聖女

 禄存フェクダの一撃をキマリスが受け止めたのを皮切りに、今度は植村との激しい剣戟が開始された。


 キマリスの猛攻は凄まじいものであったが、そのことごとくを植村も凌いでいく。

 あくまで天馬のお膳立てを整える為なので、無理に攻め込まず、守りに徹していたからというのもあるだろう。


 自動パッシブ【回避】に加えて、避けにくい一撃は光剣クラウ・ソラスを使って防ぐという万全の防御体勢。

 そんな植村の力量を感じ取ったのか、キマリスも攻撃方法を変えてきた。妖しい瞳を輝かせる“混乱にらみ”、うっかりとそれを見てしまい、脳内がジャックされそうになるが……。




【虚飾】が、【精神分析】rank100に代わりました




 油断した植村だったが、即座に【精神分析】が自動発動して、自身の精神を安定させた。

 それは、今まで自分でも気付かなかった【虚飾】の新たな自動パッシブ性能だった。

 スキル保持者の精神汚染を感知すると、自動で【精神分析】が発動して治療を施す。これにより、様々な状態異常を無効化させられるのである。


 見事に“混乱にらみ”を防いだ植村への次なる一手は、蜘蛛の糸。

 しかし、それをも咄嗟に体を前転させて、捕縛されるのを回避する。


 だが、その隙に植村から距離を取るように後方へと足裏の火炎を噴射させたキマリスは、それと同時に念動力を使い、地面に落ちていた武器を投射していく。



 次々と襲ってくる武器を、植村が全て切り払っていると、それに乗じて疫病状態に陥った二人のもとへ、“白石アヤメ”が駆けつける。




「すみません。全体治療オール・リフレッシュは、再使用まで時間が掛かってしまうので……今、個別に治していきます」



「うん。ありがと……サクラ」



「えっ!?ち、違います!私は……」



「……龍宝サクラでしょ?偽名を使って、顔を隠してても分かるって。こんな高度な治癒スキルの使い手なんて、そうそうお目にかかれないもん」




 アスカは治療を受けながら、近くで倒れていた鹿沼には聞こえないほどの小さな声で彼女に語りかける。




「……さすがですね、アスカさん。お久しぶりです」



「やっぱり、サクラか……久しぶり。成長してたから顔半分だけじゃ、すぐに判断できなかったよ。私の洞察力も、まだまだだね」



「みんなを、助けたくて……派手に、やり過ぎちゃいましたね。私も、まだまだです」



「相変わらず、凄かったよ。英傑シリーズ……【聖女】のユニークスキル」




 この世のユニークスキルはチップを埋め込まれた人間の数だけ存在していると言われているが、その系統に応じてカテゴライズされる特殊なユニークというものが、いくつかある。


 神の字が入った“神シリーズ”。『漆黒の鎌』のメンバーに与えられた【玄武】や【朱雀】などの“四聖獣シリーズ”、植村の持つ【虚飾】も“大罪シリーズ”に属すると判明された。

 アスカの言った“英傑シリーズ”とは、そのユニーク一つあるだけで英雄になれるほどの複合効果をもたらすことから名付けられたシリーズであり、天馬カケルの【勇者】、白石アヤメ……もとい、龍宝サクラの【聖女】が該当する。他にも、【賢者】や【戦鬼】などが存在するらしく、現時点で発見されてるのは、その四つだけだった。


 龍宝サクラの持つ【聖女】は、大小様々な奇跡を起こして、治癒や補助などを行うサポートのスペシャリスト的なスキルである。その代わり、奇跡の大きさに応じて術者自身の精神力が消耗してしまう為、乱発は出来ない。RPGでいうところの、マジックポイントのようなものだ。

 それだけ、彼女の起こす奇跡は魔法と呼ばれても遜色ないほどの術式なのである。




「治療、終わりました。これで、元通りに動けるようになったはずです」



「ありがと、サクラ。助かった」



「あの……アスカさん」



「わかってる。サクラの正体は、誰にも言わない。バレたくないから、変装してたんでしょ?しかも、偽名まで使って」




 何でもお見通しといった感じの七海に、敵わないといった表情で、サクラは静かに頷いてみせた。




「なら、少なくとも……私からは、黙っておいてあげる。ただ、もう何人かには勘付かれてるだろうから、ある程度は観念しておいた方が良いかもね」



「はい。大丈夫です……本当に、ありがとうございます」



「私も、嬉しいよ。まだ、冒険者になる夢は諦めてなかったんだね」



「へへ……本当に、何でも分かっちゃうんですね。私のこと」




 サクラの父親が冒険者にさせることに反対だというのは知っていた。だから、ここで彼女が活躍をして、自分の冒険者としての資質を見せつけようとしているのだと、大体の魂胆は予想できた。

 実際に、そのアスカの推測は正しかったのだ。




「んじゃ、さっさと鹿沼さんも治してあげて。良いとこ、見せとかないとね?お父さんに」



「は……はい!頑張ります!!」




 たたっとサクラが、鹿沼レナに駆け寄っていくのを見守ると、アスカも自分のやるべきことを果たすため、植村とキマリスの戦闘に視線を移した。

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