキツそうだ。




「アスカは……受けるつもりなの?その依頼」



「うん、まぁ。サクラのことは、前から気にかけてたし……他に、伝手つても無さそうだったからね。あ、でも、ユウトは気にしなくてもいいよ。いざとなれば、もう一人の枠は他の知り合いを当たるから」




 龍宝サクラ。結局、素顔はチラッとしか見てなかったけど、色々と話して面識はある。

 しばし、彼女の面影を思い浮かべて、俺は結論を出した。




「じゃあ……俺も、受けさせてもらうよ。色々と、良い経験にもなりそうだし」



「それは嬉しいけど一応、確認。この依頼には、サクラの冒険者としての人生が掛かってる……プレッシャーをかけるつもりは無いけど、それを背負う覚悟はある?」




 珍しく真剣な眼差しで俺に念を押してくるアスカ。それだけ、サクラのことを思っているということなのだろう。俺も、生半可な気持ちでは挑めない。




「正直、俺にアスカほどの思い入れは無い……けど、夢を叶えさせてあげたい気持ちはある。俺の力で、その役に立てるなら、協力させて欲しい」




 サクラちゃんは会議室にすら入るのを躊躇ためらうような消極的な性格だった。それなのに、レギオンレイドでは必死に頑張って活躍していた。

 きっと、冒険者になりたいという夢が強いのだ。関係は浅くても、そういった思いは感じ取れた。


 アスカは値踏みするように、俺の眼をジッと見てから、ふっと優しく微笑んだ。




「ありがとう。そう、言ってくれて……正直、ユウトがいてくれないと不安だったんだ。助かるよ」



「あ、いや!どういたしまして……うん。俺、頑張るから」

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