課題

 後日、龍宝財団・オーナールーム。




「……以上が、今回の戦果でございます」



「ご苦労。想定していた以上に、脱落者リタイアが出たようだな」



「はい。おそらく、今回の番人が侯爵級の中でも最上位クラスの強さだったからだと思われます。状態異常スキルも、多く所有しており……ヒーラーがいなければ、もっと苦戦していたやもしれません」





 藤村から出た「ヒーラー」というワードに、ピクッと眉を上げて龍宝タイジュが反応を示す。




「……サクラのことか。ここに来るようには、伝えてあるな?」



「はっ。もうすぐ、お見えになられるかと」



「まさか、まだ……冒険者に、未練があったとは」





 コンコン




「お父様。サクラです」



「いいぞ。入れ」




 父から入室の許可を得たサクラは、申し訳なさそうにオーナールームに入ってくると、龍宝タイジュの前で深々と頭を下げた。





「この度は、勝手な真似をしてしまい……誠に、申し訳ございませんでした」



「謝罪をするぐらいなら、最初からするな。一体どういう意図があって、レイドに参加したのだ?」



「……私の実力を、お父様に認めていただく為です」




 チラッと一瞬だけ父と目が合うも、その威圧感に負けて、すぐに視線を下に向けるサクラ。

 そんな様子を見て、龍宝タイジュはハァッと大きく一つ溜め息を吐いた。





「お前の実力は、とっくに認めている。認めた上で、冒険者になることを反対しているのだ」



「それは……私を、跡継ぎにしたいから。ですか?」



「その通りだ。所詮、冒険者という職業は消耗品……使われる側に、過ぎん。我々のような強力な後ろ盾が無ければ、まともにギルドを運営していくことすら、ままならない」



「使われる側……ですか」



「だが、お前や私は違う。そういった連中を使になる資格を持って生まれてきた……いわば、選ばれた者なのだ。私たちは」



「そ……そんな資格など、欲しくはありません!冒険者というのは、もっと誇り高い職業であるはずです!!」




 珍しく感情を露わにした娘に、父親は2〜3秒だけ沈黙した後で、口を開いた。




「……そんなに、冒険者になりたいか?サクラ」



「な……なりたいです。冒険者をしながらでは、駄目なのですか?跡を継ぐのは」



「片手間でこなせるほど、私の仕事は甘くない。冒険者になりたいのだとしたら、骨を埋める覚悟で道を選べ。お前に、それだけの覚悟はあるのか?」



「そ、それは……」





 父親に問い詰められ、サクラが何も言い返すことが出来ないでいると、それを助けるように新たな訪問者が勢いよく扉を開けて、中へと入って来た。





「お姉ちゃんを、イジメないで!いいじゃん、別に!!ダンジョンの中なら、死ぬことはないんだし……冒険者ぐらい、やらせてあげなよ!!!」



「モモカ……また、お前か。部屋に入ってくる時は、ノックをしろと言っているだろう」



「そんなの、今はどうでもいいでしょ!それよりも大事なのは、お姉ちゃんのこと!!」



「全く。姉想いなのは、良いことだが……お前は、首を突っ込みすぎだ。どうせ、今回の一件を仕組んだのも、お前なのだろう?」




「マズい」とばかりに、あからさまに顔を青くするモモカ。しかし、サクラの前からは決して立ち退くことはしない。




「だって……かわいそうじゃん!あんなに凄いユニークスキルを持ってるのに、ダンジョンに潜ることすら出来ないなんてさ」



「確かに、サクラのユニークは希少なものだ。しかし、結局はヒーラー。前衛がいなければ、何の役にも立たん。極論を言ってしまえば、ダメージを受けないほどの強力な前衛がいれば、存在価値すらなくなるだろう」



「ぐぬぬ……ああ言えば、こう言う!この、わからずや!!」





 パッションで挑んだモモカは、あっさりと父親に言い負かされると、癇癪かんしゃくを起こし始めた。





「モモカお嬢様。タイジュ様も、サクラ様の将来を案じていらっしゃるのです。そのことを、少しでもご理解していただければ……」



「理解できないから!なに?藤村も、パパの味方なわけ!?結局は、権力の犬か!!」



「いえ、そういうわけでは……」





 さすがの藤村も対処に困っていると、龍宝タイジュは何かを思いついたのか、一つの案を提示した。




「仕方ない。そこまで言うのなら、チャンスをやろうではないか」



「チャンス?」



「私がこれから出す課題を、見事にクリアすることが出来たら……サクラが冒険者としての活動をすることを、許可してやろう」





 後ろから、静かにモモカを止めようとしていたサクラが、驚いた表情で父親に尋ねた。





「ほ、本当ですか!?お父様」



「本当だ。その課題とは、私が指定したダンジョンをクリアして、秘宝アーティファクトを手に入れてくること」



「ダンジョン攻略……と、いうことですか?」



「『エクスプローラー』が発見して、キープ中のゲートがある。レベル3ダンジョンへの入口だ。それに、挑んでもらうとしよう」





 その課題を聞いて、モモカも口を挟んできた。




「それって、一人でじゃないよね!?お姉ちゃんは、後衛でサポーターだよ?」



「そうだな。では……三人まで、助っ人を許可してやる。四人一組が、難関ダンジョン攻略においての最小単位と言われているからな。ただし、『エクスプローラー』からは人員を貸さん。冒険者を目指すのなら、仲間ぐらい自分で集めてみせろ」

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