キマリス

 激しく地面に打ちつけられたのにも関わらず、平然と立ち上がってくるキマリスに味方が警戒を示していると、楽観的な一角ツバサが主力兵装でもあるレーザーブレードを構えて言った。




「ソーマは、心配性すぎるんだよ。あんなの、痩せ我慢してすごんでるだけさ。僕が、証明してあげるよ!」



「待て、ツバサ!」




 鳴海の制止も届かず、再び全速力で敵へと突っ込んでいく一角ツバサ。

 突撃してくる彼を、静かに見上げて待ち構えていたキマリスは、絶妙な間合いに相手が飛び込んできたタイミングで右手をかざす。




 バシュッ!!




「うっ!こ、これは……!?」




 敵の掌から放出されたのは蜘蛛の糸。まるで、どこかのアメコミヒーローかのように一角ツバサをパワードスーツごと絡め取って、動きを封じた。




「ぐっ……こんなもの!」




『モノケロース』の出力を全開にして、強引に糸の拘束を破ろうとする一角に、獣と見紛うばかりの突進でキマリスが迫ってくると、強烈な槍の一突きを彼に浴びせた。


 瞬間、バリアを展開させ中の本体ごと貫かれるのだけは阻止した一角だったが、その衝撃によって糸でぐるぐる巻きにされたまま遠くへと吹き飛ばされてしまう。

 その時、落ちたレーザーブレードを発見したキマリスは、指をクイッと上にあげると、スーッとを宙に浮かせた。


 その見覚えある光景に、望遠アプリを使って後方から敵の動向を視察していた鳴海ソーマは推察を確信に変える。




「間違いない……奴が使っているのは、我々が倒した使だ」



「どういうことじゃ!?鳴海!」



「私たちに倒されることで、キマリスの肉体に宿ったのか……理屈は分からないが、蜘蛛の糸、獣の脚力、念動力。どれも、使い魔たちが使ってきた技能。それを、今の奴は使えるということだ」



「なんじゃとぉ?ならば、アイツは……わざと、自分の使い魔をワシたちに倒させたということか!?」




 鳴海と牛久の通話を黙って聞きながら、烏丸クロウは絶好の狙撃位置から、スナイパーライフルの照準をキマリスに合わせていた。




「どんな技を使ってこようが、意識外からの攻撃なら……っ!?」




 スコープ越しに標的キマリスと目が合ったような気がして烏丸の背筋が一瞬、凍った。

 感知能力がズバ抜けているのか、それとも単純に視力が発達しているのか理由は分からないが、奴は完全に


 そう警戒した次の瞬間、敵の念動力によって操られた一角のレーザーブレードが、彼のもとへ凄い速さで飛ばされてきた。




「うあああっ!?」




 ギャンッ!!!




 その一撃は、烏丸のライフルを斬り裂いて、そのまま彼の肩口をもえぐり取った。致命傷にこそ至らなかったものの、ほぼ行動不能な状況にまで追い込まれてしまう。




「おのれ!ワシの仲間を!!」




 ようやく、接敵できた牛久が猛烈なタックルを見舞っていくも、真正面から受け止めたキマリスはアメフトの選手ばりに、その頭を抑え込んで完全に彼を地面に伏せさせる。




「ぬおおおおおおっ!!」




【剛体】を使って体を起こそうとする牛久だったが、彼のパワーを持ってしても敵の押さえつけてくる力に抗えない。

 キマリス自身の肉体の強さはあるだろうが、猛獣イェローの加護を受けて、それは更に強化されていたからだ。


 そんな二人が争っている間に、蜘蛛の糸の捕縛を解いた“一角ツバサ”が、今度は十分な距離を保って、機銃でキマリスに勝負を仕掛けていく。




 ババババババババッ!!




(ここからなら、安全圏で勝負が出来るはず……僕が、敵を引きつける!)




 しかし、そこは今のキマリスにとっては、決して安全な場所ではなかった。

 悪魔侯爵の両足にバ・トイェの炎が纏われると、その噴射によって身体が浮力を帯びていく。





「行かせんぞ!!」




 飛び立とうとする敵の足首を牛久がガシッと掴むも、キマリスは妖しく瞳を輝かせ、彼の精神をジャックする。ジゴの能力“混乱にらみ”だ。


 脳を支配された牛久が、すーっと手を離すと、キマリスは足裏の炎を再噴射させて、一角ツバサに突撃した。




「くっ!」




 そこから始まる空中戦。一角のレーザーブレードと、キマリスの槍が激しい鍔迫り合いを繰り広げる。しかし、純粋な肉弾戦での技術では敵の方に軍配が上がった。


 一角もある程度のトレーニングは積んでるものの、やはり『モノケロース』に依存している部分は大きかったのだろう。

 レーザーブレードを凌ぎつつ、拳や膝で徒手格闘を仕掛けていくキマリス。炎も纏わせている為、パワードスーツの機械装甲越しでも、お構いなしにダメージを与えられる強烈な打撃を打ち込んでいく。


 バチバチとショートを起こす『モノケロース』の装甲板。堪らず距離を取ろうとブースターを噴射するも、ピッタリとそれについて行き、攻撃の手を緩めない。




(くっ!こ、このままでは……!)




 いつでも致命傷を受けかねない状況となり、一角ツバサが珍しく狼狽していると、そこへ援軍が到着した。










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