龍宝タイジュ
「待って、パパ!私は、協力しても良いでしょ!?妹なんだし……『エクスプローラー』にだって、ゲスト参加みたいなものだもん!!」
「はぁ……好きにしろ。準備期間は、一ヶ月やる。その間に、残る二人の助っ人を集めておけ。それまでは、こちらでゲートを管理しといてやる」
「よし!一ヶ月か……それだけ、あればイケそうじゃない?お姉ちゃん!!」
モモカからの前向きな言葉に、サクラは軽く微笑んで頷くと、父親に最後の念を押した。
「本当に、攻略したら……私の冒険者活動を、認めていただけるんですね?」
「本当だ、男に二言は無い。ただし、失敗したら……きっぱりと諦めて、私の決めた道を歩んでもらうぞ。それで、良いな?」
「……わかりました。それで、構いません」
「うむ……交渉成立だ。さがって、よいぞ。詳細は、あとで藤村より追って説明に行かせよう」
姉妹はペコリと頭を下げると、オーナールームから出て行った。それを見送って少し間を置くと、部屋に残っていた藤村ロイドが、龍宝タイジュに尋ねる。
「……よろしかったのですか?」
「よろしいわけがない。だが、これで私がチャンスは与えたという事実が出来た。さすがに、これで失敗すれば、二度と下手な気は起こさなくなるだろう」
「いくら、たった四人での攻略とはいえ、サクラ様、モモカ様のユニークは強力です。助っ人次第では、十分にクリアできる可能性はあるかと思われますが?」
「もちろん、黙って行かせる気など毛頭ない。『エクスプローラー』の精鋭部隊を、同じダンジョンへ攻略に仕向ける」
多少、後ろめたい気持ちがあるのか、急に窓から外の景色を眺めがら、藤村に背を向ける龍宝タイジュ。
「まさか……お嬢様たちに、PK行為を仕掛けるおつもりですか?」
「冒険者となれば、PK行為も珍しいことではない。十分、想定しなければならない災害だと思うが?」
「しかしながら、『エクスプローラー』の精鋭部隊と、ダンジョンにいるクリーチャーを四人で相手にしなければならないのは……ちと、意地悪が過ぎるのではございませんか?」
「ふん。相変わらず、サクラたちには甘いな……お前は。安心しろ、さすがに“天馬カケル”は使わんでおいてやる。せめてもの、情けだ」
他のダンジョン攻略中のメンバーを除いた『エクスプローラー』の現主力といえば、“天馬カケル”を除いても、【発明家】の一角ツバサ、【剛体】の牛久ダイゴ、【狙撃】の烏丸クロウ、【付与】の鳴海ソーマという
間違いなく龍宝タイジュは、サクラの夢を完全に潰そうとしているのだ、と藤村は痛感した。
そんな企みがあるとは露知らず、龍宝姉妹は期待に胸を躍らせながら、ギルドホームの廊下を並んで歩いていた。
「ありがとう、モモカちゃん。いつも、助けてもらってばっかりだね……」
「なーに言ってんの!姉妹なんだから、助け合うのは当然でしょ?私だって、お姉ちゃんと一緒に冒険したいもの」
「モモカちゃん……うん、そうだね。私も、一緒に冒険したい」
サクラからの言葉に、モモカは少し照れくさそうに喜んでみせた。幼い頃に母親が他界してしまったモモカにとって、サクラは姉でもあり母のような存在でもあった。
父・タイジュが、あのように厳格で厳しい性格の為、ことあるごとにモモカはサクラの優しさに救われてきたのである。だからこそ、モモカのサクラに対する信頼と愛情は、とても深いものがあったのだ。
「と、なると……あと二人の、助っ人枠が問題だよね〜。私、知り合いの冒険者なんて『エクスプローラー』の人たちぐらいしか、いないんだよなぁ。お姉ちゃんは?」
「私も、全然……あっ!アスカさんは?七海アスカさん」
「え〜!?七海アスカ?」
「ダメ……かな?モモカちゃんがイヤなら、他の人を考えようか」
天馬カケルのことで、一方的にライバル視している人間の助けを借りるのは、どうにも気が乗らないモモカではあったが、悔しいことに他のアテが思いつかないのも事実であった。
自分のプライドよりも、姉の夢を守ることの方が大切だ……と、結論を導いた彼女は渋々ながら口を開いた。
「いや……頼んでみよう、七海アスカに。ムカつくけど、強さは申し分ないし」
「えっ、大丈夫なの?モモカちゃん」
「え、まぁ……うん。背に腹は変えられぬ」
「なら、良かった。あっ!もし、アスカさんからOKが貰えたら、植村さんにも頼んでもらえるかも」
「植村?」と言いながら、しばし考え込むモモカは、何か思い出したように、「あ〜!!」と大声をあげた。
「七海アスカの横にいた、冴えない男子か!言われてみれば、地味に強かった記憶あるかも……良いかもね」
「あはは……あんまり、本人に面と向かって、地味とか冴えないとか言わないようにしてあげてね?」
「わ、わかってるってば。てか、協力してくれるかなぁ?ろくな報酬とか出せないし、完全なるボランティアみたいなもんだもんね。まぁ、頼むだけ頼んでみるかぁ……」
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