龍宝サクラ
「全ての
龍宝サクラが、まばゆい閃光を放つと空中に撒き散らされた全ての火の粉が一瞬にして消滅し、結果的に全員の命を救うことに成功した。
ダンジョンの性質上、一人だけでも生き残ってさえいればクリアにはなるのだが、ほぼ全滅状態で終わるのとでは後味が全く違うというもの。
そういう意味では、彼女の力を示すには十分なパフォーマンスだったといえるだろう。
ミッション クリア
「クリアした……天馬さんも、白石さんも凄いな。世界は、広いや」
「そりゃ、まあ……どっちも、英傑シリーズだからね」
「ん……英傑?」
「いや、何でもなーい。ユウトも、凄いよ?十分ね」
キックボードを、元の“マルチウェポン”の姿に戻して、アスカが植村と話しながら、天馬カケルが出現した宝箱を開けているのを確認した。
どんな秘宝が出現したのかは分からなかったが、どのみち『エクスプローラー』の所有物となるので、傭兵部隊は知らずともいい話ではあった。
そして、帰還のゲートが出現し、生き残った者たちは次々と現実世界へと戻っていく。
植村も続いて帰ろうとすると、手に入れた秘宝を鹿沼に預けて、天馬が“白石アヤメ”のもとへと歩み寄って行くのが見えた。
「さっきは、素晴らしい術式でした。サクラお嬢様」
「……やはり、気付かれてしまいましたか」
「あれだけの奇跡を起こせるヒーラーなんて、俺の知りうる限りでは、あなたの有する【聖女】のユニークぐらいしか思い当たりませんでしたからね。しかし、なぜ正体を隠してまで、このレイドに参加したんです?」
「そ、それは……」
返事に困っていた姉を助けるように、二人の間に割って入ったのは“龍宝モモカ”であった。
「待って、カケル様!そそのかしたのは、私なの!!お姉ちゃんを、責めないであげて!?」
「なるほど、キミの入れ知恵だったか。心配しなくても、俺は責めるつもりなんかないよ。だが、どうして、そんな真似を?」
「お姉ちゃんは、まだ冒険者への夢を捨ててないの。このミッションで活躍する姿を見せれたら、お父様も認めてくれるかもしれないって……そう、思ったんだよ」
オーナーである龍宝タイジュが、サクラの冒険者志願に反対していることは『エクスプローラー』の人間ならば、誰しもが知っているほどの共通認識であった。
天馬も、モモカの答えに合点がいったようで、複雑な表情で話を聞くしかなかった。
そこへ、執事の藤村ロイドもやって来て。
「割り込ませていただきます。理由は、ともかく……このことは、タイジュ様に報告せねばなりません。よろしいですね?サクラお嬢様」
藤村からの確認に、意を決したように口元を隠していたベールを外し素顔を露わにして、サクラは答えた。
「はい、覚悟は出来ています。ですが、これは私の独断でやったこと。モモカちゃんは何も関係もありません……それだけは、お父様に伝えておいて下さい」
「……承知致しました。では、そのように」
紳士風のお辞儀でサクラに敬意を示すと、忍者のように音も立たず、その場から藤村が姿を消した。
「お姉ちゃん!私のせいなのに!!」
「いいの、モモカちゃん。あとは、私が頑張って……お父様と、交渉してみる。勇気を持てたのは、モモカちゃんのお陰だよ。ありがとう」
そんな会話を取り巻きに聞いていた植村は、驚いてアスカの顔を見た。
「今……龍宝サクラって!?」
「そうだよ。白石アヤメっていうのは、偽名。その正体は、龍宝グループ総帥の娘・龍宝サクラだったってわけ」
「え。その口振り……気付いてたの!?」
「うん。前から、面識あったからね〜。つっても、術を使われるまで、全く分からなかったけど」
唖然とした顔で再び遠目から、植村は龍宝サクラの素顔を見つめた。
「確かに、凄い術だった。あれだけ広範囲に散らばっていた炎を、一瞬で消し去っちゃうなんて」
「あれが、龍宝サクラのユニークスキル【聖女】の力。神様の加護を受けて、様々な奇跡を発動させることができる。ヒーラー性能としては、トップクラスのティアだね」
「そんなに凄いユニーク持ちなのに、冒険者にならせてもらえないのか……」
「だから、今回のレイドに黙って参加したんじゃない?認めてもらうために、さ」
そう言ってアスカも、まるで親戚の子を見るような視線を龍宝姉妹に向けた。
すると話を終えた“天馬カケル”が、こちらに歩いてくる。
「二人とも、お疲れ様。キミたちの活躍で、何とか攻略することが出来たよ」
「よく言うわ。おいしいとこ、根こそぎ持っていきおって」
「それが、フィニッシャーのうまみだろ?みんなが、時間を稼いでくれたおかげさ……特に」
じっと植村と目を合わせて、天馬は続けた。
「剣術、体術……共に、素晴らしかった。さすがは、アスカの見込んだ男だ」
「え!?い、いやぁ……お役に立てたなら、何よりです」
「いつか、キミとは……本気で、お手合わせを願いたいと思ってるんだ。機会があったら、頼むよ」
「え……まぁ、はい。前向きに、考えておきます」
天馬は笑ってこそいたが、その目は本気の眼差しだったことを、植村は感じ取っていた。
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